やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 脳卒中は脳の血管がつまったり破れたりするような何らかの血管障害によって,神経麻痺や言語障害などさまざまな症状をもたらす病気です.死亡率は最近の医学の進歩によりしだいに減少してきましたが,高齢化に伴い発症する人の数は多く,他の国と比較してもまだまだ高い比率を保っています.
 また,脳卒中に対する知識の普及と,食生活の改善,日頃の健康管理などの理解度が高まってきており,その予防は国民レベルで向上してきています.しかし,残念ながら現在でも癌などの悪性腫瘍に引き続き脳卒中にかかる人は依然として多く,国民の重要な疾患であることには違いありません.
 脳卒中の多くはある日なんの前ぶれもなく突然発症し,運動障害や感覚障害や言語障害などを生じ,その後遺症に悩まされることが多い病気です.そこで,脳卒中に悩んでいる方のために,患者さん本人をはじめとして,家族の方々のよりよき療養の一助としていただきたく,本書の前身である「脳卒中の生活ガイド」を数年前に発行しました.
 幸い,生活の指導をはじめとして,日頃から思っている疑問点や問題点についてわかりやすくまとめてみた前書が多くの方々からのご好評を得たところから,この度,この間の情報・知識の蓄積も盛り込んで一層の内容充実をはかるため,新編として本書をまとめることになりました.今回は全体の内容構成を整理しながら,新しく介護保険の問題にも頁を割き,新しい制度をどう活用していくかにも配慮しました.
 なお,脳というところは人間のもつ最高の神経中枢なためか,その構造や働きが非常に複雑で,読者の皆様には理解しにくいところがあるかもしれません.わかりやすく解説することを心がけましたが,その点ご容赦いただきたいと思います.
 脳卒中にかかった方々の1日も早い回復とその後のよりよい生活・人生を願うものであります.
 1999年10月吉日 北里大学東病院リハビリテーション科 前田真治
はじめに

脳卒中を知るために:本書の視点と読み方
 1.脳卒中だとわかった人へ
 2.いろいろな読み方

第1章 脳卒中の理解と心がまえ
 1.脳卒中ってどんな病気
 2.脳卒中の病型
  (1)脳出血
  (2)クモ膜下出血
    脳動脈瘤破裂
    脳動静脈奇形
  (3)脳梗塞
    脳血栓
    脳塞栓(心原性脳塞栓)
  (4)一過性脳虚血発作(TIA)
  (5)高血圧脳症
 3.脳卒中はどうして起こるの
  (1)脳卒中の前ぶれ(前兆)は
  (2)脳卒中の誘因(危険因子)
    高血圧
    高脂血症
    肥満
    糖尿病
    高尿酸血症
    心臓病
    飲酒
    喫煙
    睡眠

第2章 脳卒中で倒れたら
 1.もし脳卒中で倒れたら
    救急車や医師に連絡すること
    救急車が到着するまでにすること32
 2.脳卒中の病型別の救急対応
  (1)脳内出血の場合
  (2)脳梗塞の場合
  (3)クモ膜下出血の場合

第3章 脳卒中に伴う症状と障害
 1.運動麻痺
 2.感覚障害
 3.言語障害
  (1)ふしぎな言葉の症状
    頭の中ではよくわかっていて,のどまで出てきているのに言葉が思い出せない
    声が出ないわけでもないのに,しゃべれない
    漢字は読めるのにひらがな・カタカナは読めない
    言葉は話せないのに歌は歌える
    何を言っているか全くわからず,気が狂ったとしか思えない
 4.行動や認識の障害(失行・失認)
  (1)いつも右ばかりしか見ない(左半側無視)
  (2)服をまえうしろに着たり,着かたをまちがえる(着衣失行)
 5.精神機能の低下
 6.失調症
 7.記憶障害
 8.性格や行動面の変化
  (1)左側の大脳半球がやられると
  (2)右側の大脳半球がやられると
 9.感情の変化
 10.脳卒中による「ぼけ」
 10-1.「ぼけ」の誘因と予防
 10-2.具体的な予防法
  (1)外出する機会を増やす
  (2)手を動かし,いろいろなものを作る
  (3)多くの人と話をする
  (4)家族の対応
    家庭内で役割をもたせる
    家族と一緒に暮らす場面を多くする
    何かできたら,ほめてあげる
    緊張をほぐしてあげる
 11.疲れやすく,すぐに寝てしまう

