やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 わが国における母性看護を取り巻く環境は,ここ数年大きく変化してきています.本書の初版が発行された11年前より問題となっていた少子化には歯止めがかからないばかりか,急激な産科医不足・助産師不足など医療提供者側の新たな問題もあいまって出産環境などに大きな変化が生じています.
 また少子化による人口構造や社会構造の変化により,女性の生き方,女性や母子を取り巻く生活環境,家族構造や家族のありかたも大きく変化してきており,ライフサイクルを通した母性(女性)へのかかわりは一層重要になってきています.
 このような背景の中で,今回,第2版の出版にあたり,初版出版当初からのWomen's Healthの概念をとりいれた全体の構成や考え方は一貫していて変更はせず,法律・制度改正を含め,現代の社会情勢などに即して内容を全体的に見直し,不足分を加筆し,修正を加えました.新たにおこした項目は,母性看護と倫理,母性看護におけるマネジメントです.そのほか,多くの読者の皆様方の貴重なご意見を参考にさせていただき,母親役割取得とライフサイクル別の看護の部分,また地域の視点を入れ込んだソーシャルサポートと虐待の部分はとくに意図して加筆しました.
 さらに,学生の自己学習を助けたり,学習効果をあげるために,各単元ごとにこの項で必ず学んでほしいことを「学習のねらい」としてあげました.また本文中には欄外に内容が一目瞭然にわかるようキーワードを追加しました.
 以上のような主旨で改訂しました本書を是非,日ごろの講義や学生の自己学習に活用していただけることを願っています.
 最後に,執筆を快くお引き受けいただきました諸先生方,改訂にあたり最後まで暖かく,また心強いご支援をいただきました医歯薬出版編集部に心から深謝いたします.
 2007年2月
 編者

序文
 近年,わが国においては国際化の波が急激におしよせ,また少産少死が定着化していくなかで,社会構造全体が大きく変化してきています.そのようななかで,女性の社会進出にはめざましいものがあり,母性看護学の対象である女性および母子をとりまく生活環境は著しく変化してきています.
 一方,看護界では看護理論が次々に発表され,看護をより科学的に追究する動きはさかんになり,看護理論をどのように看護実践に活用していくかが具体的また積極的に示されてきています.
 このような背景のなかで,母性看護をこれまでのように妊娠・分娩・産褥主体の狭義にとらえるのではなく,広い視野にたってもう一度見つめ直し,産む性を強調した母性の考え方にかたよるのではなく,これらも包含したWomen's Healthという概念でこれからの母性看護学の新たな方向性を考慮していく必要性を感じています.
 本書は,以上述べてきたような社会の変化と看護学の進歩のなかで,改めてこれからの「母性看護学」をどのように考え,進めていったらよいのかに焦点をしぼって内容を構成しました.
 本書の特徴は,第一に社会変化に対応した母性看護を考えていけるように生命倫理,多様化する家族,在日外国人やハンディキャップをもつ母子などについて書かれていること,第二に母性看護のなかで理論をどのように活用していったらよいのかについて,第三に女性のQOLの向上をめざしてこれから要求が多くなるであろう広義の母性分野(女性のセクシュアリティ)に対する具体的看護について書かれていることです.
 本書はこのように女性のライフサイクル全体とその周辺に視点をあて,時代の変化にそった斬新的な内容で構成しました.また,執筆にあたっては,看護の側面からみた概論の内容になるよう配慮し,それぞれの分野においてとくに研究を重ねた経験豊かな看護婦・助産婦がすべて担当しております.したがって本書は,看護学生のテキストのみならず,助産婦学生,臨床の看護婦の方々の参考書としてもご活用いただけると思います.
 最後になりましたが,本書の多くの冒険的な試みに賛同してくださり,根気づよく支援し,多大な貢献をしてくださった医歯薬出版編集部に対して,心から深謝申し上げます.
