やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版 はじめに
 家族にとって抵抗力の弱い小児に何か異常が見られると大変な心配事となってしまう.小児の疾患は病状が急変したり,重症化したりすることも少なくない.小児の成長・発達は身体や運動機能とともに脳・精神発達にともなうコミュニケーションでも日を追う毎に変化してくるが,最初に様々な異常に気づくのは家族であることが多い.医師から告げられる疾患名と対処法を十分に理解してもらう必要があるのも患児よりも家族の方の場合が多い.薬剤の必要性も十分理解してもらう必要がある.
 医師によると薬の服用が予後に直結するような疾患の場合は親から子供が薬を飲まないで困ると言った訴えを聞くことは少ないが,親が薬の必要性を理解していない場合にそれは多いと聞いたことがある.すなわち,小児の服薬指導は患児ばかりでなく,家族へしっかりとした説明が必要であるということであろう.入院を余儀なくされるような疾患では親同士での薬剤についての情報交換が良くなされている.大事なことではあるが,他の患児と病態が同じとは限らず,誤った情報で悩んでいる家族も多いと聞く.薬剤師はそのような時に正確な,そしてわかりやすい説明をすることが重要となる.そのためにも疾患について十分理解し,薬剤について多くの情報を入手し,服薬指導することが重要であろう.小児に使用する医薬品については臨床試験が開始されている状況にはあるが,まだ従来から用いられている薬剤で対処していることが主流である.薬剤師の服薬指導に期待が大きいと感じている.
 今回の小児の服薬指導 第4版は好評であった第3版のプロブレムリストを残し,疾患を見直すとともに,項目としては「使用のポイント」を新たに記載している.図表や文章も簡潔かつ平易に書き改めており,これまでよりも見やすく,また理解しやすいように改訂した.患児ならびに家族への服薬説明とQ&Aもこれまで同様掲載している.
 本書が小児領域の疾患において,薬剤師のファーマシューテイカルケアの実践に役立つ一冊としてご利用いただければ幸甚である.
 2010年3月
 編集者 五味田 裕,荒木博陽

第1版 はじめに
 多くの治療用医薬品は種々の要因によって影響されることはいうまでもない.すなわち,それには薬物側における影響要因と,さらに応用される生体側における影響要因がある.その生体側要因には種々あるものの,年齢差の要因はきわめて大きい.特に小児患者における薬物治療においては,薬の選択ならびに投与量の調整には留意すべき点が多い.年齢による吸収・分布・代謝・排泄機能の差,また血液脳関門などの透過性の差,加えて薬物代謝酵素の遺伝多型などが関与すれば,その影響はさらに倍加する.
 近年,薬剤師が病棟において服薬指導など活躍する場面が多くなってきた.特に小児領域担当薬剤師においては,薬物作用・副作用・コンプライアンスなどを含む服薬指導において種々苦労されているところである.小児特有の疾患・病態の複雑性,治療薬物ならびに剤形の特殊性,また治療薬コンプライアンスの不確実性,さらには患者本人・保護者への服薬指導などにおいて留意すべき事項が多々ある.しかしながら,現実的には担当薬剤師の今までの小児疾患の知識・経験,服薬指導内容・方法などについては,独自でなされているのが現状ではないかと思われる.といって参考となる成書がほとんどない.
 そこで,本書では実際に服薬指導管理業務に携わる薬剤師が小児領域での留意点を取り上げ,それをもとに小児の代表的各種疾患と特徴を,またそれに対する薬物療法について具体的処方例をあげ,実際の服薬指導時の留意点などについて解説した.さらに患者(保護者)側が一番関心のある治療効果・副作用についての服薬説明のポイントについて具体的に記載した.
 小児領域の薬学的な観点からのケアのあり方については,その疾患が複雑であること,年齢によって留意点が異なることなど,注意しなければならない要因が種々あるものと思われるが,本書が小児領域を担当している薬剤師の患者への服薬指導を含むファーマシューティカルケアの実践上の一助,ならびにさらなる展開のきっかけとなれば幸いである.

