やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 2005年の介護保険制度の改正によって,要介護状態を悪化させない取り組みを行う「介護予防」の重視がうたわれ,新予防給付が導入された.それにともなう新たな要介護認定の改定が2006年4月より施行された.
 すなわちこれまでの要介護度に加え,新たに要支援状態区分が設けられ,新予防給付の対象となる要支援2の導入がなされた.要支援2は介護認定審査会において,これまでの要介護1のうち,認知症や急性疾患をのぞく,介護予防サービスの提供が適当と考えられる群として判定される.これにより要介護認定は要支援1,2,要介護1,2,3,4,5の7段階の区分に分けられた.
 必然的に認定調査においても調査項目の変更,また主治医意見書についても生活機能に重点を置いた見直しが行われることになった.認定調査票,主治医意見書,要介護認定申請書,介護保険受給資格証明書などの書式についても変更が加えられた.また,こうした変更にともない,要介護認定方法全体の方法論の変更が行われ,介護認定審査会の運営,方法にも変更が必要である.
 本書はこれまでの介護認定審査会の方法を踏まえ,新予防給付の導入とその理解を進め,介護認定審査会における運営上の新たな課題について紹介する.しかし,介護予防のサービスについてはそれほど簡単ではなく,今後現場の努力が相当必要となる.さらには介護予防アセスメントが1名のケアマネジャー当たり8人と決められたことから,地域包括支援センターの負担は多大なものとなっている.
 それゆえ,この混乱を乗り切り,サービスの質の向上を図りつつ,介護保険の運営が順調に行われることを祈念し,さらには本書が改めて介護保険の継続性を担保し,運営上の負担を少しでも軽減し,また現場の混乱を軽減することに役立てば,編者一同の喜びである.
 当初より介護保険は「走りながら考える」と言われてきた.課題は修正しつつ,制度としての介護保険を育てていく必要がある.
 著者代表 遠藤英俊
 はじめに
I 改定要介護認定の経緯と内容
 1.新たな要介護認定の経緯
 2.要介護認定法と介護認定審査会
  1)介護保険制度における要介護認定の位置づけ
  2) 新たな予防給付体系の創設と要介護認定について
  3)介護認定審査会の構成
 3.認定調査票
  1)認定調査票の概要
  2)新たに追加する認定調査項目
  3) 現行の認定調査項目において特記事項の記載の充実を図るもの
 4.介護認定審査会
  1)介護認定審査会資料
  2)介護認定審査会における検討ポイント
  3)状態の維持・改善可能性に係る審査判定
  4)介護認定審査会が付する意見の検討
  5)国への報告
 5.要介護認定のまとめ
 6.要介護認定にともなう資料
  1)運動能力の低下していない認知症高齢者の指標
  2)日常生活自立度の組み合わせによる要介護度別分布
  3)要介護度変更の指標
  4)要介護度変更の指標の分類について
  5)「認知機能・廃用の程度の評価結果」におけるコンピューターにより推定される給付区分について
 7.主治医意見書の読みかた
  1)主治医意見書
  2)主治医意見書の役割
  3)主治医意見書の読みかた
   疾病に関する意見
   特別な治療
   心身の状態に関する意見
   生活機能とサービスに関する意見
   特記すべき事項
 8.主治医意見書活用のポイント
 9.特定疾病の変更の考えかた(がん末期)
 10.特記事項の読みかた
 11.要支援2と要介護1の見きわめ
 12.要介護認定の標準化
II 認知症の要介護認定のポイント
 1.認知症の定義
  1)認知症と加齢にともなう記憶障害
  2)認知症の原因疾患
  3)認知症の診断基準
  4)認知症と鑑別を要する疾患
  5)認知症の程度の評価
 2.せん妄
  1)せん妄の定義
  2)せん妄の原因
  3)せん妄の診断
 3.認知症の疫学と社会背景
  1)認知症の疫学
  2)認知症の薬物療法
  3)認知症の社会背景
 4.認知症の介護予防
  1)認知症のケア
  2)認知症の非薬物療法の現況
  3)回想法について
  4)作業回想法
  5)テレビ回想法
  6)博物館と回想法
III 要介護認定の実務
 1.新規申請→要介護1(要介護1相当)
  一次判定結果と主治医意見書および特記事項を確認のうえ,一次判定結果を変更する事由に該当すると判断したうえで,要介護認定等基準時間などから判断して結果的に要介護度の変更がなく,「状態の維持・改善可能性を審査判定した事例」
 2.自立→要支援2(要介護1相当)
  「日常生活自立度の組み合わせ」と中間評価項目得点による妥当性から,要介護認定等基準時間にかかわらず判断した事例
 3.要支援1→要支援1
  一次判定が「要支援 1 」で,特記事項と主治医意見書の相違があったが,内容を確認のうえ変更理由がないと判断した事例
 4.要支援1→要支援1
  特記事項および主治医意見書の要点を確認のうえ,変更理由がないと判断した事例
 5.要支援1→要支援2(要介護1相当)
  一次判定が「要支援 1 」であったが,「要介護1相当」として「要支援 2 」に変更した事例
 6.要支援1→要支援2(要介護1相当)
  中間評価項目得点等から要介護度の内容の傾向を判断し,日常生活の活動性により判定した事例
 7.要支援1→要介護1(要介護1相当)
  特記事項と主治医意見書の要点を確認のうえ,中間評価項目得点と「日常生活自立度の組み合わせ」を参考にして,総合的な妥当性から要介護度を判断した事例
 8.要介護1相当→要支援2(要介護1相当)
  一次判定が「要介護 1 相当」で,推定給付区分の吟味により「要支援 2 」 とした事例
 9.要介護1相当→要支援2(要介護1相当)
  特記事項の要点を確認のうえ,中間評価項目得点と日常生活自立度による妥当性から判断した事例
 10.要介護1相当→要支援2(要介護1相当)
  介護の必要性を考慮したうえで,身体機能状態の維持・改善が可能として判断した事例
 11.要介護1相当(要介護3)→要介護3
  中間評価項目得点による「状態像の例」ではなかなか判断がつきにくいが,調査項目と特記事項の内容を詳細に検討して全体像から判断した事例
 12.要介護3→要介護3
  一次判定が「要介護3」で,一次判定結果を変更または修正することが可能な事例として審査した結果,要介護度の変更をしなかった事例
 13.要介護3→要介護3
  「日常生活自立度の組み合わせ」を考慮し,特記事項と主治医意見書の要点を確認のうえ,中間評価項目得点による妥当性から判断した事例
 14.要介護3→要介護4
  特記事項と主治医意見書の内容も考慮したうえで,中間評価項目得点と平均得点の傾向による妥当性から判断した事例
 15.要介護4→要介護4
  中間評価項目得点からだけでは判断しにくい状態を,認定調査項目の内容と要介護認定等基準時間の傾向から判断した事例
 16.要介護5→要介護5
  寝たきりと認知症の特性から認定調査項目や要介護認定等基準時間をみて,中間評価項目得点による妥当性から判断した事例
 17.要介護5→要介護5
  要介護認定等基準時間の傾向や中間評価項目得点の特徴から判断した事例
 18.あなたはどのように審査判定しますか
  事例検討のポイントを考えます(1)
 19.あなたはどのように審査判定しますか
  事例検討のポイントを考えます(2)
IV 一次判定・二次判定CD-ROM「ももちはまVer.3」
 要介護度判定シミュレーション「ももちはまVer.3」のご使用にあたって
 付録 一次判定・二次判定CD-ROM「ももちはまVer.3」