やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 奥野善彦 大阪大学歯学部歯科補綴学第二講座教授
 江上勝二 東京都江東区ユアーズデンタルラボラトリー

 現在,人口の高齢化が急速に進みつつあり,有床義歯の重要性がいっそう増大することは確実である.すでに多数の歯を喪失した顎に対して装着される義歯は,これらの欠損に対して形態的機能的回復をはかるばかりでなく,歯,顎堤,顎関節などの残された口腔関連組織の健康保全に貢献するものでなければならない.特に支台装置については,広くキャストクラスプが使用され,また,近年コーヌスクローネも高く評価されている.しかし,これらを負担する文台歯の健康が最も憂慮されるところである.
 一方患者側からの可撤性義歯に対する不満は大きく,装着感よく,美しく,よく噛める義歯に対する期待は大きい.そこで義歯の設計が特に重要となるが,これは,その欠損様式や残存歯,顎堤,咬合の状態のほか,患者の感覚など歯科医師側からの口腔内の生物学的情報と,歯科技工士側からの主として理工学的情報とが相互に関連し,その結果3次元的な立体構成がなされていくことにより成り立つものである.
 しかしながら,通常技工指示書は2次元的な表現がなされ,情報量の少ないものが多い.そこで歯科技工士はこれから3次元的な構成をはかる必要上,さらに多くの情報を必要とする.そこで歯科医師と歯科技工士との間に情報のフィードバックが繰り返されて,しだいに,製作する義歯のイメージが立体化されてゆくのである.
 これらのプロセスは,多く,歯科医師,院内技工士と院外ラボラトリーの三者によるディスカッションを経て,相互に理解と連携を深めながら構成される.さらに装着後は,歯科衛生士がデンチャープラークコントロールなどのアフターケアに重要な役割を担当する.
 このように患者を中心として,三者が相互に専門分野に対する理解と認識を深めつつ義歯の成功へ向かって努力しなければならないと考える.
 本書では,成功する義歯の立体的設計・製作上のプロセスを,コーヌスクローネとキャストクラスプ・アタッチメントを支台装置とする臨床例に基づき呈示するとともに,それぞれの支台装置に関する基礎的知識についても解説した.
 このような歯科医師と歯科技工士または院外ラボラトリーのコンビネーションによる義歯の完成までのプロセスを追うことを企画したところ,多くの御賛同を得て本書が完成した.御協力を厚く感謝申上げるとともに,本書が今後成功する義歯製作にお役に立てれば幸いと考える.
Part 1.コーヌスクローネ編
Question&Answer
 どのようにしてコーヌス角度を決定するのか…三田宰史
 内・外冠にどのような金属を用いたらよいか…三田宰史
 どの程度の維持カが望ましいか…宮地建夫
 安定した維持カを得るための技工上の要点は…小峯章
 内・外冠維持カの調整はどのように行ったらよいか…水村竹弘
 コーヌスクロ一ネ製作時にどのような特殊器具を用いるか…榎戸義明
 コーヌスクローネ製作上の要点は何か…冨塚秀正
 コーヌスクローネの主な製作手順は…渡辺清志
 コーヌスクローネ製作上の代表的エラーは…久野富雄
 コーヌスクローネ内冠研磨法の種類・要点は…蟹沢治幸
 コーヌスクローネ内冠はどのような形態が望ましいか…栗原英二
 Negativwinkelの問題にどのように対応するか…黒田昌彦・玉置博規
 コーヌスクローネ外冠と金属床との各種連結法は…小柳津純男
Case Presentasion
●座談会●コーヌスクローネを応用した義歯の立体的な設計・製作指針は〜テンポラリーレストレーションの積極的活用を〜…宮地建夫・青木智彦・玉置博規・江上勝二
 歯式7543┻456にコーヌスクローネを応用したパーシャルデンチャーの製作…滝沢正
 シンプルな設計をテンポラリーレスト一ションで確認した症例…黒田昌彦・玉置博規
 歯式7654┻123 32┯345にコーヌスクローネを応用したパーシャルデンチャーの製作…青木智彦
 テンポラリーデンチャーで顎位の変位を確認し術後対応のため3ブロック構造とした症例…江上勝二・上野秀夫
 長期にわたる治療でテンポラリーデンチャーが補綴設計の指針となった症例…宮地建夫・見城恭介・辻村智之
 歯式65┯34にコーヌスクローネを応用したパーシャルデンチャーの製作…渡辺清志・松崎正樹
 歯式42┯2345にコーヌスクローネを応用したパーシャルデンチャーの製作…石田修・松本直之
 歯式63┻7にコーヌスクローネを応用したパーシャルデンチャーの製作…近藤桂市・中村文美

Part 2.クラスプ・アタッチメント編
Question&Answer
 人工歯の排列スペースが少ない場合にどのように対応するか…岩崎直彦・阿部八郎
 想定した維持力のキャストクラスプを製作するための要点は何か…野首孝祠・小野高裕・奥野善彦
 バーの強度に対する厚さと幅の影響は…野首孝祠・前田芳信・奥野暮彦
 どのようなフィニッシンタラインの形態が望ましいか…安藤申直
 ニッケル・クロム合金とコバルト・クロム合金の違いは何か…森博史・大崎千秋
 クラスプ内面に合致した陶材焼付冠を製作するための要点は…加藤武彦・小池君司
 クラスプ内面の研磨操作上の注意点は…山賀保・野首孝祠・奥野善彦
Case Presentasion
●座淡会●キャストパーシャルデンチャーの立体的設計・製作上の要点は〜歯科医師と歯科技工士との密接なコミュニケーションが必要〜…奥野善彦・堤嵩詞・岡崎秀一
 歯式3┳3にKratochvil TypeのI-bar・コンビネーションクラスプを応用したパーシャルデンチャーの製作…寺西邦彦・狩野敦志・川島哲
 歯式3┳3にI-bクラスプを応用したパーシャルデンチャーの製作…岡田周造・嶋谷雅博・嶋渡壮・佐藤嘉寛
 歯式┓3にワイヤークラスプ,歯式┏34に双子鉤,歯式┏5に根面板を応用したパーシャルデンチャーの製作…藤原顕・渡辺克美・岡崎秀一
 歯式73┻13567 321┳234にキャストクラスプを応用したパーシャルデンチャーの製作…人見宗司・堤嵩詞
 歯式754┻345にキャストクラスプ,歯式┗6にD-E HlNGEを応用したパーシャルデンチャーの製作…小室甲・田中淳三・前田憲興
 歯式5┳4にキャストクラスプを応用したパーシャルデンチャーの製作…森博史・伊藤太志・太田功