 2000年10月
 五味田 裕
総論
1 小児の服薬指導の問題点(八重徹司)
  1 インフォームド・アセント
  2 クスリが嫌いな子どもの「やる気」を引き出すプレパレーション
  3 調剤の工夫
  4 最後に
2 小児の服薬指導のポイント(荒木博陽)
  1 情報収集
  2 薬剤投与
  3 服薬指導
  4 調剤の工夫
3 小児の薬物動態の特徴(末丸克矢)
  1 小児の薬物動態
  2 小児薬用量
  3 小児期の発達と薬物動態
4 年齢に応じた服薬および使用方法とその工夫(千堂年昭)
  1 剤形別にみた要点
  2 服薬の留意点
  3 調剤上の注意点
5 保険薬局窓口における小児の服薬指導(ラムゼィ麻紀)
  1 保険薬局の窓口での質問の特徴
  2 薬局窓口における服薬指導のポイント
  3 質問に対する対応
  4 お薬手帳の活用
各論
1 アレルギー性疾患
 1 アトピー性皮膚炎(山下梨沙子)
  1 アトピー性皮膚炎とは
  2 アトピー性皮膚炎治療薬使用のポイント
  3 主なアトピー性皮膚炎治療薬
  4 アトピー性皮膚炎患者のプロブレムリスト
  5 処方例と服薬指導
  6 アトピー性皮膚炎治療薬Q&A
 2 アレルギー性鼻炎(難波弘行)
  1 アレルギー性鼻炎とは
  2 アレルギー性鼻炎治療薬使用のポイント
  3 主なアレルギー性鼻炎治療薬
  4 アレルギー性鼻炎治療薬の作用機序
  5 アレルギー性鼻炎患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 アレルギー性鼻炎治療薬Q&A
 3 アレルギー性結膜炎(佐藤智昭)
  1 アレルギー性結膜炎とは
  2 アレルギー性結膜炎治療薬使用のポイント
  3 主な抗アレルギー点眼薬
  4 アレルギー性結膜炎治療薬の作用機序
  5 小児アレルギー性結膜炎患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 抗アレルギー点眼薬Q&A
2 呼吸器系疾患
 1 気管支喘息(北村佳久)
  1 気管支喘息とは
  2 気管支喘息治療のポイント
  3 主な気管支喘息治療薬の特徴とチェックポイント
  4 気管支喘息治療薬の作用機序
  5 小児気管支喘息患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 気管支喘息治療薬Q&A
 2 急性上気道炎(風邪症候群)(急性咽頭炎・扁桃炎を含む)(森岡淳子)
  1 急性上気道炎とは
  2 急性上気道炎(風邪症候群)治療薬使用のポイント
  3 主な急性上気道炎の対症療法に使用する薬剤
  4 A群溶血性連鎖球菌による咽頭・扁桃炎に使用する薬剤
  5 急性上気道炎(風邪症候群)患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 急性上気道炎(かぜ症候群)治療薬Q&A
 3 肺炎(宍野友紀)
  1 肺炎とは
  2 肺炎治療薬使用のポイント
  3 主な肺炎治療薬
  4 肺炎治療薬の作用機序
  5 小児肺炎患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 肺炎治療薬Q&A
3 感染症
 1 インフルエンザ感染症(渡邉真一)
  1 インフルエンザとは
  2 抗インフルエンザウイルス薬使用のポイント
  3 主な抗インフルエンザウイルス薬
  4 抗インフルエンザウイルス薬の作用機序
  5 インフルエンザ患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 インフルエンザQ&A
 2 ヘルペスウイルス感染症(田中亮裕)
  1 ヘルペスウイルス感染症とは
  2 ヘルペスウイルスによる主な疾患
  3 ヘルペスウイルス感染症の治療
  4 主なヘルペスウイルス感染症治療薬
  5 ヘルペスウイルス感染症治療薬の作用機序
  6 ヘルペスウイルス感染患者のプロブレムリスト
  7 処方例と服薬指導
  8 抗ヘルペスウイルス薬Q&A
4 消化器系疾患
 1 嘔吐・下痢症(飛鷹範明)
  1 嘔吐・下痢症とは
  2 嘔吐・下痢症治療のポイント
  3 脱水症の補液療法(経口補液療法および経静脈輸液療法)
  4 食事療法
  5 薬物療法
  6 嘔吐・下痢症患者のプロブレムリスト
