やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第8版改訂の序
 公衆栄養学は,社会・経済・自然環境等の変化に対応しながら,地域で生活しているさまざまな人々の健康とQOLの向上に寄与することを目的に,国や地域の公衆栄養活動を効果的に推進するための理論・実践を学習する学門である.
 本書は,1996年に初版を発行以来,版を重ね,2007年に第7版を発行してからすでに5年間が経過した.この間,公衆栄養を取り巻く環境の変化に伴い,わが国における公衆栄養分野での取り組みも大きく変化してきた.たとえば,食育の全国的規模での拡がり,介護予防対策の強化,生活習慣病対策の拡充,「健康日本21」見直しに伴うポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ両面での取り組み,科学的根拠をより重視する公衆栄養活動への転換などである.
 このような動きに対応して,本書を常に時代に合ったものにすべく,第7版発行後も細かな修正を加えてきたが,このたび,「日本人の食事摂取基準2010年版」が発表されたのを機に,版を改めることとした.あわせて,2009年の健康増進法施行規則等の改正に伴う「特別用途食品」の取り扱いの変更や,世界の健康・栄養に関する最新の情報等を取り入れた内容とした.
 ヘルスプロモーションの概念に基づく公衆栄養活動の担い手として,社書として,本書を広くご活用いただければ幸いである.
 終わりに,本書の改訂に当たり,ご尽力いただいた医歯薬出版株式会社に心から感謝申し上げる.
 2010年2月吉日
 編者一同

はじめに
 「公衆栄養」が栄養士養成施設での教科目として採用されてから22年を経過し,いま大きな転換期を迎えようとしている.
 それは少子・高齢化社会と環境問題を目前にして,その目的である健康づくりが住民参加型のヘルスプロモーション,さらにはウエルネスへと転換し,それへの地域ぐるみの新しい対応が求められてきたことである.そしてそのためには地域で働く栄養士や栄養ボランティアの意識改革とそれに即した活動が必要で,その体制をどう構築していくかがこれからの大きな課題である.「方法を生み出す栄養士」への期待と併せて,これからの公衆栄養学にそれが求められる.
 本書は現在,栄養士養成施設で公衆栄養学を担当している者と管理栄養士として公衆栄養活動に従事している者らによる共著である.上記のような主旨にそってこれからの「公衆栄養」に大きな期待を込めて,各章を分担執筆している.
 脱稿したうえで読み返してみると,初めの意図がどれだけ達成されたかと反省される点もある.また専門の立場からは行き届かない点や不備の点も指摘されると思う.これらの点については読者諸賢ならびに同学の士のご批判とご叱正を待ちたい.なお執筆に当たっては多くの著書・論文等を参考にしたが,なかでも巻末に記した文献には負うところが多い.これらの著者各位に深く謝意を表する.
 終わりに,本書の出版にご理解を賜り出版の労をとられた医歯薬出版株式会社に深くお礼を申しあげる.
 平成8年1月20日
 編者 沖増 哲
 第8版改訂の序
 はじめに
Chapter1 これからの公衆栄養学を求めて(沖増 哲)
 1.公衆栄養学の概念
  1)学際科学としての公衆栄養学
  2)公衆栄養のパラダイム(思考の枠組み)
  3)環境とそのシステムモデル
  4)食生活と環境との関係―公衆栄養の視点から
 2.公衆栄養活動
  1)生態系保全のための公衆栄養活動
  2)ヘルスプロモーションとエンパワメントのための公衆栄養活動
  3)疾病予防のための公衆栄養活動
  4)高齢社会における健康づくりのための公衆栄養活動
  5)地域づくりのための公衆栄養活動
  6)ウエルネスのための公衆栄養活動
Chapter2 公衆栄養活動の進め方
 1.公衆栄養マネジメント(松原知子)
  1)公衆栄養マネジメントの過程
  2)プリシード・プロシードモデルによるマネジメント
  3)公衆栄養マネジメントにおける管理栄養士・栄養士の役割
 2.公衆栄養アセスメント
  1)社会ニーズの把握
  2)アセスメントの手順
  3)アセスメントの項目
  4)アセスメントの方法
 3.公衆栄養プログラムの計画
  1)計画の策定
  2)運営面のアセスメント
  3)政策面のアセスメント
  4)計画書の作成
 4.公衆栄養プログラムの目標設定(前大道教子)
  1)目標の種類
  2)目標の設定
 5.公衆栄養プログラムの実施(松原知子)
  1)地域社会資源の管理
  2)コミュニケーションの管理
