やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 近年,遺伝子解析研究の進展により,疾患の分子病態が解明されてきた.その成果に基づく遺伝子関連検査の開発と実用化による診断,治療や予防への応用展開が著しい.その対象は,さまざまな診療領域において,早期診断から個別化治療や予防へと応用範囲が広がり,保険収載項目の拡大により利用が促進されている.遺伝子関連検査の適正な実施と利用による良質な医療が求められる.一方,遺伝子関連検査または遺伝子解析の院内実施が困難で,外部機関に委託している施設も多く,医療従事者において不慣れな場合が多い.総合的な検査診断には,院内実施の有無にかかわらず,検査の流れや測定上の課題を把握したうえでの適正な検査利用,結果報告や解釈が必要となる.このような検査と医療のかかわりの新たな展開の中で,遺伝子関連検査の院内実施の有無にかかわらず,検査室としての診療支援において,遺伝子関連検査はどのように使用されているのか,従来検査との使い分けや検体の取り扱いなどの知識は,検査室に働く者として必要不可欠である.
 遺伝子関連検査は多岐にわたり,その複雑な測定プロセスのため,一般の検査室に勤務する検査技師にとってわかりにくい領域である.そこで,本臨時増刊では,一般の検査室に勤務する検査技師をはじめ初学者を対象に,遺伝子関連検査に関する新たな診療の展開に対応していくために必要な知識について,わかりやすく実践的なマニュアルとしてまとめた.遺伝子についての基礎知識から,遺伝子関連検査の基本と今日の診療における位置づけ,解析技術や実際の検査手法まで,診療の展開に対応するために必要な情報を整理した.
 前半部分(第I章)に,遺伝子関連検査の適正利用に必要な基礎知識について解説し,後半部分(第II章)では,検査の現場で役立つ情報の実践的な解説とした.第I章の遺伝子関連検査に必要な基礎知識では,遺伝子異常や染色体異常と疾患との関連に始まり,遺伝子関連検査の分類と利用上の留意点,主要な患者診療領域(感染症,血液,がん,遺伝,輸血・移植)での従来法との比較・使い分けなども含めた検査意義や有用性,遺伝子情報の管理,遺伝診療の流れと患者説明・遺伝カウンセリングについて記述した.第II章の遺伝子関連検査の実践編では,検体の取り扱い,おもな検査法の特徴や原理,結果判定,結果の記載と読み方,検査室が備えるべき設備環境,安全管理や精度管理・精度保証,遺伝子検査室の立ち上げのポイント,代表的な遺伝子関連検査における実際の流れやポイント,ピットフォールとトラブル対策事例,検査を外注に出す際の留意点などについて記述した.また,ゲノム解析技術など先進技術と応用分野でも,本編の理解を助けるために必要性の高い項目,話題の検査や注目されている事項をコラムとして取り上げた.
 検査室としての対応に必要な事項は,すぐに参考にできるよう,保険収載の検査項目や検査法,検査機器,検体の取り扱い方,報告様式と結果解釈など実践的な情報が整理されている.実例を含め具体的な検査の流れがわかりやすく解説されており,従来にない実用的なマニュアルとして完成した.本マニュアルは,日頃の検査業務において,遺伝子関連検査の理解を深め,検査室対応の参考となる貴重な資料として活用いただけるものと確信する.遺伝子関連検査が適正に実施・利用され,それに基づき良質な検査業務,患者診療に寄与することを願い巻頭の言葉とする.
 2012 年12 月
 東海大学医学部 基盤診療学系臨床検査学/東海大学医学部付属病院 臨床検査科 教授 宮地勇人
 発刊にあたって(宮地勇人)

I 遺伝子関連検査に必要な基礎知識
 1.遺伝子異常と疾患(福地邦彦)
 2.染色体異常と疾患(井戸田 篤)
 3.遺伝子関連検査の分類(堤 正好)
 4.遺伝子関連検査でわかること−患者診療における有用性
  1)感染症診療における遺伝子関連検査(浅井さとみ・宮地勇人)
  2)血液診療における遺伝子関連検査(東田修二)
  3)がん診療における遺伝子関連検査(菅野康吉)
  4)遺伝医療における遺伝学的検査(小杉眞司)
  5)輸血・移植医療における遺伝子関連検査(田野崎隆二)
 5.染色体検査でわかること(FISH を含む)(藤田和博)
 6.院内・検査室における遺伝子情報の管理(斎藤加代子・菅野 仁・福島武春・川島 眞)
 7.遺伝医療の流れと患者説明・遺伝カウンセリング(鳴海洋子・福嶋義光)