 1996年2月吉日
 編者代表 村本淳子
1 母性の概念と母性看護の意義・役割
 1.母性とは(東野妙子)
    生命を慈しみ,育むもの 母性のネガティブな側面 母性愛の真価が問われるとき 女性のうちに内包された母性とその成長 産む性,産めない性,産まない性
 2.母性看護の意義と役割(東野妙子)
    狭義の母性看護の意義 広義の母性看護の意義 健康問題への対応と母性機能の最大限の発揮 母性看護活動に携わる職種
 3.母性看護の現状と展望
  1 女性および母子の健康の現状とケアニード(森 明子)
   1)思春期・成熟期・更年期からみた対象のニード
    思春期 成熟期 更年期
   2)ライフスタイルの変容からみた対象のニード
    就労 食事・飲酒・喫煙
   3)医療技術の進歩と対象のニード
    出生前診断 不妊治療 障害新生児の治療 出生の場における医療介入
   4)少数派の人びとのもつケアニード
  2 看護ケア提供の場と方法に関する現状(森 明子)
   1)施設における看護ケア
    母子の看護ケア 女性のケア
   2)地域社会における看護ケア
    母子保健施策実施のための住民サービス 母子保健向上のための民間機関 セルフヘルプ・グループ
  3 専門職看護の役割(森 明子)
   1)女性および母子の看護の目標
    母子の看護の目標 女性の看護の目標
   2)看護職の役割
    どのような役割がとれるか
  4 母性看護におけるマネジメント(村本淳子)
    母性看護のケアについてのマネジメント 母性看護サービスのマネジメント 母性看護におけるリスクマネジメント
 4.母性看護と倫理(石井トク)
  1 科学の進展と生命倫理
   1)出生前診断
    胎児診断のあいまいさ 医師・看護師と母親の葛藤 調整のためのアプローチ
   2)多胎妊娠
   3)生命に対する考え方
  2 生殖医療と人の尊厳
    日本産婦人科学会の規制 国の規制 法務省法制審議会による中間報告
  3 人の生命と再生医療
    ヒト受精胚の利用 クローン胚の利用
2 母性看護の変遷と動向
 1.出産をめぐる歴史と変遷(加納尚美)
   1)歴史的にみた海外諸国の出産事情の変遷
    原始時代 原始から古代(〜6世紀) 中世(6〜14世紀) ルネッサンス(14〜16世紀) 近世(17〜18世紀) 近代(19〜20世紀) 現代(20世紀〜)
   2)歴史的にみた日本の出産事情の変遷
    原始から古代 神話時代 古代(6〜8世紀) 古代から中世 近世 近代 第2次世界大戦〜現代 妊産婦の心理・社会的側面への関心の高まり
 2.母子の健康 (加納尚美)
  1 世界の中での母子の健康
   1)世界の人口動態と母子保健
    母子保健用語
   2)母子の健康の動向
    乳児死亡率 妊産婦死亡率 家族計画と避妊 性感染症(STI)
   3)母子の健康に向けての取り組み
    リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
  2 日本における母子の健康
   1)人口動態の動向
    人口の増減 出生に関して 婚姻と離婚に関して 増加する単親世帯
   2)母子の健康の動向
    周産期死亡に関して 乳児死亡に関して 妊産婦死亡に関して 出産の場所と介助者 死産と人工妊娠中絶の動向
   3)母子の健康に関する衛生行政と制度
    母子の健康に関する制度と現状 母子の健康に関する今後の課題
3 女性のライフサイクルとセクシュアリティ
 1.セクシュアリティ(村本淳子)
    セックスとセクシュアリティの違い
   1)人間の性=セクシュアリティ
    セクシュアリティの意義
   2)人間の性行動
    性行動とは 性行動のプロセスと決定要因 健康な性行動とは 性交とは 性反応とは
   3)性アイデンティティ
    セックスアイデンティティとジェンダーアイデンティティ 性アイデンティティとは 性アイデンティティの発達
   4)性と社会の動き
