やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の発行にあたって
 日本食品標準成分表2015年版(七訂)」(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告.以下,「成分表2015年版(七訂)」)は,収載食品の充実,炭水化物等の収載成分の充実,数値の再検討等,大幅な改訂がなされた.それにともない,本書も「成分表2015年版(七訂)」に準拠したものへと見直す必要が生じ,今回の改訂に至った.
 2005年以降,「食育基本法」の制定,「栄養教諭制度」の創設,「食事バランスガイド」の公表など,食に関するさまざまな制度が創設されてきた.その背景には,やせや肥満,孤食の増加,朝食の欠食などの食生活の乱れ,生活習慣病の低年齢化など,さまざまな問題が生じてきた.これに伴って食育の必要性がますます高まってきた.
 そのような中,本書は2007年1月に刊行された.著者らは本書を単なる調理方法や技術習得だけでなく,食事を構成する一食当たりの献立を計画すること,献立が主食,主菜,副菜,汁物などから構成されていることを調理学実習の学修の中から学ぶことを目的として編集をしてきた.現在,「食育基本法」が施行されてから10年が経過し,食育も周知から実践力を身につけることへ重点を置かれるようになった.本書を主に活用するであろう,栄養士,管理栄養士など食に関わる方々が,将来の健康やQOLの向上を目指した食育の実践力を高める献立計画や食育指導を行うためには,調理技術の向上はもとより,献立構成力,献立計画力の向上が求められる.さらに,その献立を通じて対象者が,食に対する興味や関心を高め,食を楽しみ,自己管理できる能力を高めようとする意欲向上へとつながる企画力,発展力が求められるようになった.それだけ,栄養士,管理栄養士,栄養教諭などの力が求められる時代に変化してきた.本書が調理における基礎力を身につけるだけにとどまらず,食を通じた健康づくりや食を担う力の向上など様々な場面で活用されることを願っている.
 本書の改訂では,栄養量の見直しだけでなく,調理方法等の見直しも同時に行ったが,本書をより充実した実習書に発展させるためにも,ご活用いただいた方々からのご批判,ご教示,忌憚のないご意見をいただけると幸いである.
 最後に,本書の改訂にあたっては,医歯薬出版株式会社の皆様に多大なるご尽力をいただきました.心から御礼申し上げます.
 2016年3月
 執筆者


まえがき
 本書は,調理学実習の基礎的な調理技術,理論の習得を目的として編集した.
 近年の生活習慣病の増加や若年化は社会的に大きな問題となっている.日本人の食事摂取基準(2005年版)においても生活習慣病予防をとくに重視しており,2005年に公表された食事バランスガイドでは,生活習慣病予防や健康の維持増進という観点から,1回の食事または1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかという食事の基本が身につくように解説されており,バランスのとれた食生活を実現することの重要性が示されている.
 本書は,「料理」という実習単位から「食事」という実習単位で構成し,1回の実習を1回の食事,すなわち献立とすることで,実習をとおして望ましい食事の構成を理解し,生活習慣病予防につながる食事を学べるように構成した.
 献立では1人分の分量表示とし,調味料などの分量は可能な限り割合(パーセント)による表示をした.そのことにより調理対象人数の増減への対応,再現性の高い調理が可能となるため,少量調理から大量調理への応用が容易であり,給食施設に従事する方々にも利用しやすいものとした.
 調理の対象者は健康な人々だけでなく,食事療養(食事療法,治療食など)が必要な人々についても考慮する必要がある.成分別栄養管理においては,バランス食で制限のない食事(常食)から展開されることが多い.本書の献立は健康な人を対象としているが,応用として食事療養を対象とした例も掲載した.また,調味パーセント表示により調味料の増減を容易に行えるため,食事療養への展開が行いやすく,臨床栄養の現場においても活用することが可能と思われる.
 このように,本書は調理学実習だけにとどまらず,大量調理,臨床栄養の献立にも活用できることが特徴である.栄養士・管理栄養士養成施設だけでなく,給食施設および臨床栄養に関連する施設においても活用の場が広がり,調理学実習を通じて「調理」だけにとどまらない広い視野からとらえることができる能力が養われることを期待している.