  7 処方例と服薬指導
  8 嘔吐・下痢治療薬Q&A
 2 便秘症(河崎陽一)
  1 便秘とは
  2 下剤使用のポイント
  3 主な下剤
  4 下剤の作用機序
  5 小児便秘患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 下剤Q&A
 3 腹痛(河崎陽一)
  1 腹痛とは
  2 腹痛治療薬使用のポイント
  3 主な腹痛治療薬
  4腹痛治療薬の作用機序
  5 小児腹痛患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 腹痛治療薬Q&A
5 腎・泌尿器系疾患
 1 ネフローゼ症候群(松永 尚)
  1 ネフローゼ症候群とは
  2 小児ネフローゼの(最重要)ポイント
  3 主な治療薬の特徴とチェックポイント
  4 小児ネフローゼ症候群患者のプロブレムリスト
  5 処方例と服薬指導
  6 ネフローゼ症候群治療薬Q&A
 2 夜尿症(立川登美子)
  1 夜尿症とは
  2 夜尿症治療薬使用のポイント
  3 主な夜尿症治療薬
  4 夜尿症治療薬の作用機序
  5 小児夜尿症患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 夜尿症治療薬Q&A
6 中枢神経系疾患
 1 てんかん(西原茂樹)
  1 てんかんとは
  2 抗てんかん薬使用のポイント
  3 主な抗てんかん薬
  4 抗てんかん薬の作用機序
  5 小児てんかん患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 抗てんかん薬Q&A
 2 熱性痙攣(相良英憲)
  1 熱性痙攣とは
  2 熱性痙攣治療薬使用のポイント
  3 主な熱性痙攣治療薬
  4 熱性痙攣治療薬の作用機序
  5 熱性痙攣患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 熱性痙攣Q&A
7 耳鼻咽喉科疾患
 1 中耳炎(松岡 綾)
  1 中耳炎とは
  2 小児急性中耳炎に対する処方のポイント
  3 急性中耳炎に使用する主な抗菌薬
  4 小児急性中耳炎患者のプロブレムリスト
  5 処方例と服薬指導
  6 中耳炎Q&A
 2 副鼻腔炎(川上恭弘)
  1 副鼻腔炎とは
  2 副鼻腔炎治療薬使用のポイント
  3 主な副鼻腔炎治療薬
  4 副鼻腔炎治療薬の作用機序
  5 小児副鼻腔炎患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 副鼻腔炎治療薬Q&A
8 内分泌・代謝性疾患
 1 小児糖尿病(武市佳己)
  1 糖尿病とは
  2 糖尿病治療薬使用のポイント
  3 主な小児糖尿病薬
  4 小児糖尿病薬の作用機序
  5 小児糖尿病患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 糖尿病治療薬Q&A
9 その他の疾患
 1 白血病(井門敬子)
  1 白血病とは
  2 白血病治療薬使用のポイント
  3 主な白血病治療薬
  4 白血病治療薬の作用機序
  5 治療ガイドライン(日本小児血液学会)
  6 支持療法
  7 小児白血病患者のプロブレムリスト
  8 処方例と服薬指導
  9 白血病治療薬Q&A
 2 川崎病(岡本千恵)
  1 川崎病とは
  2 川崎病治療薬使用のポイント
  3 主な川崎病治療薬
  4 川崎病患者のプロブレムリスト
  5 処方例と服薬指導
  6 川崎病治療Q&A
10 小児の急性中毒(山口 巧)
  1 小児の急性中毒とは
  2 急性中毒問合せ時の聞き取りポイント
  3 小児の急性中毒治療ガイドライン
  4 主な治療薬および治療法
  5 小児急性中毒患者のプロブレムリスト
  6 処方例と服薬指導
  7 小児急性中毒Q&A
11 予防接種(ワクチン)(田中 守)
  1 乳児・小児における予防接種の意義
  2 ワクチンの種類について
  3 各種ワクチンのポイント
  4 接種対象年齢と接種時期
  5 ワクチンによる副反応
  6 ワクチン接種時の相互の間隔
  7 疾病罹患後のワクチン接種の間隔
  8 予防接種の対象となる病気
  9 今後の予防接種に望むこと
  10 予防接種Q&A

 和文索引
 欧文索引