やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第9版の序
 2007年10月に第8版を発行し,2年以上が経過し,今回も多くの補足,修正を余儀なくされた.主な追記は,以下に示す新薬に関連する相互作用であり,必要に応じて体内動態,薬理作用,関連事項などについても補足している.
 アリスキレンフマル酸塩(ラジレス;直接的レニン阻害剤),シタグリプチンリン酸塩(ジャヌビア,グラクティブ;DPP-4阻害剤;糖尿病用剤),イルベサルタン(イルベタン,アバプロ;AT1拮抗剤),ブロナンセリン(ロナセン;DSA),シタフロキサシン水和物(グレースビット;キノロン系),トピラマート(トピナ;抗てんかん剤),ラモトリギン(ラミクタール;抗てんかん剤),ゾニサミド(トレリーフ〈25mg錠;レボドパ賦活型抗パーキンソン剤〉),ロピニロール塩酸塩(レキップ;非麦角系ドパミンD2受容体刺激剤),ミルタザピン(レメロン,リフレックス;NAd・5-HT作動剤;NaSSA;抗うつ剤),モダフィニル(モディオダール;ナルコレプシー症状の眠気治療剤),ラモセトロン塩酸塩(イリボー錠2.5オg・5オg;5-HT3遮断剤;下痢型IBS治療剤),シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ錠20mg;PDE5阻害剤;肺動脈性肺高血圧症治療剤),タダラフィル(シアリス;PDE5阻害剤),エベロリムス(サーティカン;免疫抑制剤),トレミフェンクエン酸塩(フェアストン;閉経後乳癌治療剤),ラパチニブトシル酸塩水和物(タイケルブ;チロシンキナーゼ阻害剤),スニチニブリンゴ酸塩(スーテント;キナーゼ阻害剤),ソラフェニブトシル酸塩(ネクサバール;キナーゼ阻害剤),シブトラミン塩酸塩(国内未承認;SNRI;抗肥満剤)など.
 また今回は,新たに肝機能障害に起因する相互作用をまとめてみた.つまり,「表25 MRP2,BSEP阻害剤と薬剤性肝障害の相互作用」,「表26 MRP2,BSEP阻害作用のある薬剤の肝障害に対する注意事項」や「表118 肝障害を誘発する可能性のある薬剤」などの表を追加し,解説を行った.是非,参考にして頂きたい.新しい機序の相互作用ではp.241「エポキシド加水分解酵素」を新たに追記し,その他の相互作用,例えば表9(3)「ラニチジン塩酸塩(ザンタック)とトリアゾラム(ハルシオン)」,p.105「MRP2阻害剤とイリノテカン塩酸塩水和物(カンプト)」,p.106「PXR活性化剤(リファンピシン)とミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)」,表31「ピルジカイニド塩酸塩水和物(サンリズム)とセチリジン塩酸塩(ジルテック)」などは,その発現機序別に分類して追記・解説した.尚,CYP450,抱合酵素,薬物トランスポーターなどの基質と判明した薬剤は,随時,追加している(表14,表30,表38040,表76,表Fなど).
 一方,<注意>にはp.142(6)「CYP2C19遺伝的多型とPPI効果」,p.220(2)「核内受容体のヘテロ二量体と応答配列との結合(バルプロ酸による結合促進,炎症による結合阻害)」,また<参考>にはp.46(2)「高用量抗菌剤投与」,p.101(2)「インスリンとBBBのP-gp機能」,p.133(4)「AT1拮抗剤と利尿剤の合剤」,p.224(1)「ビタミンAの体内動態およびCYP3A4誘導について」,p.225(2)「抗てんかん剤によるビタミンD活性化の抑制(図39)」をそれぞれ新たに追記し,更にビタミンB12欠乏と葉酸代謝との関係を解説するためp.242図42を修正し,p.255(6)「ドパミン作動剤による突発的睡眠」,p.335(2)「SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)」,p.365(2)「ポルフィリン症に注意すべき薬剤(ヘム合成経路)」なども補足した.また「付録」では,p.378「シロスタゾールの警告」,p.394表F「4)BCRP(乳癌耐性タンパク質)」,p.412(7)「心肥大と転写因子[NF-κB,NFAT,PPARs〈α,γ,δ(β)〉]」について新たに追記し,p.381「PDE5阻害剤(勃起不全治療剤)の比較(表追記)」「NF-κB活性化機序(p.410図67修正)」「分子標的治療剤のまとめ(p.415表追記)」などの補足や修正を行った.これらは,臨床薬剤師が知っておくべき知識であり,是非,一読することをお勧めする.特に,動脈硬化,糖尿病,心肥大,急性冠症候群(ACS),メタボリックシンドロームなどは慢性炎症性疾患であることから,炎症誘発や抑制に関与するNF-κB,MCP-1やPPARsについては,本書を参考に把握して頂きたい.
