やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 慢性の腎臓病は多数ありますが,それらは一括してCKD(chronic kidney disease)と呼ばれています.CKD患者数は日本国民全体の10%強にのぼるといわれています.そして,今や全国の公的病院のほとんどで腎臓内科が標榜設置され,CKDや透析療法の診療が盛んに行われるようになりました.
 食事療法はCKD診療のうえで重要視されながらも,その詳しい内容や適応,実施方法などが必ずしも正しく理解されておらず,患者さんに対して有効なアプローチがなされていない状況が頻繁に見受けられます.食事療法や生活指導の必要性が医師の意識のうちにあっても,本格的な取り組みとその実行には,医師自らの強いmotivationがなくてはなりません.そして,食事療法で良い効果を上げるには管理栄養士などのhealth care rofessionalsとのチーム医療を基盤に,患者教育の高い技術を涵養して,実効性のあるアプローチをしていくことが必要です.
 本書はCKDに対する食事療法の詳しい参考書で,医療者向けの手引き書となっています.医師,管理栄養士などが実際にCKD患者に対して食事療法の指導を行う場面を想定して,その際に知りたい点や疑問点を「質問」として設定し,それに対する「答え」を提示するというわかりやすい形式で単刀直入に記載しています.続いて「それはなぜか,そのエビデンスは?」と題して,その回答の根拠が理論的に述べられ,最後に「実践にどう活かすか?」として,各執筆者の経験も踏まえた実地臨床での必要な知識や技能が述べられています.本書(基礎編)に続いて,実践編と透析編が発刊となります.これらをあわせて読んでいただくことにより,必ずやCKDの食事療法への見識が向上し,栄養指導・管理のために必要なスキルが磨かれることでしょう.
 本書の刊行にあたり,腎臓病診療の第一線の諸先生にご多忙のなかご執筆いただきました.執筆を快くお引き受けくださった著者の諸先生に深謝いたします.また,本書の刊行を情熱とパワーを持って担当された医歯薬出版編集部の方々に敬意を表します.
 2021年8月 秋の気配がする晩夏の日に
 編者を代表して 中尾俊之
 序文
導入部
 Q-1 慢性腎臓病(CKD)はどのような疾病でしょうか? 重症度の分類は原疾患により違いはないのでしょうか? それはなぜですか?(西 慎一)
 Q-2 糖尿病性腎臓病(DKD)は糖尿病性腎症と違う疾患ですか?(馬場園哲也)
 Q-3 CKDでの腎機能低下速度はステージにより違うのでしょうか? 腎機能低下を促進する因子は何ですか? それはなぜですか?(田村 亮,正木崇生)
CKDの基本的事項
 Q-4 CKDに対する薬物療法にはどのようなものがありますか? また,どのような効果がありますか? 薬物療法で悪化や進行が抑えられているCKD患者に,食事療法は必要なのでしょうか?(加藤明彦1)
 Q-5 ステージ1,2のCKDでは,食事療法があまり行われませんが,なぜですか?(細島康宏,鈴木芳樹)
 Q-6 ステージ3のCKDでは,たんぱく質制限は厳しくなくてもよいでしょうか? それとも厳しくしたほうがよいでしょうか?(土屋毅亮,長岡由女,菅野義彦)
 Q-7 ステージ4,5のCKDでは食事療法の重要性がとても大きくなりますが,それはなぜでしょうか?(西尾康英)
 Q-8 随時尿による簡易式からの食塩摂取量やたんぱく質摂取量の計算が行われることがありますが,これはどの程度正確でしょうか? ステージ4,5では使用できませんか? それはなぜですか?(岡田知也)
 Q-9 CKDや透析患者でサルコペニア・フレイルをきたす原因にはどのようなものがありますか? それはなぜですか?(加藤明彦)
