11月8日（日），熊本県歯科医師会館（熊本市）にて，標記講演会が開催された．
同講演会は，スタディグループKDM（熊本デンティストミーティング／代表：永田省蔵氏・熊本県開業）により企画されたもので，「未来をひらく医院作り―学術と医院マネージメントの総合力―」とのテーマのもと，歯科医師としての研鑽のあり方と，医院経営を含めた臨床スタイル構築の方向性を参加者自身が「自ら考える」ことを目的とした特色ある講演会である．
冒頭に，永田氏より，インプラントや再生療法，CAD/CAMや各種CT診断機器など，さまざまな先端医療，技術が歯科界に浸透するなか，ともすればそれらに関する技術習得に踊らされ，日々の臨床が地に足のついたものでなくなる可能性を指摘．「適切な医療」を実践するための歯科医師としての研鑽の方向性を，企画者・演者・参加者が一緒に考えていこうという同講演会の主旨説明があった．
講演は，熊谷真一氏（静岡県開業），鷹岡竜一氏（東京都開業），牧野 明氏（富山県開業）の3名の演者が登壇．それぞれに臨床家としてどのような研鑽を積み，どのようなスタンスでの臨床スタイルを築きつつあるのかを報告された．
熊谷氏は，「欠損症例とのかかわり」を現在の臨床のメインテーマとするなかで，少数歯欠損～多数歯欠損～少数歯残存の各ステージにおいて考えるべきことについて，各ステージでの難症例への対応をもとに解説された．そのなかで，「理解できることは現症のほんの一面にすぎないこと」「“どう治すか”を考える前に，“何が問題なのか”を探ること」「将来の懸念に対する治療介入は，不確かさとリスクがつきまとうこと」「処置の根拠と目的を明確にするためには記録と経過観察に基づく評価が求められること」など，自身の臨床におけるベースを紹介された．
鷹岡氏は，歯科疾患を慢性疾患・生活習慣病と認識すべきとの前提のもとで，「歯」を診るだけでなく「口腔」を診る視点，さらには「患者」を診る視点の重要性について触れ，いかに「個別対応」を行っていくかという課題について，自身の実践を報告された．未来が読みにくい慢性疾患・生活習慣病を扱いつつ，未来を知りたいという患者の要望に応えていくには，正確な記録に基づく経過観察のなかでの「変化を見逃さない眼」に行き着く旨が指摘された．
牧野氏は，歯周基本治療の実践を中心に，歯周疾患のほとんどは，再生療法などの高度な外科的介入を行わなくとも，歯周基本治療と適切な患者のブラッシングで安定することを，豊富な臨床例から解説．確実な基本治療とメインテナンスによる再発予防こそが，歯科治療の中核となるべきことを強調された．
また，医院マネージメントという側面から，それぞれの臨床のスタイルをいかに医院の特色として打ち出していくかについて，3者それぞれのビジョンが示された．
2時間という枠が設けられた会場を交えてのディスカッションでは，まず，スタッフ教育や院内の情報共有の実際などについてディスカッションが展開された．
熊谷氏は，スタッフの入れ替わりという避けられない事態においても歯周治療の質を維持していくための院内でのスタッフ教育の取り組みについて紹介．牧野氏は，医院の中だけでの教育ではなく，自身の主宰されるスタディグループ全体で行っているスタッフ教育の実践を紹介された．鷹岡氏も，業界全体として歯科衛生士や歯科技工士を大切にしていく姿勢が，歯科医師としての責務と強調された．
また，先端医療に対するスタンスについてもディスカッションは展開し，あくまで天然歯を守ることが歯科医療の使命としたうえで，そのために先端医療をどのように活用していくかという視点が求められているとの，3氏ともに一致した見解が述べられた．
最後に永田氏より，歯科医師としての研鑽の方向性として，情報の一方通行である講演会主体の勉強だけでなく，スタディグループでの研鑽の重要性が指摘された．ディスカッションに長時間を割き，共に考える姿勢を強調した今回のプログラムから，その一部が垣間見られる講演会であった．