 調理することは単にレシピの学習ではなく,食べる人の顔または気持ちを考えながら食事を作ることが非常に大切なことでもある.おいしく楽しく食べていただけると,再度作る意欲も湧いてくる.意欲があると調理技術の上達も早くなる.このように,楽しく,バランスのとれた,おいしい食事のための調理実習書として本書が利用されるならば,このうえない喜びである.
 著者らはまだまだ浅学のため,不備な点や意を尽くせなかった点も多々あるが,読者の方々,諸先生方のご批判,ご叱正,ご指導をいただけると幸いである.今後一層の研究を重ね,よりよい実習書へと発展させていきたいと考えている.本書を執筆するにあたり参考にさせていただいた多くの著書・文献の著者の方々には心から謝意を表したい.
 おわりに,本書を企画するにあたり,懇切なご助言,ご指導をいただいた古川英先生ならびに諸先生方に感謝の意を表するとともに,出版にあたりご配慮くださった医歯薬出版株式会社編集部に厚くお礼申し上げる次第である.
 2006年11月
 執筆者
調理学実習の基礎
 調理の目的と意義
 調理学実習の心得
 調理の準備操作
調理の基本
 調味の割合
 調味の基準
 食品重量表
 食品の概量
 食材の切り方-日本・中国・西洋料理対応表
 乾物のもどし方
 調理温度と時間
 し好温度
日本料理
 日本料理の特徴
 実習1 白飯/吉野鶏のすまし汁/茶碗蒸し/ほうれん草のごま和え
 実習2 塩味飯/炊き合わせ/酢の物
 実習3 赤飯/村雲汁/あじの姿焼き/筑前煮
 実習4 ゆかり飯/三州みそ汁/厚焼き卵/いかとわけぎのぬた
 実習5 麦飯/てんぷら/かぼちゃの含め煮/豆腐の田楽
 実習6 五目炊き込みご飯/締め卵の清汁/白和え/水羊羹
 実習7 親子丼/かつおのすり流し汁/わらび餅
 実習8 ちらし寿司/蛤の潮汁/葛桜
 実習9 七夕そうめん/白玉あんみつ
 実習10 田作り/伊達巻き/栗きんとん/紅白なます/松風焼き/黒豆/かずのこ/昆布巻き
西洋料理
 西洋料理の特徴
 実習11 サンドウィッチ/グリーンサラダ/スコン/紅茶
 実習12 コンソメジュリエンヌ/プレーンオムレツ/カスタードプディング
 実習13 じゃがいものポタージュ/にじますのムニエル/ワインゼリー
 実習14 マカロニグラタン/フルーツサラダ/レモンピールケーキ
 実習15 ビーフストロガノフ/マセドアンサラダ/ブッシュドノエル
 実習16 ローストチキン/フルーツパンチ
中国料理
 中国料理の特徴
 実習17 糖醋魚/四宝湯/杏仁豆腐
 実習18 涼拌海皮/青椒牛肉絲/魚丸子湯/炸菊花餅
 実習19 麻婆豆腐/蕃茄蛋花湯/什錦炒飯/抜絲白薯
 実習20 雲白肉片/乾焼明蝦/牛玉米湯
 実習21 涼拌芹菜豆芽/果粒蝦仁/ 飩湯/肉包子
 実習22 蝦仁吐司/涼拌黄瓜/豆腐蛤蜊羹/餃子・鍋貼/西貢米凍
各国料理
 実習23 ラタトゥユ/エリンギのスパゲテイ/鶏もも肉の香草焼き/ガスパッチョ
 実習24 トマトの前菜/エジプト豆の煮込みスープ/えびのマリネ/パプリカのサラダ/チュロス
 実習25 ポピア・ユアン・ソッド/ソム・タム・タイ/パッブン・ファイデーン・ムー/トム・ヤム・クン

 付表 野菜の切り方,魚のおろし方
 参考図書