やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 平成16年度社会保険診療報酬の改定において,新たに「睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置治療の評価」がなされた.具体的内容としては,
 口腔内装置治療が有効であると診断され,医科医療機関等からの診療情報提供料算定に基づき,口腔内装置治療の依頼を受けた場合の評価を行う,睡眠時無呼吸症候群に対する治療法として口腔内装置治療を依頼された場合について,床副子を準用して評価を行う.
 この文言は,口腔内装置治療は医科との連携を基本として成り立つ治療であることを明言している.
 編者は,大学病院歯科口腔外科で睡眠時無呼吸症候群の歯科的治療を行ってきた経験から,睡眠障害の多様性を十分に理解したうえで治療にあたり,常に患者さんの情報をお互い(歯科医療機関と医科医療機関)に共有して初めて患者さんにとって良い治療成績が生まれることを経験してきた.
 今回の改定で,口腔内装置治療が評価されたことは,保険診療から除外されていた潜在的な睡眠時無呼吸症候群の患者さんにとっては大きな福音といえる.一方,口腔内装置治療を行う歯科医師は,睡眠呼吸障害という新たな分野で大きな責任を負ったと理解すべきである.
 「睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置治療」の社会保険診療導入は,医療提供側と行政の尽力,さらにはこれまでの長い間,各学会で地道にかつ継続的に研究を発表し続けてこられた多くの先生方の研究成果が科学的根拠として取り上げられて成し遂げられたものである.
 日本睡眠学会では,認定医師,認定歯科医師,認定臨床検査技師の制度を立ち上げているが,そのなかで「認定歯科医師」の制度を確立し,歯科医師の独自の立場を学会として担保している点は注目される.この点からも,本治療を担当する歯科医師には睡眠障害に対する正しい知識の習得と今後の絶え間ない努力が望まれる.
 本書は,睡眠時無呼吸症候群に対する診断と口腔内装置治療に,多くの歯科医師の先生方が参加していただけるように,睡眠呼吸障害の概説,口腔内装置作製,療養指導までをできるかぎりわかりやすく解説した.その基本は,以下のとおりである.
 1.睡眠障害,睡眠呼吸障害のなかでの睡眠時無呼吸症候群の位置づけを明確にする
 2.医科・歯科の連携医療であることを前提とする
 3.社会保険診療報酬に沿っている
 4.事故を起こすことのないよう,知識を理解する
 5.口腔内装置での治療中は,継続的に療養指導を行い,合併しやすい疾患治療の継続を促す必要性等に留意している.
 口腔内装置治療を始めるにあたり,本書を読まれた先生方が睡眠治療に積極的に参加され,さらに研鑽を積まれて質の高い診療が行われ,多くの睡眠時無呼吸症候群の患者さんの救いになることを願っている.
 平成 16年8月20日
 編者一同
睡眠時無呼吸症候群の歯科保険診療―医科・歯科連携― CONTENTS

 略語・睡眠学用語

睡眠時無呼吸症候群の診断と治療 塩見利明
 はじめに
 睡眠学とは
 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
  1)SASの定義と臨床症状
  2)SASの病態
  3)SASの頻度と肥満
  4)無呼吸の定義と種類
  5)OSASの病態と合併症
  6)CSASの病態と合併症
 睡眠を客観的に評価できるか
  1)睡眠ポリグラフ検査(PSG)
  2)睡眠段階分類の国際基準(RK)
 SASも睡眠障害のひとつ
  1)睡眠障害の国際分類(ICSD)
  2)改定中の睡眠障害の国際分類(ICSD-II)
 AASM報告書から睡眠呼吸障害を学ぶ
  1)AASMによる閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群の診断基準
  2)閉塞性睡眠時無呼吸・低呼吸イベントの定義
  3)呼吸努力関連覚醒反応イベント(Respiratory effort related arousal;RERA event)
  4)無呼吸の重症度判定規準(AASM)
PSG以外の OSASの簡易診断法 篠邉龍二郎
  1)パルスオキシメータ
  2)携帯用簡易無呼吸検査装置
 鼻と喉の(耳鼻咽喉科的)診察
  1)口蓋扁桃肥大(Mackenzie分類)
  2)鼻腔通気度検査
 OSASの治療法(医科との連携)24
  1)NCPAPなどの在宅呼吸療法
  2)減量療法(ダイエット)
  3)外科手術
  4)薬物療法
  5)その他(対症療法)
歯科との連携:歯科への OA治療の紹介 塩見利明
OSASの診断に必要な検査とデータの読み方 吉田和也
 終夜ポリグラフ検査
 1.睡眠に関するパラメーター
 2.呼吸様式に関するパラメーター
 3.ガス交換障害に関するパラメーター
 4.その他のパラメーター
 5.簡易型睡眠モニター
 閉塞部位画像診断
 歯科外来で診査すべき項目
 1.年齢,性別
 2.身長,体重,肥満度
 3.日中傾眠
 4.セファロ分析
 5.口腔内外の視診

■歯科における口腔内装置治療の実際
歯科で可能な治療法 吉田和也
 口腔内装置治療
 口腔外科的手術療法
 その他の治療法
口腔内装置治療の適応 吉田和也
 形態的適応
 PSGの結果による適応
口腔内装置治療と装着後の評価 吉田和也
 AHIの変化と臨床症状
 PSG検査結果の変化
歯科における検査 歯科的な適応の診断(顔面,口腔内,顎骨) 江崎和久
 口腔内一般検査(歯周組織検査を含む)
 「いびき音テスト」による診査
 口腔診断模型
 パノラマ X線写真
 規格 X線写真
 CT,MRI
 適応外症例
口腔内装置作製の手順 山田史郎
 はじめに
 本印象と咬合器装着のための咬合採得
 下顎位置の決定
 咬合器上で上下一体化する装置
 使用可能になった時点での呼吸状態の評価
 口腔内装置治療中の療養指導
 口腔内装置の破損と修理
 適応外症例
 患者さんへの説明の徹底と生活習慣改善を促す説明書の配布
口腔内装置治療歯科保険請求の実例 保険歯科研究会
 1.基本的な保険診療録記載例
 2.歯科医院から PSG(終夜ポリグラフィー検査)依頼を行うときの例
 3.仮固定後下顎位の変更が必要なときの例
 4.口腔内装置治療が不可能な症例
 5.簡単な歯科処置を先行させる必要があるときの例

■睡眠時無呼吸症候群における口腔内装置治療の指針