食事療法の各論
 Q-10 CKDステージ別にみて水分摂取量はどうすればよいでしょうか? CKDの進展に影響するのでしょうか? それはなぜでしょうか?(関根章成,乳原善文……)
 Q-11 CKDではステージに限らず一貫して食塩制限が重要視されています.どの程度の摂取量とすればよいですか? それはなぜですか?(原 宏明,長谷川 元……)
 Q-12 血清カリウム値に影響を与える因子は何ですか? 血清カリウム値が高くなくても,CKDではカリウム制限が必要でしょうか?(岡田知也……)
 Q-13 エネルギー摂取量は年齢,性別,生活活動度により異なるとされ,「慢性腎臓病に対する食事療法基準」では大きな範囲で示されていますが,個々の患者について具体的にどのように決めていけばよいのでしょうか?(前田益孝……)
たんぱく質制限をめぐって
 Q-14 CKDや透析患者のたんぱく質摂取量は,CKDの食事療法基準より多くても少なくてもいけないでしょうか? それはなぜですか?(中尾俊之……)
 Q-15 たんぱく質制限にはどのような効果があるのでしょうか? それはなぜでしょうか?(中山侑泉,酒井 謙……)
 Q-16 超低たんぱく食は効果が大きいのでしょうか? 安全に実施することは可能ですか?(大谷晴久……)
 Q-17 高齢保存期慢性腎不全患者でも,たんぱく質制限の食事療法を行ったほうがよいのでしょうか? 食事療法によって透析導入を延ばすよりも,早く透析導入したほうがよいのでしょうか?(島居美幸……)
 Q-18 低たんぱく質の食事療法を行うことで,栄養障害(PEW)やサルコペニアにならないでしょうか? それはなぜですか? PEWやサルコペニアを予防するにはどうしたらよいでしょうか?(中尾俊之,金澤良枝……)
 Q-19 たんぱく質を減らした分,炭水化物を多く摂取すると糖尿病にならないでしょうか? また,脂質を多く摂取して動脈硬化にならないのでしょうか? それはなぜですか?(的場圭一郎,宇都宮一典……)
合併症・特殊病態
 Q-20 食事療法へのアドヒアランス良好なCKD患者の血液透析導入では,低頻度からの計画的段階的導入法が有効ですが,それはなぜですか? 食事療法はどのようにすればよいでしょうか?(中尾俊之,金澤良枝)
 Q-21 糖尿病性腎臓病(DKD)に対する食事療法はどのような内容とすればよいのでしょうか? CKDと同じですか?(北田宗弘)
 Q-22 高血圧をともなうCKD患者に対しては,どのような指導・管理をするのでしょうか? 降圧薬で血圧が良好にコントロールされれば食塩制限は不要でしょうか?(福永昇平,伊藤孝史)
 Q-23 CKDにともなう貧血は食事療法ではよくならないのでしょうか? それはなぜですか?(倉賀野隆裕)
 Q-24 CKDは心・血管障害のリスク因子といわれていますが,原疾患により違いはないのでしょうか? それはなぜですか? 予防や治療における食事療法の役割を教えてください(中山昌明)
 Q-25 CKD━MBDとはどのような病態でしょうか? 予防や治療における食事療法の役割を教えてください(大矢昌樹,小林 聡,重松 隆)
 Q-26 脂質異常症をともなうCKD患者には,どのような指導・管理をするのでしょうか? また,高齢者のCKD患者の脂質異常症の管理はどのようにすればよいでしょうか?(中舎璃乃,庄司哲雄)
 Q-27 肥満・メタボリックシンドロームをともなうCKD患者には,どのような指導・管理をするのでしょうか?(小倉 誠)
 Q-28 小児CKD患者の食事内容は健常児と同じですか? それはなぜですか?(井口智洋,幡谷浩史)
 Q-29 腎臓移植の成功患者にも食事療法は必要なのでしょうか? それはなぜですか?(酒井 謙,大橋 靖)

 巻末資料
 索引