第4章 生じやすい合併症への対応
 1.肺炎
 2.胃十二指腸潰瘍
 3.尿路感染
 4.褥瘡(床ずれ)
 5.けいれん
 6.手が腫れる(肩手症候群)

第5章 脳卒中の治療とリハビリテーション―障害に対してどのような治療を行っていくか
 1.脳卒中急性期に病院で使う点滴
  (1)脳梗塞
  (2)脳内出血
  (3)クモ膜下出血
 2.急性期の後の内服薬
  (1)高血圧の薬
    カルシウム拮抗剤
    降圧利尿剤
    血管拡張剤
    交感神経抑制剤
  (2)高脂血症に対する薬
  (3)抗血小板製剤
  (4)抗凝固剤
  (5)脳代謝賦活剤・脳循環改善剤
  (6)抗けいれん剤
 3.薬で気をつけること
 4.脳卒中のリハビリテーション
  (1)「リハビリテーション」とは
  (2)チーム医療
  (3)リハビリテーションは患者のやる気で決まる
 5.どこまでよくなるの
  (1)肩・ひじ
  (2)ゆび
  (3)下肢
 6.言葉の障害との取り組み
 6-1.失語症
  (1)失語症の症状
    喚語困難
    錯語
    まわりくどい表現
    ジャーゴン
    文法障害
    長い文章を聞いて理解することの障害
    数字をまちがえたり,計算することの障害
  (2)失語症の人に対する接し方
 6-2.構音障害(麻痺性構音障害)
  (1)嚥下障害を伴いやすい仮性球麻痺
  (2)小脳性の言語障害
 6-3.言語障害の改善
  (1)失語症の改善
  (2)構音障害の改善
 7.嚥下障害との取り組み
  (1)仮性球麻痺による嚥下障害とは
  (2)嚥下障害の治療法
    鼻腔チューブ
    胃瘻
    半流動物による水分補給
    嚥下の訓練
 8.排泄障害との取り組み
  (1)脳卒中でみられる排泄障害
  (2)頻尿・尿失禁とその対策
 9.脳卒中を乗り越えて
  (1)障害の重症度とこころ
  (2)発症年齢とこころへのアプローチ
    成壮年期に脳卒中が生じた場合
    老年期に脳卒中が生じた場合
  (3)脳卒中の受容していくこころの過程
  (4)こころの目標
  (5)具体的な方法
    意欲(やる気)を出させる
    努力に対して常にほめること
    目標をもって行う

第6章 退院後の暮らしの準備
 1.住宅改造について
  (1)住宅改造をするときの注意点
  (2)住宅改造をどのようにするのか
    玄関
    トイレ
    浴室
    洗面所
    寝室
    廊下
    居間・食堂
    階段
 2.家庭ではどのように暮らしていけばよいのか
  (1)家庭生活の目的を十分理解する
  (2)現実的な目標を決める
  (3)機能を落とさないようにするには
  (4)家族の協力
    リハビリテーションを進めるうえでよい家族とは
 3.暮らしを豊かにする社会資源
  (1)ソーシャルワーカー,保健婦に相談してみましょう
  (2)身体障害者手帳を作るには
  (3)身体障害者手帳で受けられるサービスは
    重度障害者医療
    税金の控除
    住宅について
    補装具の交付と修理
    日常生活用具の給付
    特別駐車許可
    タクシー料金の補助
    JR・私鉄運賃の割引
    航空運賃の割引
  (4)その他のサービス
    傷病手当金
    障害年金
    ヘルパー(障害者家庭奉仕員)
    緊急一時預かり
    デイサービス
  (5)老人保健施設
    入所サービス
    在宅サービス
  (6)在宅介護支援センター
 4.介護保険について
  (1)介護保険のしくみ
  (2)介護保険の対象となる人
  (3)介護保険の費用
  (4)「介護サービス」の内容
    在宅サービス
    施設サービス
    その他のサービス
  (5)申請からサービス利用開始までの流れ

