やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 糖尿病はその罹患者数が多く,未治療あるいは治療中断者の比率も高く,同時に罹病期間の長期化にともなって合併症をもつ患者が急増し,医療費の増大に影響している.
 2012年の診療報酬改定では「糖尿病透析予防指導管理料」が新設された.さらに,2013年の糖尿病学会学術集会では,熊本宣言2013「あなたとあなたの大切な人のためにKeep your A1c below 7%」が発表され,糖尿病診療ならびに療養にかかわる者がともに,よりよい血糖管理などを通じて,糖尿病の合併症で悩む人々を減らすための努力を惜しまないことが確認された.さらに,糖尿病の食事療法の現状と課題にかかわる提言がなされた.次いで,秋には『糖尿病食事療法のための食品交換表』が改訂され,糖尿病診療および療養指導の充実が図られてきている.
 一方,患者が置かれている療養環境は,多くの情報が錯綜し,正しい情報を選択,受け入れることが難しく,療養生活に混乱をきたしやすくなっている.患者にとって正しい情報の選択は適正な療養生活を送るうえでの要となり,かつ,糖尿病診療や療養指導にあたる医療従事者は,正しい情報を発信する責務がある. 本書は,日常診療や療養指導にあたり,糖尿病療養を進めようとする患者を主体にした疑問や質問を「Question」として29項目あげ,これに「Answer」したプラクティカルな解説書である.そのため「なぜ,どうして」と,患者に身近なものとしてQuestionを表現した.またAnswerでは「答え」を簡潔に解説し,次いで「なぜ,その答えとなるのか?」でその理由を噛み砕いて説明し,「その答えとなるエビデンスは?」として科学的に解説した.患者が自らの意思で療養する治療への動機付けには,患者が納得する診療や療養指導が求められ,本書は,いわばこれに挑戦したものである.そして「その答えとなるエビデンス」を「実践にどのようにして結び付けるか?」まで言及した.
 本書の刊行が,日常の診療,そして療養指導に役立つものと確信している.幸いにも,糖尿病診療の第一線の医師,各領域で高い専門性をもつ療養指導士の諸先生により,ご多忙ななかでの執筆が叶い,本書の刊行に至った.ここに改めて深甚の謝意を申し上げる次第である.
 最後に,刊行までに多くのご助言とご厚情を賜った医歯薬出版編集部の各位に心よりお礼申し上げたい.
 平成26年 新緑を眺めながら
 編者を代表して 本田佳子・村上文代
 序文

導入部
 Q-1 糖尿病患者数の推移について教えてください.なぜ患者数は増加しているのでしょうか?(伊藤千賀子)
 Q-2 糖尿病の診断は何を基準に行い,どのように治療方針をたてるのでしょうか?(鈴木浩史,曽根博仁)
 Q-3 HbA1cの目標値が最近変わりました.なぜ変わったのですか?療養指導にどのように影響するのでしょうか?(北澤 勝,曽根博仁)
腎症〜透析
 Q-4 糖尿病性腎症を合併した際の血糖コントロールの指標は,何を用いるのでしょうか?HbA1cよりGA(グリコアルブミン)といわれるのはなぜでしょうか?(絵本正憲)
 Q-5 糖尿病透析予防指導管理料の意味するところを教えてください(黒瀬 健)
 Q-6 糖尿病性腎症の栄養食事療法の基準とは?どのように活用するのでしょうか?日本糖尿病学会と日本腎臓学会では基準が異なりますが,どう判断すればよいのでしょうか?(安孫子亜津子,羽田勝計)
 Q-7 糖尿病食から糖尿病性腎症食への切り替えは,どのように進めたらよいですか?切り替えのポイントについて教えてください(黒瀬 健)
 Q-8 糖尿病性腎症進展を阻止するうえで,治療効果とする指標は何でしょうか?その指標をコントロールする食事療法は,どのようなものでしょうか?(安孫子亜津子,羽田勝計)
 Q-9 透析療法を導入すると,何が変わるのでしょうか?(海津嘉蔵)
 Q-10 血液透析施行中に起こる血糖変動(高血糖および低血糖)への対応を教えてください(馬場園哲也,入村 泉)
 Q-11 インスリン療法中の糖尿病血液透析患者の食事療法について教えてください(中尾俊之,金澤良枝)
 Q-12 糖尿病透析患者と糖尿病でない透析患者との指導・管理の違いはあるのでしょうか?(海津嘉蔵)
 Q-13 腎不全に至った糖尿病に対して腹膜透析は可能でしょうか?また,その管理ではどのようなことに留意しなくてはならないのでしょうか?(馬場園哲也,田中伸枝)
その他の合併症
 Q-14 肥満・メタボをともなう糖尿病には,どのような指導・管理をするのでしょうか?(石木 学,戸邉一之)
 Q-15 脂質異常症をともなう糖尿病には,どのような指導・管理をするのでしょうか?(安田大二郎,森 保道)
 Q-16 なぜ血圧のコントロールが必要なのでしょうか?そのために,どのような指導・管理をするのでしょうか?(福井道明)
 Q-17 肝疾患をともなう糖尿病は,どのように指導・管理するのでしょうか?(篁 俊成)
 Q-18 妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠の食事療法のポイントについて教えてください.また妊娠時期に沿って実践につなげるには,具体的にどのように指導すればよいでしょうか?(臼田里香)
 Q-19 高度視覚障害の病態と発症時期,その患者への対応(食事指導・生活指導など)について教えてください(山田幸男,岩原由美子)
食事療法
 Q-20 糖尿病の食事療法は摂取エネルギー量の適正化が基本ですが,患者ごとの適正エネルギー量をどのように設定するのでしょうか?(八幡和明)
 Q-21 食事療法の基本である摂取エネルギー量の適正化が図れれば,食事療法は完結でしょうか?(八幡和明)
 Q-22 炭水化物50〜60%,たんぱく質1.0〜1.2g/kg標準体重,残りを脂質で摂取するとされていますが,その厳密性や許容範囲を教えてください.炭水化物制限で,たんぱく質と脂質はどの程度,上限を超えますか?たんぱく質と脂質の割合が増えることで,どんな患者で問題になりますか?(福井道明)
 Q-23 新しい「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」では,炭水化物エネルギー比率によりいくつかの単位配分が示されましたが,それはどのようなものですか?(本田佳子)
 Q-24 炭水化物だけを制限する糖質制限食の治療の効果について教えてください.どの程度の糖質制限ならすすめられるのでしょうか?また,どう指導すると食事療法がうまくいくのでしょうか?山田 悟,島田真理子,内田淳一)
 Q-25 グリセミックインデックスの考え方について教えてください.なぜ,その活用がすすめられるのでしょうか?(本田佳子)
 Q-26 たんぱく質の割合と質について教えてください.なぜ,質と量を考慮しなければならないのでしょうか?(篁 俊成)
 Q-27 脂質の割合と質について教えてください.また,割合と質はなぜ重要なのでしょうか?(安田大二郎,森 保道)
 Q-28 エネルギーや三大栄養素以外で,考慮すべき栄養素はどのようなものですか?(細川雅也,津田謹輔)
 Q-29 新しい「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」では,食物繊維の摂取を積極的にすすめるマークが付記されました.なぜ食物繊維の重要性が注目されているのでしょうか?毎日,無理なく上手に摂取できる方法を教えてください(村上文代)

 索引