    「性の問題」はなぜ起きるか
 2.女性と男性のからだの違い(村本淳子)
   1)性差とは
    なぜ二つの性があるのか 男女のからだの違いの根拠
   2)染色体による男女の違い
    性染色体と疾患のかかわり
   3)性ホルモンによる性差の現れ
    性ホルモンの働き 性器の違い 体格・体型の違い 筋力・体力の違い 大脳における違い
 3.ライフサイクル各期の特徴と看護
   1)胎児期
    遺伝的な性 性腺の分化 内性器・外性器の分化 脳の分化(藤本栄子 1)〜4))
   2)乳児期
    出生直後の性の決定 性的満足と基本的信頼
   3)幼児期
    幼児期の性行動 性の自認―性アイデンティティの形成
   4)学童期
    学童期の性的関心
   5)思春期
    思春期の特徴 思春期の問題点(村本淳子 5)〜8))
   6)成熟期
    成熟期の特徴 成熟期の問題点
   7)更年期
    更年期の特徴 更年期の問題点
   8)老年期
    老年期の特徴 老年期の問題点
 4.妊娠をめぐる女性の選択(森 明子)
   1)妊娠や子どもをもつことについての女性の選択
    女性たちの自己開発の始まり 選ぶ理由・選ばない理由
   2)避妊に対する意識と実行
    避妊実行率 初交時の避妊率
   3)人工妊娠中絶
    人工妊娠中絶とは 中絶後の影響とサポート
   4)受胎調節
    受胎調節とは 家族計画とは 避妊法に関する最近の知見 受胎調節(行動)に影響する要因 受胎調節(方法)の選択に影響する要因
   5)妊娠をめぐる女性の選択と看護の役割
    援助へのニードがとくに高いと予測できる時期 看護職の援助の方法 看護職の援助の場
 5.母性の発達過程(和田サヨ子)
   1)乳幼児期の発達課題の視点からの母子関係
    母子の身体的接触 信頼感の獲得 生命の肯定 配慮(ケア)
   2)思春期における母性の発達
    性アイデンティティの確立 エロスのもつ意味 ケアの本質 女子学生の母性意識
   3)妊娠・出産体験と発達課題
    母親役割行動の取得 母性行動の発達―看護活動としての分娩の振り返りの重要性 母性行動の三つの適応段階 妊産褥婦への危機介入
   4)更年期に向けての母性の発達
    健全な更年期に向けて
4 母性看護の理論と実際
 1.女性のこころの援助(野口眞弓)
   1)母親になること
    Deutschがとらえた母親の心理 Rubinがとらえた母親役割の獲得 Mercerがとらえた母親役割の獲得
   2)流産・死産・新生児死を経験すること
    胎児を失った後の支援的なケアの枠組み 流産・死産・新生児死の悲嘆過程 流産・死産・新生児死を経験した親が医療従事者に望むこと 赤ちゃんとの別れ
   3)帝王切開術を受けること
    緊急帝王切開術における女性の体験 緊急帝王切開術の前後のケア
   4)先天異常がある子どもをもつこと
 2.女性の健康増進の援助(桃井雅子)
   1)妊婦の健康な生活への援助
    妊婦への看護 妊婦とヘルスプロモーション
   2)妊娠期の看護における看護モデルの適用
    臨床場面における看護モデルの適用について ロイ適応モデル
   3)ロイ適応モデルを用いた事例の展開
    事例:妊婦Aさんの訴え
 3.出産準備教育(毛利多恵子)
    出産方法の多様化に応じた情報の提供
   1)出産の変化と出産準備教育の変化
    出産の場の変化 出産準備教育の世界的変化 産む側からの出産の見直し
   2)これからの出産準備教育
    健康教育理論の変遷からみた出産準備教育 指導型教育から学習援助型教育へ
   3)出産準備教育の内容
    目標と練習
   4)出産を乗り越える方法の理論的基礎
    リラクゼーション リード法―不安-緊張-痛みのサイクルの援和 ラマーズ法 ゲートコントロール理論 漸進的リラクゼーション イメジェリー バイオフィードバック
   5)出産準備教育の評価
