やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会会長
 京都大学名誉教授 住友病院名誉院長
 亀山正邦
 Kameyama Masakuni

 この会も14回目を迎えることになりました.私は最初からこの会に関わってまいりましたが,振り返るといろいろ歴史がありました.しかし,非常に熱心な県知事はじめ長寿科学に対する理解をいただき,非常にスムーズに発展してきました.おかげさまで,琵琶湖長寿科学シンポジウムは,今や日本で代表的な長寿シンポジウムの一つになっております.
 今回は「健康寿命と生活の質」というテーマです.この生活の質,クオリティ・オブ・ライフという言葉は良く使われますが,本当はどんな意味なのかが良くわかっていません.本シンポジウムでも解説があると思いますが,クオリティ・オブ・ライフというのは,もともと人間が住む環境の水や空気といった問題についていわれた衛生学的な言葉でした.それがやがて人間の生活に翻訳されて使われるようになったのです.
 「生活の質」といいますが,例えばがんの患者さんなどの場合には,これを「生命の質」と訳すこともあります.あるいは,人によっては「生きがい」というような訳をつけたりもしますが,要するに幸福感,幸福度が問題になるわけです.
 今回のシンポジウムでも,松林先生から地域にお住まいの高齢者の幸福度はどう計るか,どのようにして向上できるかというようなお話があると思います.そういう意味で幸福感という,かなり自覚的な問題点であるということは理解しておく必要があると思います.
 例えば肝臓の機能が良くなったとか,あるいは血圧が下がったということではありません.血圧が下がったら,クオリティ・オブ・ライフが良くなったかというと,そうではないのです.クオリティ・オブ・ライフを良くするような治療で,しかも血圧が下がれば一番良いということで,治療やケアの面についても,反省の時期に入っているのです.
 介護保険制度でも,単にお金の問題だけ考えてもだめで,成り立ちません.要するにそのようなケアで,いかにその対象になっているお年寄りの方が幸福感に満たされるか,それが主眼なのです.
 今回はかなり大きなテーマで,しかも非常に時宜にかなったテーマだと思います.
 またご都合で本シンポジウムに来られない方もたくさんいらっしゃると思います.皆さん,どの方も現場の方でございますから,どうぞ職場にお帰りになったら,来られなかった方々のために,本シンポジウムの内容をお伝え願いたいと思います.それにより,この会の目的を一層生かせるようにしていただければ大変ありがたいと思います.
 琵琶湖長寿科学シンポジウム
 健康寿命と生活の質
 テーマ (1)高齢者の生活習慣病とQOL
 (2)地域ケア-サービス提供側の視点と利用者のQOL
 ●開催日:1999年11月9〜10日
 ●会場:滋賀県立長寿社会福祉センター
 ●主催:滋賀県・琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会
はじめに…亀山正邦

日本人における脳卒中の予防…亀山正邦
脳卒中死亡率の国際比較とわが国の現状/脳卒中と地理的要因/脳卒中の危険因子/高血圧の治療と脳卒中/アテローム硬化の予防と対策/脳塞栓症(ことに心原性)/糖尿病と脳卒中/無症候性動脈瘤/脳動脈のアミロイド血管症/運動と脳卒中予防・精神身体の健康/脳卒中の一次予防/その他の脳卒中リスク要因と対策/脳卒中予防のガイドライン

高齢者に多くみられる疾患の臨床…飯島 節
はじめに/高齢者に特有の疾患/老年病の特徴/事例1:多くの疾患を合併した事例/事例2:非定型的な症候を呈した事例/事例3:意識障害を主訴とした事例/事例4:不眠,抑うつ,歩行障害を呈した事例/おわりに

生活習慣と肥満…柏木厚典
はじめに/過栄養,余剰エネルギーの貯蔵とインスリン抵抗性/事例/肥満とは?肥満症とは?/生活習慣と肥満/肥満と糖尿病/肥満と高血圧/肥満と高脂血症/生活習慣管理

高齢者の糖尿病-QOLの視点から…荒木 厚
はじめに/高齢者糖尿病の身体機能/高齢者糖尿病の心理機能/高齢者糖尿病の認知機能/高齢者糖尿病の低血糖/簡易栄養食事指導の試み/おわりに

脳卒中の後遺症-後遺症は麻痺だけではない…平田 温
はじめに/高次脳機能障害/痴呆/うつ,その他の精神症状/行動障害(徘徊,夜間せん妄)/仮性球麻痺/運動障害/感覚障害/自律神経障害,性機能障害/視覚障害/てんかん

生活習慣と痴呆-食事因子の重要性…植木 彰
はじめに/生活習慣病と食事栄養/認知機能にも食事栄養素が関係/アルツハイマー病にも食事因子が関係/日本人のアルツハイマー病患者でも魚と野菜の摂取が少ない/食事栄養素とアルツハイマー病の病理過程との関係/抗酸化物質やビタミン,ミネラルの供給源としての野菜/抗動脈硬化,抗炎症作用を示す魚油の重要性/おわりに

地域における痴呆患者と介護者に対する早期対応について-診療所の視点から…藤本直規
はじめに/なぜ痴呆の早期発見が必要なのか?/発症初期に観察される症状/発症初期の痴呆症状に気づくために重要なこと/軽症痴呆患者と介護者への援助/痴呆の早期発見の方法について/軽症痴呆患者に関する問題点/物忘れクリニックの試み/おわりに

高齢者のQOLと健康寿命…松林公蔵
はじめに/健康寿命/高齢者における健康観と医学哲学の変遷/「臓器障害」から「能力障害」へ/医学検査と包括的機能評価(CGA)/香北町健康長寿研究(KLAS)/痴呆と生活の質(QOL)/おわりに

生活のなかでのリハビリテーション-地域ケアサービス提供者側の視点と利用者のQOL…田村修二
はじめに/リハビリテーションの特性/高齢者の特徴/行動の特性/心と体の結びつき/生活のなかのリハビリテーション/まとめ

要支援・要介護認定をめぐる課題-「しているADL」のもう一つの見かた…浜田大輔
はじめに/脳卒中者の肩痛/「かくれ要介護者」の存在/おわりに

Q&A
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