やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 『一般・消化器外科51術式別 術後管理のチェックポイント<上>』の続巻である本書は,併せ読むことによって全体の展望を得られるよう構成を心がけました.上巻に続いて本書をひもとかれる読者の方々に対して,心からの謝意を表したいと思います.
 上巻では,第1章から第5章にわたって,甲状腺/乳腺/食道/胃・小腸/肝臓を取り上げましたが,下巻では引き続いて第6章から第11章にわたって,胆道/膵臓/脾臓/結腸/直腸/体表ヘルニアを取り上げ,簡潔に手術手技を紹介,起こりうる合併症とその対策について,ドレーンの位置,留置方法,管理法などを医療スタッフの方々に理解いただけるよう,多くのシェーマを用いて詳細に解説を行っています.
 上巻の序でも述べましたように,外科医療の分野においてチーム医療は当然のことです.そしてチーム医療の重要性が高まると同時に,看護体制においても時代の変革に対応した体制作りが重要となっており,チーム医療のスタッフの重要な一員として看護師がいます.“看護師”もこれまで以上により専門職としてチーム医療の重要な役割を担っていくことが要求されているのです.しかし,それにもかかわらず看護師がその専門性を存分に果たすべく,本来の仕事に携わっているとは必ずしも言えない現状があります.食事の介護・補助やベッドメーキングと常に追われるなど,実際にはCo-workerの方々に肩代わりしてもらうべき内容が多々含まれているのが現況です.このような状況が続きますと,看護師の離職傾向に歯止めがかからず,悪循環に陥る危険性をはらんでいるように思います.看護師には,よりその専門職としてのスキルアップを図り,本来あるべき看護師としての仕事内容の充実を図る必要があります.
 そのような折,より専門職としての重要性から“認定看護師”の資格認定が開始されました.昨今の医師の学会においても看護師,Co-workerのセッションも数多く取り上げられています.多くのより専門性のある看護師が増え,各職種の本当の意味での“プロ”が集まってこそ,より高いレベルでのチーム医療が展開できるはずです.“プロ”は“プロ”らしくその本当の能力を開花させねばなりません.
 記録をとることは重要なことですが,単に記録をとることだけに忙殺されていては,事務職と何ら変わりはありません.“先を察する”エキスパートスタッフになるためには,根拠に基づいた思考過程のうえに,先を見越した想像力を加味することが肝要なのです.そして,よりエキスパートとなるためには,俗に言う“鼻が利く”,言い換えれば“何か五感が訴えるものを感じとる”という能力が要求されているのです.看護師は看護のプロとしての感性も磨かねばなりません.
 もっとも,“鼻が利く”や“何か五感が訴えるものを感じとる”ということは数量化あるいは定義化できるものではありません.しかし,ある事象を認めたとき,その状態を的確に判断するためには,判断根拠がしっかりと頭の中で構築されていなければ,“見ていても診ず”,“単なる記録とり”となり,生体の中で何が起きているのかまったく理解できないままで放置されてしまいかねません.病態の変化を先取りできれば,たとえ合併症が起きたとしても早期に対策も講じることもできるのです.
 そのような思いが本書の企画の発端です.上巻と併せて本書が,ひとりでも多くの外科系スタッフにとって日々の臨床業務の効率的な技術・知識の習得の一助になれば幸いです.同時に,外科医がチーム医療の重要な構成一員としてのスタッフに贈る熱い想いを行間に汲んでいただければと念願しています.
 2013年9月
 社会保険横浜中央病院
 外科系主任部長 大井田尚継


発刊によせて
 大井田氏は,優れた外科医である.しかし,それだけではない.大井田氏を知る人々は,彼を情(じょう)の人であるとも言う.喜びや哀しみをたくさんの仲間と分かち合える人なのである.
 外科は,高度なチーム医療である.看護師さんたちは,そのなかで,ともに額に汗して働く大切な仲間である.大井田氏と看護師さんたちは,喜びや哀しみを分かち合う毎日を重ねてきたに違いない.