    教育者の理念による違い 評価
5 親子・家族関係
 1.父性の発達と父子関係(塩野悦子)
   1)妊娠中の父性の発達
    父親の妊娠期の発達課題 妊娠期の父親の経験的特徴 父親への適応に関連する要因 夫の妊娠へのかかわり方のタイプ
   2)出産後の父性の発達
    出産直後の父親と子のきずな 育児期の父親
   3)父性の発達を促す看護
 2.家族の形成(堀内成子)
   1)結婚の意味
    結婚とは―異文化の継承と新たな文化の創造 結婚に関する儀式が意味するもの 獲得体験と喪失体験
   2)家族の成り立ち
    家族システム 家族システムの特徴―おだやかな不安定性 「家族づくり」のプロセス リフレイミング―固定からの変容
   3)家族システムの変化
    家族のライフサイクルの変化 家族の発達 家族の発達に影響を与えるもの 家族関係の危機が及ぼす影響
   4)現代家族の様相
    家族の要素 家族アイデンティティの多様性
 3.夫婦関係―親への移行(堀内成子)
    夫婦が親への移行期をスムーズに乗り切るには
 4.母子相互作用と母子関係(三橋恭子)
   1)母子相互作用
    子どもの誕生 親が子どもをわかろうとすること 母と子はどのようにしてお互いに知り合うか 子の発達を支える母と子の「あいだ」
   2)発達論における母と子の関係
    (1)母性剥奪説
    (2)アタッチメント
     アタッチメント行動と分離 アタッチメント行動制御説 アタッチメントに関する過去の体験の意味
    (3)生涯発達論
    (4)関連発達論
 5.同胞関係(岸田佐智,佐原玉恵)
   1)危機としての同胞の誕生
    母親の関心の変化と分離状況の体験 上子の問題行動 同胞誕生によるプラス面
   2)同胞誕生時の上子への援助
    上子への準備教育 分離による精神的外傷体験への対策 母親が入院中の援助 退院時や退院後の援助 母親への援助
   3)健康上の問題を抱えた同胞の誕生
    両親の適応状況による影響
   4)同年輩の同胞関係
6 母子をとりまく社会
 1.在日外国人の母子保健(李 節子)
   1)「人」の国際化
    増えつづける在日外国人
   2)国際結婚と「外国人」出生児数
    母親が外国人の出生児数の増加
   3)在日外国人の母子保健統計指標
    新しい外国人(ニューカマー)の母子保健上の問題
   4)在日外国人の母子保健の課題と制度
 2.働く女性と社会環境(李 節子)
   1)女性の就労を困難する問題
    職業と家庭の両立の選択 女性の役割分担に伴うストレス
   2)女性の就労と男女格差
    賃金格差,昇進機会の不平等 男女雇用機会均等法と女子保護規定の緩和
   3)女性が働きつづけるための条件:男女共同参画社会の形成
 3.女性と喫煙(李 節子)
    若年女性の喫煙者の急増 タバコと女性特有の健康問題 喫煙習慣への取り組み
 4.ハンディキャップをもつ母子と社会環境(赤松彰子)
    「五体満足な子」を願うこと
   1)ハンディキャップに関する母の不安
    生まれてくる子に障害はないか 不安はなぜ起きるのか 不安除去のための援助 不安が現実となったときの援助 夫を中心とした家族への援助
   2)障害者の支援のあり方
    生活環境のバリアフリーから,心のバリアフリーへ 知的障害者の結婚 結婚生活への具体的援助
   3)障害をもつ女性として望む援助とは―社会的子育てを考える
    障害をもつ女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ
 5.ソーシャルサポートとネットワーク(毛利多恵子)
   1)ソーシャルサポート
   2)地縁
   3)自助グループ(セルフヘルプ・グループ)
    自助グループ(セルフヘルプ・グループ)の意味 自助グループ(セルフヘルプ・グループ)の種類 女性の健康グループ 自助グループ(セルフヘルプ・グループ)の社会的意義

 文献一覧
 索引