第19回日本臨床環境医学会学術集会開催される
7月2日(金),3日(土),北里大学白金キャンパスにおいて,「患者から環境が見える」をテーマに第19回日本臨床環境医学会学術集会(主催:日本臨床環境医学会,共催:日本衛生学会,後援:日本サステナブル建築協会)が開催された.
日本臨床環境医学会は,環境と疾患のかかわりに関する研究の発展を促進し,疾患の予防と治療に努めるために設立され,本年で20周年を迎えた.具体的な内容は,中毒,アレルギー,内分泌,自律神経などにまたがり,環境問題と臨床医学の接点を主題としている.またその環境の内容は,化学環境,物理環境,生物環境と,幅広いものを目指しており,特に枠を限定せず,医療関係者のみならず,他領域の人材を含めた幅広い交流と研究に取り組んでいる.
第19回目となる本学術集会において,歯科関連学術集会以外で初めて,厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)「フッ化物応用による歯科疾患の予防技術評価に関する総合的研究」班(以下,フッ化物応用研究会)のメンバーにより,歯学,医学,栄養学の観点からフッ化物と健康について,シンポジウムが設けられた.
座長を務めた佐藤 勉氏(日本歯科大学東京短期大学教授)より,総論として,医学領域やさまざまな産業分野で幅広く利用され,自然界に広く分布する元素であるフッ素の説明がなされた.通常の飲食物中にはフッ化物が含まれており,人は日常的にフッ素を摂取しているが,その必須性には未だ議論のあるところであるが,齲蝕予防や骨の発育・代謝に有益な働きをもたらすことが示されており,「有益元素」としての位置づけが確立されていると発表された.
次に,このフッ化物応用研究会の主任研究者である,眞木吉信氏(東京歯科大学社会歯科学教室教授)により,「フッ化物の齲蝕予防効果と栄養としての考え方」として,齲蝕予防から咀嚼機能の低下にいたる健康障害のリスク低減をもたらすフッ化物の摂取状況を米国やイギリスなどの欧米先進諸国と日本との状況について説明がなされた.フッ化物は癌や骨肉腫などの原因があるのではないかといわれているが疫学的に認められたデータはまったくないこと,そして,日本においてはフッ化物を栄養素として考えた全身的な応用方法がまったくないため,生涯にわたる健康の維持増進に不可欠な栄養として,フッ化物の局所応用および全身応用による齲蝕予防効果を明確に示すとともに,「日本人のフッ化物摂取基準(案)」を提示した.
板井一好氏(岩手医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座嘱託教授)からは,適量なフッ化物の摂取量では齲蝕予防効果がある一方で,過剰摂取では歯のフッ素症(斑状歯)や骨フッ素症等の原因となること,だからこそ,さまざまな試料中のフッ素含有量を正確に精度よく測定することが必須であることが述べられ,フローインジェクション分析法(FIA)という測定法とその意義についての報告がなされた.
また,西牟田 守氏(千葉県立保健医療大学健康科学部教授)からは,不明な点が残されている人体におけるフッ化物の代謝動態について,フッ化物の吸収量と排泄量が等しくなり摂取量が存在すると考えられるため,現在進行中の定量的解析の研究報告がなされた.
会場いっぱいのシンポジウム参加者は医師や臨床心理士が多かったが,途中で退席する者もなく,終始,熱心に聴き入っていた.発表後の質疑応答では,宮城県内でシックハウス症候群や化学物質過敏症の患者さんを中心に診療にあたられているという医師より,これまでのデータを分析すると,アレルギー反応に関して,確実なエビデンスは得られていないが,個人的にはフッ素に疑問があり,齲蝕予防には効果があるものの,人体には悪影響があるのではないかという質問が投げかけられた.しかし,これまで,日本において100万人近い子どもがフッ化物洗口を行ってきているが,いっさいそのような報告があがってきていないので安心して使用してよいことはもとより,よりフッ素の安全性を解明するためにもその臨床データを提供していただきたいと,シンポジストから質問者に共同研究の申し入れがあったほど活発な意見交換がなされた.
歯科関連以外でのフッ化物応用研究会による初のシンポジウムであったが,同一テーマであっても他領域での見方や考え方,研究結果は異なることもあり,それらを解消していくことこそが人々の健康や環境を守ることにつながるため,今後,他領域でも歯科界からさまざまなことを発信していくことが求められるであろう.