 ヒトという生物は,時間に悠久の流れがあることを知っている.だから,どうしても人生とは何かと,その意味を問いたくなる.この問いへの答えは,他の人々との関係からしか生まれてこない.
 皆でいっしょに共通の目的に邁進し,喜びも哀しみも分かち合うことを,「心を一つ」にすると言う.この言葉には心躍る響きがある.皆との「つながり」を確信して生きることが,人生にかけがえのない意味を与えてくれるからである.そこには,ゲーテが「Verweile doch!du bist so schon!止まれ!美しい時よ(吉岡茂光訳)」と書いたほど,心底から魂の満足する瞬間がある.
 私にも,その瞬間とはこのことなのかと,ふと思った記憶がある.同僚の医師や看護師さんたちといっしょに,自分たちこそ最高の医療を実現できるという信念に燃え,それこそ「心を一つ」にして診療に没頭していたときである.私といっしょに全力を尽くしてくれた看護師さんたちは,今でも生涯の仲間になっている.
 皆と共通の目的に向かって努力しようとすれば,それぞれに優れた知識と技術を求めることになる.つまり,「心を一つ」にできれば,そのための知識と技術は,どこまでも研ぎ澄まされる.
 大井田氏は,情の人だからこそ,すばらしい仲間を得て,お互いの知識と技術を磨き上げてきたに違いない.あえて言わせていただけば,本書は,その過程を表現したものなのではないだろうか.
 本書が,一人でも多くの看護師さんたちの目に触れてほしいと念願している.できることなら,知識と技術を磨くのは,皆と共通の目的に向かって努力することであることも,感じとっていただければ幸いである.
 平成25年9月
 日本大学医学部長・大学院医学研究科長
 脳神経外科 主任教授 片山 容一


推薦のことば
看護の専門性を向上させる好著として推薦します
 本書は,近年の外科領域の著しい進歩を踏まえて,主として術後管理における看護業務の要点を,手術をする外科医の立場から詳細に,かつ具体的に取りまとめてあります.術中・術後の看護業務は手術の高度化・複雑化の流れのなかで十全の対応をすることは決して容易ではありませんが,本書はこのような看護ニーズにしっかりと応える時宜を得た好著であるといえましょう.豊富な図表と術者の目で記述された内容は,外科病棟や手術室勤務の看護師にとって必携の書の1つとなるものと思われます.
 より高度な専門性が看護にも強く求められるようになってきているのは,時代の要請といえます.すでに,日本看護協会の専門看護師や認定看護師の資格制度が定着しつつありますが,最近にいたって,従来は医師の業務とされてきた診療行為のなかから,特定の行為を看護師も行うことができる仕組みを制度化しようとする動きが現実味を増しています.この「特定行為」を行うことのできる看護師は,一定の専門的研修を受ける必要があるとされています.高度な専門的知識と技術と経験を有する新たな看護師の身分が制度化されようとしているのは,複雑多岐にわたる診療業務で繁忙化する医師の業務の一端を担うことが求められているとともに,医師・看護師のより緊密なチーム医療を展開するためにも必要とされている側面もあります.
 この「一般・消化器外科51術式別 術後管理のチェックポイント」では,外科医の行う高度な専門的技術や知見について,スタッフとなる外科看護師向けに十分に吟味して記述されています.本書はまさに看護の専門性の高度化を,臨床現場における実践を通して実現しようとする意欲的著作です.外科病棟や手術室で周術期業務に従事する看護師のみならず,関係するコメディカルの専門職にとっても,本書が大いに役立つものと確信いたします.そして,高度化を続ける外科領域におけるチーム医療をさらに発展させるための先導書としても,本書を強く推薦したいと思います.
