9月7日(日),ベルサール神田(東京都千代田区)において標記講演会が開催され,歯科医師,歯科技工士約400名が参加した.
はじめに「いればのたはごと ~総義歯設計の基準とその原理について~」との演題で登壇した堤 嵩詞氏(兵庫県芦屋市・PTDLABO開業)は,ヒトの口腔内,すなわち日々の臨床は非常に多様性に富んでいるがゆえの難しさがあり,このなかから,“普遍的な基準”を見出すためには,顎口腔系の解剖学的な寸法・比率を考慮し,これを定規(ものさし)とした規格模型で咬合床を製作し,チェアサイドで患者個人の特性を加えることで,患者にとって使いやすく,健康的な総義歯を製作できるとした.そして,経営学者の故・ピーター・ドラッカー氏の言を引きながら,総義歯の「設計・製造過程・製造後」の品質を保つためには,歯科医師・歯科技工士の分業が適切になされることが重要であると指摘.歯科医師においては綿密な「診査・診断」「義歯設計」を行い,それを的確に歯科技工士に指示することが肝要になり,歯科技工士においては歯冠用/床用レジンで模型の上に口腔内を再現する練習を繰り返して,多種多様な口腔内のパターンを引き出しとして持つことが重要であると訴えた.
次いで,阿部伸一氏(東京歯科大学解剖学講座准教授)が「患者に喜んでもらえる総義歯治療―機能解剖学からの解説―」と題して,有歯顎者と無歯顎者における骨形態の違いや新鮮遺体を用いた顎運動再現など,機能解剖を総義歯臨床に取り入れるうえで不可欠となる解剖学や摂食・嚥下機能に関する事項を解説した.また,治療用義歯を用いたトレーニングを行うことで筋線維に適切な負荷がかかり,筋SP細胞(未分化細胞)の分化促進作用が見られるとして,深水氏が取り入れている「PILOT Denture system」の有効性を裏付ける知見を披露した.
最後に,深水皓三氏(東京都中央区・銀座深水歯科開業)が「患者に喜んでもらえるこだわりの総義歯治療─総義歯臨床に試行錯誤する若手歯科医師への指導症例から─」と題して,無歯顎という“非生理”の状態を正常な“生理”の状態へと導くための,治療用義歯によるトレーニングを用いた総義歯治療(PILOT Denture system)の作業手順を示したほか,「総義歯治療の成功例に共通するのは①適切な咬合平面の設定と舌房の確保,②臼後隆起(レトロモラーパッド)を含んだ床外形,③健康な審美性の獲得の3点です」「コーソフトによる適切なimpression makingと患者の機能によるimpression takingにより機能的な形態を治療用義歯に与え,義歯の外側弁を筋肉によって維持させます」といった勘所についても,若手歯科医師の指導を目的として取り組んだ症例などを通じて紹介した.
総義歯治療においては,「機能する形態を総義歯に与えることが重要」(深水氏)であるが,本講演会は,その形態と機能の追い込みを図る一手法であるコーソフトを用いた治療用義歯の活用の有効性を,「臨床」「技工」「解剖学」の観点から示した興味深い内容となった.

※本講演会の内容については,月刊『歯科技工』10月号誌上にてRecord記事を掲載いたします.
※本講演会に関連する深水氏による指導症例については,隔月刊『補綴臨床』37巻2~4号掲載の連載『失敗しない補綴治療のための誌上 Polyclinic』および月刊『歯科技工』36巻4号掲載の連載「こだわりの総義歯 Clinic & Labo Works File Final Case」にも収録されています.