やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 1993年3月に「楽しい医学用語ものがたり」を上梓しましたところ,幸いに多くの読者の方々にご愛読いただき,著者として幸せこれに過ぎるものはありません.
 ほとんど毎年増刷して,近く4刷がでる予定ですが,すでに3年前から“続編を”という話がありました.私自身当時ちょうど定年前でしたので,暇になったら書きましょうと,軽く承諾しましたが,案に相違して定年延長となり,相変わらず忙しい日々が続いて今日に至りました.したがって,1年くらいの予定が3年もかかってしまいました.
 しかし,そのお陰で,その間にギリシアへ1回,イタリアへ2回,南米へ2回行く機会がありましたので,新しい話も仕入れることができました.ご覧のとおり,この続編は南米の話から始まっていますが,これは昨年がちょうど日伯修好百周年で,その記念医学交流セミナーに招聘された私の思い出でもあります.
 前編の序でも書きましたように,ギリシア神話と聖書を少しお読みになるだけで,西欧への旅行がどんなに奥深く,楽しいものになることでしょう.さらに,医者は医者らしく,医学史の一篇でもひもといて行けば,医学の道の深遠さに驚かされることでしょう.私自身も,仕事で外国に行くたびにそんな心構えで過ごしてきますが,その土産話を「医学のルーツを訪ねて――トルコの旅」,「同――ギリシアの旅」と題して日本病院会雑誌に書き続け,目下は「エーゲ海の島々」を連載中です.いずれまとめて一書にしたいと思っていますが…….
 毎日,経営に頭を悩ましておられる院長各位,忙しく働いておられる医師や看護婦さん方,頭休めにこんな本でもお読みになって,気分転換を図っていただければと思って書きましたが,文字どおりご笑覧くださることを願っています.
 平成8年2月
 星 和夫

 注
 1)ギリシア・ローマ神話の神名,地名などのカナ表記にはいろいろあるが(例:Aphrodite=アプロディーテ,アフロダイティ,アプロディテなど),原則として,「高津春繁著:ギリシア・ローマ神話辞典,岩波書店」によった.
 2)欄外の数字は,参考文献で,片カッコの数字が巻末の文献No.である.
 3)医学用語は,本文中でゴシック字とし,索引にも掲げた.
 序
 表紙解説
1.銀とマラリア(よい空気と悪い空気)
2.医療過誤とカロリー(悪いのは“mal”,暑いのは“cal”)
3.ぜい肉と肉質化(カーニバルでスマートに)
4.カラメル反応とカニューレ(甘い竹と細長い管)
5.キニーネ(伯爵夫人の粉薬)
6.ピラゾールとピロリドン(女性が赤面する“おせじ”)
7.ピロニン(アキレウスは炎のような赤毛)
8.安息香酸とベンゾール(香りのよいザクロの樹脂)
9.鉛と酢酸鉛(農耕の神と土星の甘い塩)
10.ヤーヌス体とヤーヌス緑(二つの顔をもつ門の守衛神)
11.アルブミンとカンジダ(白い掲示板と候補者の白手袋)
12.塩類(サラリーマンに必要な塩辛い給料)
13.ペトリ皿とワセリン(玉石混交の固いもの)
14.検疫と四つ子(40日間の隔離)
15.ペストとヴェロナール(「ロミオとジュリエット」の舞台に流行った忌まわしい病)
16.バルビタールとペスト(「デカメロン」の背景に悲惨な病が……)
17.胃とゼラチン(美食家の好きなアイスクリーム)
18.フレグモーネとセツ・癰(“おでき”を起こすこそ泥)
19.ルックス(目の守護聖女セントルシア)
20.チフス(怪物のせいで噴火や台風が…………)
21.リムルステスト(怪物の化身のカブトガニ)
22.糖尿病と尿崩症(サイホンから流れ出る水)
23.性病と無性感症(愛と美の女神の名が転じて…………)
24.衛生学と万能薬(名医アスクレーピオスの子供たち)
25.診断と持続性陰茎勃起症(医学の故郷エペソスで“知ること”)
26.アキレス腱(トロイア王にねらわれた踵)
27.Rh因子(トロイア軍についたトラーキアの王)
28.キサンチン(アキレウスの暴挙に憤った河神)
29.既往歴と健忘症(記憶の女神ムネーモシュネー)
30.吐き気(オデュッセウスを助けた心優しい娘)
31.ムレキシッド反応とポルフィリン体(ラッパ自慢の神様が吹いていたホラ貝)
