やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 検査室には,さまざまな患者から採取された数多くの検体が届けられる.感染症患者からの検体に限らず,患者検体のなかには何らかの病原体が存在している可能性がある.また,採血室や生理機能検査室では,臨床検査技師が直接患者と接することも少なくない.すなわち,検査室のスタッフは日常業務のなかで病原体に曝露されるリスクを抱えている.このような状況を考慮すると,検査室内で働くすべての人達にとって,感染管理は重要なことだと思われる.
 しかし,実際にどこまで検査室の職員が感染の危険性を認識しているであろうか? また,日常の検査のなかで対応が徹底されている施設がどれだけあるだろうか? 残念ながら,現状には改善の余地が多くあるのではないかと思われる.そこで今回の臨時増刊号では「必携 検査室の感染管理」と題して,検査室における感染管理をテーマとして企画した.
 繰り返しになるが,検査室内における感染のリスクは微生物検査室のスタッフにはとどまらない.どの検体にも病原体は存在する可能性があり,どの患者も何らかの病原体を保有している可能性がある.検査室で勤務する方々は,まずそのリスクをあらためて認識する必要がある.またこのたび,「臨床検査技師等に関する法律」が改正され,新たに各種患者検体の採取を臨床検査技師が行うことが認められるようになったことで,業務の範囲が広がり感染のリスクも高まったと思われる.
 なお,臨床検査技師はみずからを感染から守ることも重要であるが,患者への配慮も不可欠である.検査室には多くの患者が検査を受けに来るため,患者から患者に病原体が伝播する状況も想定される.そのため,検査室を介した患者間の感染が起こらないような対策も講じる必要がある.
 本書がきっかけになって,検査の現場で働く方々にあらためて感染管理の重要性を認識していただくことを望んでいる.また,本書を参考にしていただいて貴施設の管理体制が充実する一助となれば,筆者を代表してこの上ない喜びである.
 2015 年12 月
 月刊『Medical Technology』編集委員会
 東京医科大学 微生物学分野 主任教授 松本哲哉
 発刊にあたって 松本哲哉

1 検査室におけるバイオセーフティ,バイオセキュリティの考え方
 重松美加

2 検査室の状況に当てはめた感染対策の基本
 佐藤智明

 感染管理に役立つ文献・WEB サイト(1)

3 滅菌と消毒
 1)検査室業務に関連した滅菌法 岡崎充宏・岸井こずゑ
 2)有効な消毒薬の使用法 尾家重治

 感染管理に役立つ文献・WEB サイト(2)

4 各検査業務における感染対策の実践
 1)採血 大西信行
 2)尿・糞便検査 茂籠邦彦
 3)血算・血清・生化学的検査 横村 守
 4)病理学的検査 平澤 浩
 5)微生物検査 西 功
 6)遺伝子・核酸検査 福地邦彦
 7)超音波検査 鯉渕晴美
 8)生理機能検査(超音波検査以外) 金光敬二・仲村 究

5 感染患者に接する場合の対応
 1)流行性呼吸器疾患患者 比嘉 太
 2)消化器疾患患者 飯沼由嗣
 3)ウイルス性流行性疾患患者(麻疹など) 松本哲哉
 4)肺結核が疑われる患者 樽本憲人・大野秀明
 5)各種薬剤耐性菌の排菌患者・保菌患者 松本哲哉

6 高病原性病原体の感染が疑われる患者の検査
 1)鳥インフルエンザ(H5N1)および(H7N9) 影山 努
 2)ウイルス性出血熱 西條政幸
 3)バイオテロ病原体,その他 加來浩器

7 感染リスクに遭遇した際の対応
 1)針刺し 照屋勝治
 2)体液曝露 光武耕太郎
 3)結核菌曝露 永井英明
 4)培養後病原体への曝露 勝見真琴・豊川真弘

 感染管理に役立つ文献・WEB サイト(3)

8 感染性医療廃棄物の取り扱い
 倉井華子・向野賢治

9 検査スタッフの感染予防・健康管理
 1)職員検診 水谷 哲・寺地つね子
 2)IGRA の活用法 福島喜代康
 3)流行性ウイルス性疾患のワクチン接種・抗体価検査 吉田 敦・田中由美子・奥住捷子
 4)その他の病原体( 肝炎ウイルスなど) のワクチン接種・抗体価検査 山田典栄・四柳 宏

 感染管理に役立つ文献・WEB サイト(4)

10 職員への感染対策教育
 矢野邦夫

11 ICT メンバーとしての検査技師の業務
 1)多職種連携における検査技師の役割 村上日奈子
 2)微生物検査の集計と解析法 阿部教行
 3)アウトブレイク発生時の検査技師の役割 中村竜也
 4)感染管理加算と地域連携の実際 幸福知己

12 感染管理にかかわる法令・届出
 川上小夜子