やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版 序文
 「食品学実験書」は発刊後,四半世紀が経った.この間,管理栄養士および栄養士養成課程をはじめとして,食品科学に関連する大学,短期大学,専門学校で,学生実験などに活用いただいていることに感謝申し上げる次第である.
 本書の編集方針は,初版では,栄養士養成課程での「食品学実験」のテキストとして,また高等学校で化学を十分に学んでいない学生が理解できることを重視し,第2版では,食品一般成分の分析だけでなく,調理科学や機能性成分など,応用実験へ幅を広げた.第2版の補訂版では,五訂日本食品標準成分表と各実験項目との関連性について追補し,第3版では日本食品標準成分表2015年版(七訂)の解説と,高校化学での指導内容の変更〔規定度(N)からモル濃度(mol/l)となった〕に対応した修正を行うなど,充実を図ってきた.
 2020年12月,文部科学省から日本食品標準成分表2020年版(八訂)が公表され,エネルギー計算方法の変更,炭水化物の表頭項目の追加,食物繊維は総量だけを掲載するなどの変更があった.それに伴い,本書でも「第3章 日本食品標準成分表に基づく定量実験」を中心に改訂を行った.これからも時代にそった実験書を目指していきたい.
 ところで,食品学実験は化学実験だと思われがちだが,実は,重量測定を基本とする実験であり,天秤は縁の下の力持ちである.試料採取や実験項目の水分定量,灰分定量,脂質定量,食物繊維定量は,重量測定が中心である.重量の国際的基準について,国際度量衡総会では,130年間続いた国際キログラム原器(IPK)を廃止し,2019年5月からプランク定数を基準年経計算で求める方法に変更した.キログラムの時代から,ナノ,マイクロなどミクロレベルへの時代対応であるが,食品の実験においても最近は,生化学実験かと思うほど,マイクロピペットやマイクロチューブの使用頻度が高くなっている.実験器具の取り扱いなどの実験手技は時代とともに進歩するが,天秤の取り扱いや精度管理はいつの時代になっても変わらず,大切にしたい事項である.
 なお,消費者庁では,2015年施行の食品表示法により,加工食品への「栄養成分表示」を義務づけた.加工食品の成分分析は,食品表示法「別添 栄養成分等の分析方法等」によるものとしているが,本書の一般成分の各実験項目は,この別添に基づいた実験であることを申し添えておく.
 2021年12月
 編者代表


序文
 本書は,食品学実験のために学生が使用するテキストとして編集したものである.「食品学実験」のおもな目的は,実験を通じて食品に対する理解を深めることと,食品分析技術の修得であると考えられる.大学,短期大学および専門学校における栄養士養成施設において,「食品学実験」は3時間30回(2単位)実施している場合が多い.ところで,実験を行う学生は大学,短期大学などに入学して初めて本格的な「化学実験」を行う場合がほとんどであり,高等学校において化学を履修していない場合さえある.このような現状で上記の目的のために十分な成果をあげるには,指導教師の熱意と要領のよい指導,わかりやすくて使いやすい指導書がなによりも必要である.
 執筆者らはこれまで実験教育に携わってきており,本書の編集にあたって,その経験から学生に理解しやすくて受け入れられやすく,かつ教師にとっては教えやすいテキストにするよう心がけた.また,ほとんどの学生は,実験報告書(レポート)の書き方を学ぶ機会をもっていないため,このテキストでは,実験ごとに提出するレポート用紙をつけ,レポートの書き方を修得できるようにした.
 本書の構成は,初めて実験をする場合を考慮した基礎実験,四訂日本食品標準成分表の分析方法に基づく食品成分の定量分析およびその他の食品に関する実験とした.実験材料には日本人になじみの深い「大豆」を例として取り上げてみた.また,分析機器の知識は基礎実験のなかに一項目を設けて,原理などの解説と実験例を示した.「ワンポイントアドバイス」には,実験の工夫,ポイント,気をつけることなどを記して,その実験がスムーズに実施できるようにし,「コラム」欄には,食品学実験関連のミニ知識,最新の食品・栄養学の知識などを記した.