 上記以外にも,併用禁忌の追記,削除,また多少の追加や修正も行っているが,相互作用の発現機序についての解説,考え方は初版から一貫して同じである.今回も本書が最新の情報を兼ね備えた「相互作用を勉強するための必携書・実践書」として,引き続いて愛読されるように最善の努力を行ったつもりである.読者の方々からのご意見・ご感想があれば,杉山薬局までご連絡いただければ幸いである.
 2010年3月
 杉山薬局 杉山正康

推薦の言葉
 医薬品は周知の如く,医療の現場に於いて,きわめて重要な役割を果たしており,その適切かつ有効な使用は,疾病の進展抑止,治癒促進をもたらす.しかし,不十分で曖昧な知識のままの使用は,患者に不幸な結果をもたらす.日進月歩の医学の発展に伴い,今日,我々臨床医が手にする医薬品の数は,薬価基準収載品目だけでも1万数千という膨大なものになってきており,多忙をきわめる臨床医にとって,その一つ一つについての正確な知識,情報を得ることは,益々困難になっている.一方,我が国は未曽有の高齢化社会を迎え,疾病構造も複雑化,多様化し,使用する薬剤も必然的に多剤併用とならざるを得なくなっている.従って,薬剤単独使用の場合の薬理作用や副作用だけでなく,多剤併用の場合の相互作用や,副作用についても,最新の知識,情報を得て,頭の中で整理しておく必要がある.
 最近のソリブジンと5-FUの相互作用による死亡例の発現は不幸な事例であるが,国民が併用薬剤による薬害にこれまで以上に関心を寄せているのは事実である.このような状況にあって,現場の医師,看護婦,薬剤師をはじめ,薬剤にかかわる多くの方々より医薬品の相互作用の仕組み(発現機序)について,理解しやすい解説書の出現が望まれていた.杉山正康先生は永らく久留米大学医学部医化学教室の講師を務められ,米国留学の経験もある気鋭の薬学者であるが,調剤薬局の臨床薬剤師として転進され,現場での幾多の経験から,医師や患者との良好な信頼関係を確立するために,薬剤師が医薬品の相互作用発現機序について理解しておくことの重要性を早くから認識されていた.特に医師と薬剤師がより一層,薬剤に関する情報交換を行い,密接な連携を図ることが期待されている折に,杉山先生の昼夜を徹する努力によりその願いがかない,本書が上梓される運びになったことは臨床薬剤師のみならず,第一線の臨床医にとっても望外の喜びである.
 本書「薬の相互作用としくみ」は,単に個々の薬剤の相互作用の列記に終わらず,相互作用の発現機序に重点をおいて記載されていることに従来にない特徴がある.本書は処方せんを受け付けた薬剤師が処方内容の併用薬剤について,注意すべき点はないか,併用は禁忌であるか,併用は慎重にすべきかなど,直ちにチェックできる利便性をもった実用書でもある.処方せんを書く医師が全ての薬剤の併用についてあらかじめ知識を有していることが本来の姿であろうが,現実は必ずしも,そうはいかない.医師も本書を利用することにより相互作用に対する知識を深め,薬剤師との相互ダブル・チェックにより,薬剤併用に伴う副作用発現を未然に防止することが可能となる.医師は医療の実践に於いてはオールマイティーであり,リーダーではあるが,薬剤についてのスペシャリストではない.従って,彼のような臨床薬剤師の存在は,我々,臨床医にとって鬼に金棒ともいえる良きパートナーを得た心強さを与えてくれるし,また,その彼が執筆した本書のような存在は,座右において,臨床医の良き片棒となるものと信じている.
 本書が医師,薬剤師をはじめ,薬剤にかかわる多くの方々の良き相談相手となって活用され,薬剤併用による副作用軽減に役立ち,ひいては患者さんのやすらぎとしあわせにつながっていくことを願っている.
 1996年師走
 後藤クリニック院長,産業医科大学非常勤講師 後藤誠一

はじめに
 著者は,調剤薬局の薬剤師としての知識を身につけようと薬学専門書などを読み,また学術講習会にも出席するようにしているが,適切な参考書は意外にも少ないと感じたのが本書を執筆した動機である.