 平成25年9月
 社会保険横浜中央病院
 病院長 大道 久


推薦のことば
 外科領域においては,患者さんの訴える症状,術前・術後の注意点すべき事など覚えなければならないことが沢山あります.それに加え,高齢化が進むにつれ基礎疾患を有している症例も増加し,術後の合併症発生の可能性も高くなってくるのも事実です.一方,現在の看護師の勤務状況は,勤務形態や混合病棟化などの諸事情から,専門性を念頭においた看護師の教育やスキルアップに苦慮している看護管理者も多くいるはずです.さらに,多岐化する医療形態のなかでは,医師と看護師が情報を共有することの重要性がますます高まっています.医師と看護師がひとりの患者さんをどう治療し,どう看護していくかを緊密な連携のもとで遂行していかなければなりません.単に医師の指示にさえ従っていればよいというのではなく,手術をはじめとする治療そのものに対する理解を踏まえたうえの看護の在り方が問われています.同時に,看護師にとって,より効率的な看護法を習得することは不可欠な要素です.
 このような現状のなか,当院外科は大井田尚継外科系主任部長を筆頭に,日々の精力的な手術はもとより,外科医全体で認定看護師の育成にもご尽力いただいています.これまでに看護師向けに書かれた書物は,ややもすると平易に書くことに重点を置いたものが多かったのではないでしょうか.手術の思想を理解することは,より感受性を豊かに,そしてより高い専門性を備えた看護が提供できるはずです.本書は実際の手術におけるポイントを簡潔に留意点も細かく提示されており,起こりうる合併症とその対策,ドレーンの位置・留置法とその管理法まで詳細に書かれており,その根底にある思想までうかがい知ることができます.そこには外科医と看護師がともに手を携え,スキルアップをしながらよい医療を提供したいという熱い思いが込められていることが行間に溢れています.
 本書は,外科医と看護師の信頼関係をより強固にし,チーム医療をさらに充実させる格好の手引き書になることと思います.外科病棟・手術室の看護師ばかりではなく,すべての看護師の傍らに備え参考にしていただきたい教本です.
 平成25年9月
 社会保険横浜中央病院
 看護局長 馬場悦子
 はじめに
 発刊によせて
 推薦のことば
 推薦のことば
 編者・執筆者一覧
第6章 胆道
 1 開腹下胆嚢摘出術(木田和利)
 2 腹腔鏡下胆嚢摘出術(三松謙司)
 3 総胆管切開截石Tチューブドレナージ術(吹野信忠)
 4 乳頭形成術(加納久雄)
 5 胆嚢癌に対するS4a5b切除術(大井田尚継)
第7章 膵臓
 1 標準的膵頭十二指腸切除術(今永法)(大井田尚継)
 2 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(膵胃吻合+Cattel再建による)(大井田尚継)
 3 膵胃吻合における亜全胃温存膵頭十二指腸切除+垂直型再術(大井田尚継)
 4 膵体尾部切除術(大井田尚継)
 5 分節膵切除術(大井田尚継)
 6 慢性膵炎に対する手術(大井田尚継)
 7 膵全摘術(大井田尚継)
 8 膵仮性嚢胞に対する手術(大井田尚継)
第8章 脾臓
 1 脾臓摘出術(大井田尚継)
第9章 結腸
 1 右半結腸切除術(川崎篤史)
 2 左半結腸切除術(川崎篤史)
 3 S状結腸切除術(吹野信忠)
 4 回盲部切除術(木田和利)
 5 ハルトマン(Hartmann)手術(木田和利)
 6 腹腔鏡下虫垂切除術(通常法と単孔式法)(三松謙司)
 7 腹腔鏡下結腸切除術(三松謙司)
第10章 直腸
 1 前方切除術(川崎篤史)
 2 腹会陰式直腸切断術(Miles ope.)(大井田尚継)
 3 骨盤内臓全摘術(大井田尚継,岸本裕一)
第11章 体表ヘルニア
 1 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)(川崎篤史)
 2 腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術(川崎篤史)

 索引