やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 慢性腎臓病(CKD)といっても,その食事管理は病期により異なり,患者の食事相談内容も多彩です.とくにCKDステージが進行すればするほど,食事療法の“力“を感じることは多いと思います.たとえば,ステージ4以降の腎不全患者の食事管理では,たんぱく質の過剰摂取がたった数日続いただけで,血清尿素窒素の上昇を認めることも経験します.しかし,それを是正すれば,数週間のあっという間に,血清尿素窒素は見事に低下します.このように食事療法は薬物療法以上の“力”があると感じることが多々あります.
 さらに,臨床検査値,蓄尿検査値,食事内容や日常生活行動をあわせて栄養食事相談を実施すると,患者自身が病態について納得し,次への課題が明確になります.
 食事療法を成功させるためには,管理栄養士は担当医と連携しながら患者個々の病態を理解し,患者との会話から背景や気持ちを知り,患者に食事管理の必要性を理解し技術を体得してもらい,実際に家庭で正しく実行するというプロセスが必要です.そして,継続して,患者の立場・目線で会話していくことが大切と感じます.一辺倒の会話,教科書的指導を行っても,その効果は発揮されないでしょう.
 本書「実践編」は,「基礎編」の続編です.日常臨床現場において,患者の一言やちょっとした疑問が生じたとき,役立てていただければ幸いです.患者療養指導に経験ある医師,管理栄養士によって,「質問」に対する「答え」がわかりやすく示されています.また,エビデンスに基づき,さらに各執筆者の豊富な経験を感じる1冊に仕上がりました.なによりも実践的な内容が多いことが特徴で,「あっ,そうなのか」と気づかされることも多いと思います.
 本書の刊行にあたっては,腎臓病診療の第一線の医師,腎疾患の食事管理に情熱をもって食事相談を行っている第一線の管理栄養士により,ご執筆いただきました.ご執筆をお引き受けくださった諸先生に深謝いたします.
 また,刊行までに多くのご助言とご厚情を賜った医歯薬出版編集部の方々に,心より御礼申し上げます.
 令和4年5月 新緑と爽やかな風に初夏を感じて
 編者を代表して 金澤良枝
 序文
栄養状態の評価
 Q-1 CKD患者の栄養状態をみるにはどのような方法がありますか? 栄養状態の判断基準を教えてください.(松永智仁)
 Q-2 目標体重とは何ですか? 栄養摂取量算定には現体重,標準体重,目標体重のどれを使いますか?(宇都宮一典)
 Q-3 体重のコントロール,体液量のコントロールについて教えてください.食事はどのように関係しますか?(松永智仁)
 Q-4 サルコペニア・フレイルとはどのような病態ですか? 栄養状態と関係しますか? それはなぜですか? 対策について教えてください(松永智仁)
指導体制・指導方法
 Q-5 CKDの食事療法,とくに低たんぱく食を効果的に行うには,どのような診療体制にすればよいでしょうか?(中尾俊之,金澤良枝)
 Q-6 食事指導について,どんな技法・手順で行えば効果があがるでしょうか? また,何回くらい指導を行えばよいのでしょうか?(土井悦子)
 Q-7 CKD患者の食事療法において行動変容を促す方法について教えてください(横山啓太郎)
 Q-8 CKD患者に対する個人栄養食事指導と集団栄養食事指導のメリット,デメリットについて教えてください.また,CKDステージにより指導方法が異なるでしょうか?(柴田みち)
 Q-9 栄養計算ができない患者に指導する場合はどのように行えばよいですか? 腎臓病教室,調理実習の効果はどうでしょうか?(小倉豊子)
 Q-10 理解力の乏しい70,80歳代の高齢保存期慢性腎不全患者の栄養指 導はどのようにするのでしょうか? 食欲不振や食事摂取量の低下もあり,栄養状態もよくないのですが…(島居美幸)
 Q-11 家族,とくに調理者が食事療法に非協力的な場合はどのようにしたらよいでしょうか? その場合,ほかに手段はありますか? また,患者自身だけで上手にコントロールするのは不可能でしょうか?(瀬戸由美)
 Q-12 CKD保存期にある高カリウム血症や高リン血症の患者の食事指導はどのようにすればよいでしょうか?(齋藤かしこ)
 Q-13 患者が摂取している実際のエネルギー量,たんぱく質量,食塩量を知る方法について教えてください(山尾尚子,菅野丈夫)
栄養素の指導
 Q-14 食塩をコントロールする食事療法の指導はどのようにしたらよいでしょうか? 調味料や加工食品以外の自然食品のナトリウム管理まで必要でしょうか?(相原絵梨花,菅野丈夫)
 Q-15 低たんぱく食を行うにあたり,治療用特殊食品の使用は必要でしょうか? ステージによっては使用しなくても食事療法を行うことは可能でしょうか?(兼平奈奈)
 Q-16 たんぱく質制限の食事療法ではアミノ酸スコアをパーフェクト(100)にする必要があるといわれますが,なぜですか? それは可能ですか? また,動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の比率をどのように考えればよいでしょうか?(宮永直樹,菅野丈夫)
 Q-17 低たんぱく食事療法を行うにあたり,たんぱく質の制限量は3食に等しく配分しなければいけないでしょうか? また,1週間のうち1日くらいは自由に食事をする日を設けてもよいでしょうか?(コ滿麻美,菅野丈夫)
 Q-18 低たんぱく食事療法を行うにあたり,エネルギー補給をどのように指導したらよいでしょうか?(城田直子)
 Q-19 低たんぱく食を指導すると,炭水化物や脂質も抑えてしまう患者がいますが,これはなぜいけないのでしょうか? そのような患者を識別するにはどうしたらよいですか? また,正しく指導するにはどのようにしたらよいでしょうか?(金澤良枝)
 Q-20 脂質の摂取はどうしたらよいでしょうか? ばら肉などの脂質の多い部位をすすめてよいでしょうか? 脂質のとり過ぎが問題にならないのでしょうか?(金澤良枝)
 Q-21 カルシウム,鉄の補給のためにカルシウムや鉄の多く含む食品をすすめたほうがよいですか? カルシウムや鉄の多い食品はたんぱく質が多く含まれているようで心配です(齋藤かしこ)
嗜好への対応
 Q-22 CKD患者はアルコールを飲んでもよいのでしょうか?(下大迫伊純,菅野丈夫)
 Q-23 CKD患者は外食をしても問題ないでしょうか? 外食する場合には,どのようなことに注意すればよいですか? 旅行や冠婚葬祭での食事はどうすればよいでしょうか?(森岡優子,吉田朋子)
 Q-24 宅配食,加工食品やインスタント食品,市販惣菜類,市販菓子類の食べ方をどう指導すればよいでしょうか? 何を注意しなければいけないのでしょうか?(北島幸枝)
 Q-25 健康食品やサプリメントを頻用する患者にどのように指導するのでしょうか? すすめてはいけないのでしょうか? どんな危険性があるのでしょうか? どんなものならよいのでしょうか?(北島幸枝)
 Q-26 CKD患者は旅行(国内・海外)をしてもよいでしょうか? どのようなことに注意すればよいですか?(榎本真理)
薬物療法と食事
 Q-27 CKD患者のよく使う薬と,食事の相互作用について教えてください.なぜ,そのような作用が起こるのでしょうか? どのように予防するのでしょうか?(加藤明彦)

 巻末資料
 索引