やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 病院栄養士になって2年めの頃,仕事が終わってから,客室乗務員時代の先輩が講師を務める経営者研修会のお手伝いをさせていただいたことがあります.その会には,30歳代後半から70歳代までの中小企業の経営者が参加していて,私のところには「痛風の気があるんだけれど」「糖尿病と言われている」「やせたいと思っている」など,研修会のテーマとは関係のない悩みが持ち込まれました.初対面の私に,こうしたプライバシーに関する話題を躊躇なくお話しになるのは,私が栄養士だからというよりも,人望のある先輩を手伝う後輩ということであって,その人間がたまたま栄養士だった,ということであったと思います.
 病院では,先輩を見習った「指示・指導型」の食事相談をおこなっていただけに,この私的な食事相談はとても新鮮でした.そして,食事相談は食事のことに終始するのではなく,仕事や生き方を食の面から支えることに本当の意味があるのではないか,ということを実感しました.経営者のみなさんは,病気のことを気にしながらも病院へは行かず,仕事を優先してしまう.それでも,リラックスして話せる場や相手があれば,本気でライフスタイルの改善をお考えになるのです.それだったら,仕事や生活を大事にしながら,健康意識のレベルを上げることができるのではないか…いま思うと,それが「食コーチング」の出発点でした.
 本誌は,栄養士に限らず,現在,食事相談を担当されている,多業種の方々に活用していただくことをイメージしてまとめました.食は人間に不可欠な本能的活動,そこから人々の健康意識を高めるためのアクションが可能です.現にデパートでも食事相談の販売をしていますし,食事相談の宅配まであります.いまはやりの「食育」も,国家規模の「食事相談運動」ではないかと思います.
 また本誌は,クライアントに接する場面でのマニュアルではありますが,同時に,食事相談担当者の健康づくり,生きがいづくりにもご活用いただきたいと思っています.ハッピーな食事相談担当者は,クライアントをいっそう健康に,いっそうハッピーにすることでしょう.
 最後に,本誌の企画から執筆までの1つ1つに,的確なアドバイスをくださった,マイコーチ,大橋禄郎先生に敬意と感謝を捧げます.また,いつも私を支えてくださっている栄養士の方々,私をコーチに選んでくださっているクライアントの方々に感謝いたします.そして,この企画を迅速に実現してくださった医歯薬出版編集部の方々に心からの感謝を申しあげます.
 平成19年 満開の桜を眺めながら
 影山なお子
第1章 なぜ「食コーチング」なのか
 1.「食コーチング」はこうして生まれた
 2.「栄養指導」から「食事相談」への脱皮
 3.食事相談は何を目指すのか
 4.クライアントの自発性をどう引き出すか
 5.「問いかけ」には,どんなバリエーションがあるか
 6.サポート(支援)とは何をするのか
 7.モチベーションをどう見極めるか
 8.食事相談を担当する人の資質とは
 9.「健康とは何か」の認識を持つ
 10.調理技術や食シーンへの理解を深める
第2章 食事相談の基本とコミュニケーション力
 11.コミュニケーションとは何か
 12.非言語表現と言語表現の見直し
 13.あいさつと自己紹介のスキルアップ
 14.異性や,年齢差のある人との食事相談
 15.仕事や生き方の違いを理由にする人との食事相談
 16.「栄養のバランス」の根拠となる基準を持つ
 17.食事摂取の目安と活用の仕方
 18.俗説を前提とした食事相談にならないようにする
 19.「食育」についても考えをまとめておく
 20.グループを対象とする食事相談
 21.食事相談の料金はどのように設定するか
 22.ほかのセクションとの連携
 23.「食コーチ」自身がコーチをつける意味
第3章 初回の食事相談
 24.食事相談をおこなう場所の条件
 25.医療施設での食事相談室のあり方
 26.食事相談専用の施設がない場合
 27.最初のあいさつ,自己紹介,タイムスケジュール
 28.最初に聞いておきたいこと
 29.終了時のフィードバックと次回の予定
第4章 食事相談に使う用紙,資料,器具,図書
 30.食事相談に先立って聞いておきたい項目
 31.食事記録をどのようにつけてもらうか
 32.「食コーチング」の記入書類の例
 33.食事相談に活用したい資料,図書
 34.食事相談に活用したいグッズ
第5章 健康な人との食事相談
 35.「スリムになりたい」という人との食事相談(1)
 36.「スリムになりたい」という人との食事相談(2)
 37.「標準体重」をどう考えるか
 38.食品に健康効果を求める人には
 39.「頭がよくなる食品」について意見を聞かれたら
 40.スポーツ選手との食事相談
 41.栄養士や医師,食事相談担当者などとの食事相談
 42.サプリメントについての食事相談
 43.外国の健康法に関心を示す人への対応
第6章 症状のある人との食事相談
 44.症状のある人にはどう接するか
 45.肥満の正しい定義とBMIの説明
 46.メタボリックシンドロームの人との食事相談
 47.塩分制限が必要な人との食事相談
 48.糖尿病の人との食事相談
 49.高脂血症,痛風の人との食事相談
 50.便秘症の人との食事相談
 51.下痢を繰り返す人との食事相談
 52.胃潰瘍,胃がんなどの術後の人との食事相談
 53.更年期障害の人との食事相談
 54.「間食がやめられない」という人との食事相談
 55.「お酒を飲みすぎる」という人との食事相談
第7章 非対面の食事相談
 56.電話による食事相談をおこなうには
 57.電話食事相談はこのように進める
 58.Eメールで食事相談をおこなうには
 59.手紙,文書で食事相談をおこなうには
第8章 自分自身を磨く「セルフ食コーチング」
 60.食事相談担当者の資質をセルフチェックする
 61.自分の環境を見直してみる
 62.自分をアピールするためのメディアづくり
 63.自分のまわりから「マイコーチ」を探す
 64.食コーチのネットワークづくり