 当初から,薬剤師は処方箋にしたがって薬を患者に説明して手渡すだけではなく,医師や患者から求められていることを理解して行動すべきと考えていた.実務を経験して,薬に対しての知識の豊富さ,つまり薬についてはどんなことでも知っている薬のスペシャリストであることが真の薬剤師であるとの思いを強くもった.薬についての正確な知識の積み重ねが医療従事者間の信頼感を生み出し,ひいては患者からも頼りにされることと強く感じている.したがって,薬剤師は,常に薬全般の新しい情報に目を見張り続けなくてはならず,生涯勉学に勤しむ職業である.特に,薬物相互作用についての知識は,患者にはもちろんのこと,医師からも最も求められていることの一つで,薬剤師が能力を発揮しうる分野である.しかし,ただ単に併用薬剤の是非を知るのみでなく,その発現機序(仕組み)を理解しておく必要がある.なぜならば,その知識を基に薬剤師のみが独自の判断で処方医師と連絡を取り交わし,場合によっては処方変更となることもあり,逆に医師から相互作用について意見を求められることも多いからである.また,発現機序を把握していなければ,似たような薬剤の組み合わせが処方されても応用が効かず,ましてや予期しうる相互作用による薬害を未然に防ぐことも困難である.さらに,PL法が施行されて以来,相次ぐ相互作用に関する医薬品の添付文書の改訂が行われているが,発現機序からこれらを把握しなければ,相互作用に関係するすべての医薬品を個々に覚えることなど不可能である.それゆえに,相互作用の発現機序を理解するのによい専門書はないものだろうかと常々思っていたが,残念ながら個々の薬剤の相互作用を羅列して解説されているものが多く,相互作用の発現機序に対する総括的な知識を得るのが難しい.
 以上のような観点に立ち,本書では相互作用の発現機序(仕組み)に重点をおくことを目的として,これまでに報告されている主要な医薬品相互作用を発現機序別に分類して解説し,随所に薬剤師としての立場での対処についても述べてみた.近年話題となっている薬物代謝酵素のチトクロームP450酵素についても,判明しているレベルでまとめてみた.
 初版でもあり,全薬剤の相互作用を網羅するには至らず,また臨床経験の不足から不備な点も多々あると思われるが,読者の方々からご意見・ご教示をいただき,さらに充実した本になるように改訂を続けるつもりである.本書が薬剤師をはじめとして医師,看護師,薬業関係者やMR・MSの方々が,医薬品相互作用の発現機序を理解するうえで少しでも役立つことを心から願っている.
 最後に,本書の発行にあたり,終始ご協力,ご尽力を賜った小倉薬剤師会専務理事の小田利郎氏,医歯薬出版の担当者諸氏,また本書の作成にあたりご協力いただいた北里大学獣医学部公衆衛生学講座の上野俊治氏,ご意見をいただいた福岡県薬剤師会薬事情報センターの北島麻利子氏,キョーエイ薬品(株)薬事室の二宮ルミ氏をはじめ,ご協力くださったメーカー,医薬品卸の方々および関係各位に心よりお礼を申し上げる.
 1996年12月
 杉山正康
 本書の構成,内容について
  参考図書・文献
  本書の構成と使い方
  欧文略号
  医薬品名・構造式
序章 薬物相互作用とは
 1.相互作用の発現機序
 2.相互作用に注意すべき薬剤
 3.処方箋を受け付けた際の相互作用の考え方と医師・患者への対処
  1)最初に処方箋を受け付けたとき
  2)患者への投薬
 4.発現機序別の併用禁忌(同時服用禁忌も含める)・原則禁忌のまとめ
第1章 薬動態学的相互作用
 A 消化管吸収
  1.物理化学的変化
   1)金属との錯体(キレートなど)形成
   2)吸着
   3)結合(イオン交換,酸塩基結合など)
  2.抗菌剤による腸内細菌叢の変化
  3.消化管運動の変化
   1)難溶性薬剤の溶解
   2)胃排泄時間と初回通過効果
   3)薬剤の分解
  4.消化管内のpH変化
   1)胃内での溶解性の変化
   2)解離度の変化
   3)酸による分解,析出,苦味発現
   4)製剤特質の変化
  5.トランスポーター
   1)P糖タンパク質(P-gp)
   2)MRP2,P-gp誘導および阻害
   3)アミノ酸トランスポーター
   4)PEPT1
   5)OATPs
  6.その他
 B 分布
  1.血漿タンパク結合
  2.血液組織関門
   1)血液脳関門(BBB)
   2)肝分布(OATP2)
   《注意》肝P-gp,MRP2,BSEPによる胆汁排泄に起因する相互作用,薬剤性肝障害
 C 腎排泄
  1.NSAIDによる腎血流量の低下(糸球体濾過量低下)
