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日本歯科技工学会第40回学術大会 開催される
 9月22日(土)~23日(日),タワーホール船堀(東京都江戸川区)において標記学会が「歯科技工学が示す学術的根拠―Scientific basis for dental technology―」をテーマに開催された〔大会長:松村英雄氏(日大)〕.


 認定士・専門歯科技工士講習会では,豊島義博氏(鶴見大学探索歯学講座)が「診療ガイドライン(情報操作との戦い)」と題し登壇.氏は情報の信頼性が国際的に高く評価されているコクランレビューの作成に携わっており,自身の経験も踏まえながら,今日の医学界における重要な概念であるEvidence Based Medicine(EBM)の進展と,診療ガイドライン作成の流れについて解説した.「根拠に基づく医療」を意味するEBMが提唱されたのは1991年のことである.以降,研究報告やこれらを統合したシステマティックレビューに基づき医療行為を行うことが推奨され,同時に多くの研究報告がなされてきた.しかしながらEBMが広まり始めた当初は,研究デザインばかりを重視した報告が評価され,時には大手製薬企業による情報操作が行われることもあり,決して良い影響ばかりではなかったと言う.現代では,患者にとって意味のある“アウトカム”が重視され,現場で活用するための診療ガイドラインの作成が進められている.歯科においても質の高いガイドラインを作成し,それに基づいた診療を行っていくことの重要性が示唆された.
 松村英雄氏(日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座)による基調講演「専門歯科技工士制度の課題と将来展望」では,2016年度に日本歯科技工学会において制定された専門歯科技工士制度について,導入後2年を経過しての現状と,今後の展望が報告された.本制度の制定以降,認定士から専門歯科技工士への移行や新規の専門歯科技工士の登録が進んでいるが,いくつかの課題も見受けられる.そのひとつが「専門性」をどのように確立するかであり,現在のところ① 歯冠修復,② 有床義歯,③ インプラント,④ 顎顔面補綴の4つの分野を設定しているが,今後名称等について引き続き検討する必要があると述べた.また,研修制度の充実がさらなる専門性の確立,各方面への専門歯科技工士の発信には求められるとし,学会としてこれらを進めていくつもりであると語った.
 若手講演「エピテーゼ・ソマトプロテーゼの現状と使用材料の基礎」にて登壇した萩原圭子氏(群馬県高崎市/株式会社萩原歯研エピテーゼ制作室 メディカルラボK)は,① エピテーゼ製作に使用する4社シリコーン材の比較検証実験の結果,② 生体(可動部位である手首)とシリコーン材とをつなぐ接着材の比較試験の結果,③ それらを踏まえてシリコーン材・接着材を選択した症例の3部構成にて講演を行った.シリコーン材の検証においては粘度,脱泡後の気泡の残存状態,硬度等を比較しており,エピテーゼという可動する軟組織と接着する関係上,柔らかく,流動性が良い,シリコーン材を高評価としていた.接着性の試験においてもやはり流動性の高い材料が有利であったが,接着材には剥がした時にシリコーン側に残留するものと生体側に残留するものがあり,また水に強いアクリル系のものもあるため,部位や欠損の状態,患者のメンテナンスの可否,使用状況に合わせて使い分けることが必要と言及.最後の症例パートでは,それらの材料を患者の主訴に応じて選択しながら患者の心に寄り添う一連の流れが示された.
 教育講演「新たな視点から歯周病と全身疾患を考える」では,落合邦康氏(日本大学歯学部)が登壇.氏は自身の専門とする細菌学の観点から歯周病発生の背景を解説.さらに歯周病は,メタボリックシンドローム,循環器疾患,糖尿病,肺炎等の多くの全身疾患の誘因になると述べ,歯周病を減らすことが,患者の健康のみならず,社会的問題である医療費の削減に大きく貢献すると強調した.またこれを踏まえ,研究の分野においてはこれまで医科から歯科へ情報が発信されることが多い傾向にあったが,これからは歯科の研究が医科の研究・診療に大きく影響を与える時代が来るであろうと論考し,「『歯科学』から『歯科医学』へ,『医科的歯学』から『歯科的医学へ』」と,独自の言葉で今後の歯科研究の発展に向けた提言を行った.
 企画セッション「オリンピックと歯科技工」では,ボート競技で1972年のミュンヘンオリンピックに出場し,その後歯科技工士となった岡本秀雄氏(大分県大分市/株式会社西日本綜合メンテナンス)と,養成校時代の同級生である佐藤幸司氏(名古屋市守山区/佐藤補綴研究室)の2名による講演が行われた.まず佐藤氏が歯科技工とスポーツの関わりについて,特に義歯やマウスガードの製作において,歯科技工士がアスリートに対して重要な役割を果たすことを示唆した.オリンピックに出場するようなトップアスリートと関わることは決して多くないが,日常でスポーツを楽しむ方へ補綴装置を製作する機会は現場でも増えているとし,ボクシングを趣味としている40代女性の要望に応えたケースを供覧した.その後岡本氏が,ボート選手として活躍した頃の様子や歯科技工士養成校時代の写真を見せながら思い出を語り,スポーツに打ち込んだ経験が歯科技工士としての仕事にも活かされたと述べた.
 特別講演「総義歯補綴にみる歯科技工の落とし穴」に登壇した鈴木哲也氏(東京医科歯科大学大学院口腔機能再建工学分野)は,総義歯の形態,人工歯排列位置,咬合様式を中心に臨床上よく見られる“誤解”を説明.義歯舌側の辺縁形態については,「辺縁は軟組織にとどめ,骨の鋭い部分はリリーフを行う」という原則を紹介しつつ,顎舌骨筋線部,後顎舌骨筋窩部,舌下腺部の3カ所に分けて適切な床縁形態の求め方を解説.デンチャースペースに基準を求める頬側に比較して舌側部は自由度が高いが,この部分の作り方が「良い義歯」と「だめな義歯」を分ける分水嶺になるとした.
 排列に関しては,フレンジテクニックにより前歯部を排列して咬合採得を行うと蝋堤のみの咬合床時と比較して下顎位に変化が見られたことを紹介し,顎位が前後的に変化すると臼歯の排列位置や並べられる本数も変わるとして前歯部人工歯排列の重要性を訴えた.また,「Ⅲ級傾向の症例に歯槽頂間線法則で排列した場合は交叉咬合にする」という原則もあるが,それでは舌房の狭窄に加えて咬頭位置の変化による咀嚼サイクルの変化も起こしてしまうことを訴え,なるべく正常排列で行うためにも頬側の床縁をできる限り広く取る必要があることを説明した.
 咬合様式については,過去の研究より食片を噛む時には平衡側も接触していることが明らかとなっているため,どのような咬合様式であっても両側性平衡咬合を取ることが必要であることをまず紹介.そのうえで,頬側が接触しないリンガライズドオクルージョンでは食片の頬側流出による「味を感じにくい」という味覚への影響もあるため,中心咬合位では上顎頬側内斜面(Aコンタクト)を当てず,側方運動時のみガイドさせる「フルバランス様のリンガライズドオクルージョン」が理想的ではないかとして,その理論を解説した.また,前歯の咬合接触は前方運動の停止基準となるため,必ず与えることが重要とも訴えた.

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