32.カルシウム(白墨も石も踵も計算機も……)
33.ユーグロブリン(復讐の女神たちを恐れた市民の好意)
34.安楽死と尊厳死(神が人に与える最大の贈り物)
35.不死と仮死(死の神が捕まると死人はなし)
36.プルトニウム(“豊かなもの”と呼ばれた冥界の王)
37.セリウム(農耕や穀物の女神)
38.メンタ(ハッカ)(冥界の王妃に踏み付けられたニンフ)
39.酒石酸と歯石(ブドウ酒樽にたまる燃える結晶)
40.タンタル(じらされ,飢えと渇きに苦しめられるゼウスの子)
41.悪性貧血と壊死(不老不死の酒と食べ物)
42.チタニウム(“大地の子”は巨神)
43.マラカイト・グリーン(ゼニアオイの葉は青竹色)
44.仙骨(“生けにえ”の儀式に用いられた聖なる骨)
45.クリプトコックス(厚い莢膜に隠された真菌)
46.タウリン(ゼウスが感謝して大空に上げた雄牛)
47.ラビリントス(迷路)(怒った王がつくらせた複雑な迷路)
48.ハロゲン(海神が恋したロドス島の海の女)
49.ロダミンとロダン化合物(バラを表象する太陽神)
50.胸腺とT細胞(心気を昂進させるタイム草)
51.リウマチ(体の中を悪い液が流れる)
52.不整脈とユーモア(なにかが流れる)
53.甘汞とメラニン(美しい(白い)ものと黒いもの)
54.コレステロールと広頸筋(広い葉の木陰で説いた黄胆汁)
55.レズビアニズム(美人の抒情詩人が住んでいた島の風習)
56.銅とコバルト(鉱山を開き,冶金を教えたキプロスの王)
57.ジギタリス(不誠実で美しいだけの手袋)
58.ブドウ球菌とレンサ球菌(山羊飼いが見付けた青い房)
59.セラチア(血のような不吉な赤)
60.慢性(不摂生や生活力の低下で病的産物がたまる)
61.急性(鋭く,酸っぱく,ぴりぴり刺激する)
62.にきびと毛瘡(イチジクの中の粒状の実に似たもの)
63.有棘赤血球(ハアザミはニンフの化身)
64.ストレスと狭窄(厳格な教授も締め付けられて悩んでいる?)
65.好中球と血友病(“フィル”はなにかがお好き)
66.狂水病と羞明(勇ましい軍神の息子は弱虫と怖がり)
67.酸素とシュウ酸(酸っぱい四つ葉のクローバー)
68.トリウム(スカンジナビアの雷神)
69.薬局(安全を獲保するため離して乾いたものを調合して与える所)
70.ガドリニウムとテクネチウム(希少な土と人工的につくられたもの)
71.バリウムとタングステン(重い土と重い石)
72.キセノン(異国人の英雄に親切な女)
73.矢状縫合(射手座になった半人半馬の怪獣)
74.外科とアルゴン(“外道”は手でやる仕事)
75.馬尿酸(海の神様が乗りこなした怪獣)
76.コルヒチン(魔女の故郷は毒薬の産地)
77.精液と精子(苗床に種を蒔くセミナー)
78.アスペルギルスとオブラート(聖水がまき散らされ,扁平なパンが奉献される)
79.るつぼとフラスコ(十字架とつくり損ないの大失敗作)
80.オートクレーブとクリトリス(自動的に閉まる小さな鍵)
81.検査室と分娩(骨の折れる大仕事)
82.カタルシス(すっかりきれいにする“心の癒し”)
83.カテプシン(完全に沸騰する)
84.カタルとカテーテル(“カタ,カタ”と下へ流れる)
85.乳首と関節(水道工事に使われる?)
86.手術とドレッシング(作戦をたてて正装する)
87.リコールとブロック(飲み物と大きなひとかたまり)
88.精神病(美の女神が奴隷にした美女)
89.精神分裂病と破瓜病(横隔膜から転じた“心の座”と青春の女神)
90.躁病(3人の復讐の女神たち)
91.広場恐怖症とマンドラゴラ(メドゥーサの首が埋められた市民の広場)
92.ダフニン(太陽神に追いかけられ月桂樹になった河神の娘)
93.キメラ(口から火を吐く若い雄山羊)
94.白血球減少症(愛の神の母は貧乏の女神)
95.けいれんと病期(競争の単位を決めた日の出)
96.ヘモジデリンとチロシン(チーズのような王女の継母“鉄の女”)
97.図譜と錠剤(民族芸能付き居酒屋風レストラン)
98.夜間多尿(眠りの神が付き従う夜の女神)
99.ビリルビンとビリベルジン(ルビーは赤く,ベルは緑)
100.ウンチの話(虎の威を借りる傲慢な男)

 参考文献
 索引