II 遺伝子関連検査−実践編
 1.検体の取り扱いと基本的な手技
  1)検査目的と検体の種類(宮地勇人)
  2)検体の採取,保存,取り扱いの注意点(宮地勇人)
  3)核酸(DNA,RNA)の抽出法(竹田真由)
 2.遺伝子検査技術・分析法
  1)遺伝子増幅(佐藤優実子)
   PCR(RT-PCR) / Real-time PCR / LAMP / TMA / LCR / NASBA / TRC / SDA / 分岐DNA プローブ法
  2)遺伝子の検出・解析(中條聖子・別府弘規)
   DNA プローブ法 / サザンブロット / ノーザンブロット / DNA マイクロアレイ / CGH 法 / マイクロサテライト解析 / シークエンス解析 / 核酸の電気泳動
  3)in situ hybridization(FISH,SISH,CISH)(池田 聡)
  4)一塩基多型(SNP)解析(西岡淳二)
   PCR-RFLP 法 / SNaPshot 法 / TaqMan PCR 法 / インベーダー法 / DNA チップ法 / Q プローブ法
 3.遺伝子関連検査の結果の記載方法(中山智祥)
 4.遺伝子検査で使用する機器・必要な設備(日高惠以子・久保田紀子)
   遠心分離装置 / 滅菌装置 / 真空乾燥機 / 分光光度計 / インキュベーター / 核酸増幅装置 / 電気泳動装置 / 写真撮影装置 / DNA シークエンサー / 核酸自動抽出装置 / 安全キャビネット / クリーンベンチ
 5.遺伝子関連検査における安全管理(大島利夫)
 6.遺伝子関連検査における精度管理・精度保証(上野一郎)
 7.遺伝子検査を始めよう
  1)遺伝子検査室の立ち上げ(横田浩充)
  2)遺伝子検査を成功に導くための実施上の確認ポイント(南木 融・大木圭子)
 8.おもな遺伝子関連検査における実際の流れやポイント
  1)抗酸菌感染症における核酸増幅検査(増川敦子・浅井さとみ・宮地勇人)
  2)一般細菌における核酸検査(仁井見英樹)
  3)肝炎ウイルスの核酸検査(行正信康)
  4)白血病キメラ遺伝子検査−BCR-ABL mRNA 検査法の実際−(庄司月美・渡邉珠緒・大森勝之)
  5)悪性リンパ腫における遺伝子検査・染色体検査(FISH 法)(松田和之)
  6)固形腫瘍における遺伝子検査(森谷 純・山谷幸恵・畑中 豊・松野吉宏)
  7)単一遺伝子疾患の遺伝学的検査−qPCR-HRM 法を用いた遺伝性大腸癌の責任遺伝子の病的変異解析−(糸賀 栄)
  8)薬物代謝酵素の遺伝学的検査(渡邉 淳・佐々木元子・島田 隆)
  9)HLA-DNA 検査(小島裕人・佐治博夫)
 9.ピットフォールとトラブル対策事例(林 邦彦)
 10.遺伝子関連検査を外注に出す際に押さえておくべきポイント(山口敏和)

COLUMN
 (1)オーダーメイド医療(中谷 中)
 (2)法医学における遺伝子検査関連トピックス(那谷雅之)
 (3)ファーマコゲノミクス関連の指針・ガイドライン(鎌谷直之)
 (4)コンパニオン診断薬(登 勉)
 (5)次世代シークエンサーの臨床応用(井ノ上逸朗)
 (6)プロテオミクスの検査応用(野村文夫)
 (7) DTC 検査の現状と問題点(高田史男)
 (8)遺伝子検査に有用なインターネット活用(齋藤邦明)
 (9)エピジェネティクスの検査(前川真人)
 (10)生活習慣病における遺伝子多型の意義(羽田 明)

 遺伝子検査関連用語索引