 不備な点も多いと思われますが,広く皆さんのご教示,ご指導をいただき,今後さらによりよいものにしたいと考えております.
 おわりに,本書の出版にあたり,医歯薬出版株式会社編集部にはたいへんお世話になりました.厚くお礼申し上げます.
 1994年3月
 執筆者一同
1 食品の基礎実験
 1―実験の基礎
  1)実験の全般的注意
  2)試薬の調製
  3)器具
  4)基本操作
 2―容量分析
  1)中和滴定
  Exp 1 0.1M水酸化ナトリウムの標定と市販濃塩酸のモル濃度の決定
  2)酸化還元滴定
  Exp 2 過マンガン酸カリウム標準溶液の調製および標定
  Exp 3 オキシドール中の過酸化水素の定量
  Exp 4 チオ硫酸ナトリウム標準溶液の調製と標定
  Exp 5 さらし粉中の有効塩素の定量
  3)沈殿滴定
  Exp 6 0.01M硝酸銀標準溶液の調製と標定―モール法
  4)キレート滴定
 3―食品実験に使われる分析手段・機器分析
  1)pHの測定
  2)比色分析
  3)蛍光分析
  4)原子吸光分析
  5)クロマトグラフィ
  6)電気泳動
2 食品成分の定性実験
 1―たんぱく質・アミノ酸の定性
  1)呈色反応
  Exp 7 ビュレット反応
  Exp 8 ニンヒドリン反応
  Exp 9 キサントプロテイン反応
  Exp10 アダム・キーウィッツ反応―ホプキンス・コーレ反応
  Exp11 ミロン反応
  Exp12 坂口反応
  Exp13 硫化鉛反応
  2)沈殿・凝固反応
  Exp14 熱による凝固反応
  Exp15 濃塩類による沈殿反応
  Exp16 有機溶媒による沈殿反応
 2―糖質の定性
  1)糖質に共通する反応
  Exp17 モーリッシュ反応
  Exp18 アンスロン反応
  2)還元糖に特有の反応
  Exp19 フェーリング反応
  Exp20 銀鏡反応
  Exp21 ベネディクト反応
  3)単糖類と二糖類の判別反応
  Exp22 バーフォード反応
  4)ケトースに特有の反応
  Exp23 セリワノフ反応
  5)六炭糖と五炭糖の判別反応
  Exp24 スカトール反応
  Exp25 オルシン塩化鉄反応―ビアル反応
  6)オサゾンの生成反応
  Exp26 フェニルヒドラジン反応
  7)ヨウ素-デンプン反応
  Exp27 ヨウ素-デンプン反応
 3―ビタミン類の定性
  1)脂溶性ビタミンの定性反応
  Exp28 ビタミンAの定性反応―カール・プライス反応
  Exp29 ビタミンDの定性反応
  Exp30 ビタミンEの定性反応
  2)水溶性ビタミンの定性反応
  Exp31 ビタミンB1の定性反応―ジアゾ法
  Exp32 ビタミンB2の定性反応―ルミフラビン反応
  Exp33 ビタミンCの定性反応―インドフェノール反応
3 日本食品標準成分表に基づく定量実験
 1―日本食品標準成分表
  1)「日本食品標準成分表 2020年版(八訂)」の概要
  2)「日本食品標準成分表 2020年版(八訂)」の分析方法
 2―エネルギー値の算出
 3―水分の定量
  Exp34 常圧加熱乾燥法
 4―たんぱく質の定量
  (ローリー法によるたんぱく質の微量定量法)
  Exp35 ケルダール法
 5―脂質の定量
  Exp36 ソックスレー抽出法
  Exp37 クロロホルム-メタノール混液改良抽出法
 6―炭水化物の定量
  1)全糖量の定量
  Exp38 アンスロン硫酸法
  2)食物繊維の定量
  Exp39 酵素重量法
 7―灰分の定量
  Exp40 直接灰化法
 8―無機質の定量
  1)無機質分析試料等の取り扱いについて
  Exp41 湿式分解法による試料の調製
  2)ナトリウムの定量
  Exp42 ナトリウムの定量―原子吸光法
  3)カリウムの定量
