やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版刊行に寄せて
 初版の『脳卒中後の自動車運転再開の手引き』は幸いにも多くの読者に歓迎された.本書は,脳卒中患者の運転再開支援にかかわる医療関係者の方々のハンディな入門書としての役割を果たしてきた.今では,脳卒中後の患者を安全に交通社会に復帰支援させることは,リハビリテーション医療の一環として重要であると正式に認知されている.以前は研究会組織であった日本安全運転・医療研究会も学会化し,日本安全運転医療学会へと発展した.このような潮流に伴い,脳卒中患者の運転再開支援を行う病院が全国的に増え,ドライビングシミュレーターの導入や自動車教習所との連携などが進んでいる.しかし,実際に支援を開始してみると,さまざまな問題に直面し難渋しているという話も聞く.
 本書も初版から約7年が経過し,この間に新しい知見が増え,修正を入れて改訂する運びとなった.運転再開支援は,医療関係者だけでできるものではなく,自動車教習所,自動車メーカー,自動車改造メーカーなど多くの関係者との連携・協力が必須な「社会横断的多職種連携」である.そのため,運転再開支援に必要な自動車改造や,自動車教習所との連携の項目を新たに追加した.実際の運転再開支援の実態については,病院における具体的な支援の実例に加えて,地域における運転再開支援の実際や日本版MaaS(Mobility as a Service),自動運転についても触れた.初版同様多くのcolumnを用意し,知識の補強に役立てられるようにした.
 また第2版では新たに,本書で参考にした運転再開関連のWEBサイトを一覧にまとめた.スマートフォンでQRコードを読み込むことで,容易に各WEBサイトにアクセスすることが可能である.
 第2版もこれまで通り常にポケットに入れて,臨床現場で役立つマニュアルとしてご活用いただければ幸いである.
 2024年5月
 武原 格
 一杉正仁
 渡邉 修


はじめに(第1版)
 近年,認知症やてんかん,睡眠時無呼吸症候群などの疾病に起因した交通事故が頻発し,社会的注目を集めている.このなかには,適切に疾病をコントロールしていれば,安全運転が可能であったものも少なくない.脳卒中患者は,高血圧,糖尿病,高脂血症などを適切にコントロールする必要がある.さらに,脳卒中後には麻痺や失調,感覚障害,失語症,高次脳機能障害など多彩な障害が生じるが,生じる障害やその重症度も患者ごとに異なる.さらにてんかんのリスクや,視野障害など新たな医療的管理も求められる.そのため,脳卒中患者をどのように評価,訓練したら安全に自動車運転を再開させることができるのかについては,長年手つかずの領域であった.
 しかし近年,脳卒中患者を適切に評価,訓練することで安全に自動車運転を再開できるという報告が増加し,リハビリテーション領域では急速に関心が高まっている.そのため,多くの教育講演やシンポジウムが各学会で開催され,各地域で研究会も立ち上がっている.さらに,障害者の自動車運転に関する成書もいくつか発刊されてきた.しかしその大きさはコンパクトとは言い難く,臨床現場に持ち運ぶには不便な点があった.
 そこで今回,臨床現場に携帯しやすいサイズで,『脳卒中後の自動車運転再開の手引き』を発行することができた.執筆者の選定にあたっては,新しい分野であり,まだ多くの未解決な課題も残っているなか,精力的に臨床活動を行っている方々にお願いした.お忙しい時間のなかで,編者の意図をご理解いただき大変わかりやすく,ハイレベルでコンパクトにまとまった玉稿をいただくことができた.この場を借りて御礼申し上げる.リハビリテーション領域において,脳卒中患者の自動車運転は安易に許可するものでも,一概に禁止するものでもない.適切に疾病コントロールがなされたうえで,リハビリテーションにより安全運転ができるまで身体機能,高次脳機能を高め,運転免許センターにて適性相談・適性検査を受検するというプロセスをつくることが重要である.また,道路交通法をはじめとした法的知識は運転再開支援には欠かせない.運転再開支援は職種の垣根を越えたアプローチが重要である.未解決のことばかりであるが,本書が脳卒中患者の自動車運転再開支援の手引きになり,安全な交通社会復帰への一助となることを希望する.
 2017年10月
 武原 格 一杉正仁 渡邉 修
 第2版刊行に寄せて
 はじめに(第1版)
1.脳卒中患者への運転再開支援の重要性と最近の動向
 (武原 格)
2.道路交通法の理解
 (一杉正仁)
 column 医師による公安委員会への届出制度(高相真鈴 一杉正仁)
3.病気の管理と自動車運転
 (一杉正仁)
 column 障害者の自動車運転者の推移(高相真鈴)
4.薬剤と自動車運転
 (一杉正仁)
 column 事故が起きた際の主治医の責任(馬塲美年子)
5.運転再開の流れ
 (武原 格)
 column わが国の交差点ではなぜ,右折事故が多いのか?(渡邉 修)
6.運転にかかわる身体機能
 (廣澤全紀 平野正仁)
 column 高齢者事故の特徴(竹田有沙)
7.運転にかかわる高次脳機能
 (渡邉 修)
 column ペダル踏み間違え事故(渡邉 修)
8.運転にかかわる神経心理学的検査とその解釈
 (渡邉 修)
 column 障害者の運転と自動車に関する保険(井上拓也 一杉正仁)
9.自動車改造について
 (杉山光一)
 column 運転支援を目的とした運転の自動化技術(松井靖浩)
10.病院における自動車運転再開支援の実例
 (牛場直子)
 column 家族教室について(武原 格)
11.自動車教習所との連携と実際
 (渡邉 修 森 早穂)
 column 障害者マークについて(武原 格)
12.職業運転再開に向けて
 (井上拓也 大場秀樹)
 column 地域移動支援(大場秀樹)
13.地域における運転再開支援の必要性と実際
 (小林康孝)

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