第7章 脳卒中とどう付き合っていくか(脳卒中のある生活)
 1.食事のとり方
  (1)高脂血症に対する食事療法
    コレステロールの多い人
    中性脂肪(トリグリセライド)の多い人
  (2)高血圧を防ぐ減塩療法
 2.嗜好品のとり方
    コーヒーは飲んでもよいのか
    アルコールは飲んでもよいのか
    タバコは吸ってもよいのか
 3.身のまわりの動作
  (1)食事動作
  (2)洗面・整容動作
    洗顔
    手を洗う動作
    ひげそり
    歯みがき
    髪の毛をとかす
    爪を切る
  (3)更衣動作
    前開きシャツの着方
    丸首シャツの着方
    ズボンのはき方
    くつのはき方
  (4)排泄動作
    ビニール採尿の仕方
    し尿びんの使い方
    ポータブルトイレの使い方
    洋式便器の使い方
    尿意のないときの排尿管理
  (5)移動動作
    乗り移り動作
    歩行について
    杖を使っての歩行
    「寝たきり生活」から「座りきり生活」へ
  (6)入浴動作
    浴槽への出入り
    タオルのしぼり方
    髪の洗い方
    体の洗い方
  (7)起居動作
    寝返りの仕方
    ベッドからの起き上がり
    床からの立ち上がり
 4.生活を少し広げて
    歩行の介助の仕方
    近所への外出
    台所の工夫
    包丁の使い方
    食器洗い
    整理整頓
    洗濯
    階段昇降
    車椅子でのエレベータの乗り降り
    交通機関の利用
    自動車の運転

第8章 脳卒中の再発予防
 1.再びならないためには
 2.再発予防のための十カ条
おわりに

Q&A
・これまで何にも症状がないのに,頭のCT検査をしたら脳梗塞があるといわれました.これはどのようなことですか?
・麻痺した手足は完全に治りますか?
・天気が悪いと,どうして手足がしびれるのですか? また,クーラーの前にいくとしびれるのはどうしてですか?
・片方の手足がずっとしびれているのですが,治るでしょうか?
・失語症者の言葉の回復はどんな順序ですか?
・右ばかり向いて左側のものに気がつかないようです.また,絵を描くと右側だけしか描きません.見えないのでしょうか?
・悲しくもないのにすぐに泣いてしまうのですが?
・脳卒中になって疲れやすく,昼間でもよく寝てしまうのですが?
・どうして肩が痛いのですか?
・理学療法,作業療法,言語療法とはどんなことをするのですか?
・三角巾(アーム・スリング)はどのようになればはずせますか?
・針・マッサージはどうでしょうか?
・右利きか左利きかによって改善の仕方は違いますか?
・失語症の人にワードプロセッサー(ワープロ)やパソコンを使わせてみてはどうでしょうか?
・訓練しないと機能は低下しますか?
・よりよい回復をさせるために家族のできることは何でしょうか?
・飛行機に乗って海外旅行したいのですが行けますか?
・温泉に行ってもよいでしょうか.もし行ってもよければどのような温泉がよいでしょうか?
・1日にどれくらい歩けばよいですか?
・杖は,はずさないほうがよいのでしょうか?
・お風呂に入る時間と温度はどの程度がよいですか?
・性生活はどうしたらよいですか? いつから始められますか?

イラスト/河井良太・古沢博司
表紙デザイン/小川さゆり