  Exp43 カリウムの定量―原子吸光法
  4)カルシウムの定量
  Exp44 カルシウムの定量―原子吸光法
  5)マグネシウムの定量
  Exp45 マグネシウムの定量―原子吸光法
  6)リンの定量
  Exp46 リンの定量―比色法
  7)鉄の定量
  Exp47 鉄の定量―比色法
  8)亜鉛の定量
  Exp48 亜鉛の定量―原子吸光法
  9)銅の定量
  Exp49 銅の定量―原子吸光法
  10)マンガンの定量
  Exp50 マンガンの定量―原子吸光法
 9―ビタミンの定量
  1)ビタミンAの定量
  Exp51 レチノールの定量―HPLC法
  Exp52 カロテンの定量―HPLC法
  2)ビタミンDの定量
  Exp53 ビタミンDの定量―HPLC法
  3)ビタミンEの定量
  Exp54 ビタミンEの定量―HPLC法
  4)ビタミンKの定量
  Exp55 ビタミンKの定量―HPLC法
  5)ビタミンB1の定量
  Exp56 ビタミンB1の定量―HPLC法
  6)ビタミンB2の定量
  Exp57 ビタミンB2の定量―HPLC法
  7)ナイアシンの定量
  Exp58 ナイアシンの定量―微生物定量法
  8)ビタミンB6の定量
  Exp59 ビタミンB6の定量―微生物定量法
  9)ビタミンB12の定量
  Exp60 ビタミンB12の定量―微生物定量法
  10)葉酸の定量
  Exp61 葉酸の定量―微生物定量法
  11)パントテン酸の定量
  Exp62 パントテン酸の定量―微生物定量法
  12)ビタミンCの定量
  Exp63 ビタミンCの定量―HPLC法
  Exp64 ビタミンCの定量―ヒドラジン法
 10―その他の成分の定量
  1)アルコール分の定量
  Exp65 清酒中のアルコール分の定量―ガスクロマトグラフ法
  2)酢酸の定量
  Exp66 食酢中の酢酸の定量―直接滴定法
  Exp67 トマトケチャップ中の酢酸の定量―水蒸気蒸留-滴定法
  3)カフェインの定量
  Exp68 緑茶浸出液中のカフェインの定量―HPLC法
  4)タンニンの定量
  Exp69 緑茶中のタンニンの定量―酒石酸鉄吸光光度法
  Exp70 コーヒー豆中のタンニンの定量―フォーリン・デニス法
4 食品の応用実験
 1―食品成分の分離
  Exp71 牛乳からカゼインの分離
  Exp72 小麦粉からデンプンとグルテンの分離
 2―食品の色
  1)天然色素
  Exp73 クロロフィルの同定
  Exp74 アントシアニンの抽出と安定性試験
  2)褐変
  Exp75 酵素的褐変
  Exp76 非酵素的褐変―アミノ-カルボニル反応
 3―食品の味
  1)食味テスト
  Exp77 3点識別試験法
  Exp78 濃度の識別―順位法
  2)酸度
  Exp79 中和滴定による酸度測定
  3)塩分
  Exp80 沈殿滴定による塩分の定量
 4―食品の香り
  Exp81-A 酢酸イソアミルの合成
  Exp81-B 酢酸イソアミルの同定―ガスクロマトグラフ法
 5―食品の物性
  Exp82 えん下困難者用食品の力学的特性
  Exp83 食品の熱分析
 6―食品成分の変化
  1)デンプン
  Exp84 デンプンの糊化
  Exp85 アミラーゼの糖化力
  2)たんぱく質
  Exp86 果物のプロテアーゼによる食肉たんぱく質の分解
  3)油脂
  Exp87 酸価
  Exp88 過酸化物価
  Exp89 抗酸化活性―DPPHラジカル消去活性の測定
 7―飲料水の検査
  Exp90 飲料水の水質検査
  Exp91 水道水中の塩化物イオンの定量
  Exp92 水の硬度測定

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