  2.トランスポーターの阻害・競合(作用増強)
   1)近位尿細管での分泌阻害・競合(作用増強)
   2)その他のトランスポーター
  3.尿酸の再吸収,分泌の変化
  4.近位尿細管でのリチウム(Li),抗菌剤の再吸収
  5.尿pHの変化
  6.その他
 D 代謝
  1.肝チトクロームP450(CYP450)関係
   1)肝チトクロームP450阻害が関与する相互作用
   2)肝チトクロームP450誘導が関与する相互作用
   3)二相効果
  2.チトクロームP450以外での代謝に関係する相互作用
   1)ウラシル脱水素酵素(ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ〈DPD〉)
   2)キサンチンオキシダーゼ(XOD)
   3)アルコール代謝酵素系
   4)抱合
   5)モノアミンオキシダーゼ(MAO)
   6)コリンエステラーゼ
   7)チオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)
   8)エポキシド加水分解酵素(epoxide hydrolase)
   9)葉酸代謝
第2章 薬力学的相互作用──協力および拮抗作用──
 A 薬の作用に起因する相互作用
  1.中枢神経抑制および興奮
  2.末梢神経系
   1)交感神経系
   2)副交感神経系(抗コリン剤,コリン剤),運動神経遮断剤,神経節遮断剤
  3.MAO阻害
  4.ヒスタミン
  5.心機能促進および抑制,QT延長
  6.血管拡張および収縮
  7.血液凝固抑制および促進
  8.血糖値低下および上昇
   ・トピックス メタボリックシンドローム(代謝異常症候群)とアディポネクチン,PPARγ
   ・トピックス 非定型抗精神病薬と糖尿病
 B 薬の副作用に起因する相互作用
  1.痙攣,パーキンソン病
   1)痙攣
   2)パーキンソン病(脳内ドパミン量低下)
  2.低K・高K血症
  3.血液障害
  4.NSAIDによる副作用
   1)消化性潰瘍
   2)腎血流量低下
   3)アスピリン喘息
   4)Stevens-Johnson syndromeスティーブンス-ジョンソン症候群(SJS;皮膚粘膜眼症候群),Lyell syndromeライエル症候群(TEN;中毒表皮壊死症)
   5)Reye syndromeライ症候群
   6)不妊症,心筋梗塞
   7)その他
  5.その他の副作用
   1)横紋筋融解症
   2)肝機能障害
   3)内耳神経(第8脳神経)障害および腎障害
   4)光線過敏症
   5)間質性肺炎
  6.その他の併用禁忌

 A 5-HT(セロトニン)
  1.うつ病,食欲,統合失調症
  2.末梢循環不全
  3.催吐,下痢型IBS抑制作用
  4.消化管運動賦活
  5.片頭痛
 B PDE(ホスホジエステラーゼ)
  1.血管系(血管平滑筋・内皮,血小板)
  2.心筋
  3.気管支平滑筋,炎症細胞
  4.海綿体平滑筋,肺動脈性肺高血圧
 C 飲食物・嗜好品(20品目)と薬の相互作用
 D 薬物トランスポーター(薬物輸送系)
  1.ABCトランスポーター(ABCB,ABCC)
  2.有機イオントランスポーター
  3.ペプチドトランスポーター
 E 受容体
  1.Gタンパク質共役型受容体(GPCR;7回膜貫通型)
  2.チロシンキナーゼ関連型受容体(1回膜貫通型)
  3.核内受容体
   《参考》
    (1)GPCRの脱感作機構
    (2)インスリン受容体
    (3)MAPKカスケード
    (4)ストレス,炎症に関与する細胞内情報伝達系
    (5)アゴニスト非依存的受容体活性化とインバースアゴニスト(逆アゴニスト)
    (6)メカニカルストレスによる心肥大とインバースアゴニスト活性を有するAT1受容体拮抗剤(AT1拮抗剤)
    (7)心肥大と転写因子〔NF-κB,NFAT,PPARs〈α,γ,δ(β)〉〕
    (8)分子標的治療
 F 動脈血栓症
  1.ずり応力惹起血小板凝集(shear stress-induced platelet aggregation;SIPA)
  2.抗血小板療法
  3.急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)
  4.経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)

 薬剤名索引
 一般索引