  3)プログラム実施と関係者・機関の役割
 6.公衆栄養プログラムの評価
  1)評価の種類
  2)評価の流れ
  3)評価のための情報収集
  4)評価のためのモニタリングシステム
  5)評価結果のフィードバック
  6)評価のデザイン
Chapter3 栄養疫学(下方浩史)
 1.栄養疫学の概要
 2.曝露情報としての栄養摂取量
  1)食物と栄養
  2)食事の個人内変動と個人間変動
  3)日常的な,平均的な食事摂取量
 3.総エネルギー摂取量の栄養摂取量に及ぼす影響
  1)栄養密度法
  2)残差法
 4.食事摂取量の測定方法
  1)食事記録法
  2)思い出し法
  3)食生活調査
  4)食事摂取量を反映する生化学的指標
  5)食事摂取量を反映する身体測定値
 5.栄養疫学の方法
  1)健康問題を発見するには
  2)栄養と健康の関係を探るには
  3)系統誤差とバイアス
  4)交絡
 6.疫学の指標
  1)疾病の頻度,死亡や生存にかかわる指標
  2)曝露要因の効果に関する指標
Chapter4 公衆栄養の現状と問題点を探る
 1.少子高齢社会の進展(佐久間章子)
  1)出生率の低下
  2)平均寿命の延長
  3)高齢社会と健康・栄養問題
  4)増え続ける要支援・要介護高齢者
 2.健康状態の変化
  1)感染症の時代から生活習慣病の時代へ
  2)増加する生活習慣病患者数・国民医療費
  3)QOLの低下をまねく循環器疾患の増加
  4)欧米に多くみられるがんの増加
  5)糖尿病および予備群は約2,210万人
  6)男性の肥満,若い女性のやせの増加,メタボリックシンドロームおよび予備群は約1,900万人
  7)歯の本数・喫煙習慣は食生活決定の一因子
 3.栄養状態の変化
  1)米離れ,肉類・油脂類の増加
  2)動物性食品からのたんぱく質・脂質摂取量が増加
  3)食塩,成人の60%以上の者が目標量以上摂取
 4.揺れる食行動(森脇弘子)
  1)若年層に目立つ朝食欠食
  2)増える“コ”食
  3)増えた外食,増え続ける中食
  4)増える栄養補助食品等の利用
  5)食態度の変容・食スキルの獲得
 5.変貌する食環境
  1)重視される食の安全性確保(佐久間章子)
  2)深刻化する食料自給率の低下
  3)はんらんする食情報(森脇弘子)
  4)生活環境の変化
  5)変貌する社会・経済・文化的環境(岸田典子)
  6)見直したい自然環境
Chapter5 公衆栄養と栄養行政
 1.わが国の公衆栄養活動の歴史(前大道教子)
  1)黎明期と終戦前後・復興期―脚気対策と栄養関係諸制度の確立
  2)経済の成長期・低成長期―住民ボランティア活動と健康づくり対策の始まり
  3)少子高齢期―時代が求める管理栄養士制度と諸制度の大きな構造転換
 2.栄養行政組織とその役割(松原知子)
  1)国レベルの栄養行政
  2)都道府県レベルの栄養行政
  3)保健所(都道府県ブロックレベル)の栄養行政
  4)市町村レベルの栄養行政
 3.管理栄養士・栄養士養成制度(前大道教子)
  1)栄養士法,栄養士法施行令および栄養士法施行規則
  2)管理栄養士・栄養士制度の沿革
 4.国民健康・栄養調査
  1)調査の目的
  2)調査の沿革
  3)調査の内容
  4)調査の方法
 5.「健康日本21」と地方計画の策定
  1)健康づくり対策の変遷と「健康日本21」策定の背景・意義・目的
  2)「健康日本21」の内容
  3)「健康日本21」の推進と地方計画
 6.公衆栄養活動のための活動指針(松原知子)
  1)食生活に関する指針
  2)運動に関する指針
  3)休養に関する指針
Chapter6 食事摂取基準(竹田範子)
 1.栄養所要量から食事摂取基準へ
 2.日本人の食事摂取基準(2010年版)の策定の対象と設定指標
  1)エネルギーの指標「推定エネルギー必要量」
  2)栄養素の指標「推定平均必要量」「推奨量」「目安量」「耐容上限量」「目標量」
 3.日本人の食事摂取基準(2010年版)の活用の基本的事項
  1)個人を対象とした食事改善を目的として用いる場合の基本的事項
  2)集団を対象とした食事改善を目的として用いる場合の基本的事項
  3)給食管理を目的として用いる場合の基本的事項
  4)エネルギーおよび主な栄養素の食事摂取基準の算定方法
Chapter7 公衆栄養プログラムの実際
 1.母子保健対策(竹内育子)
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)主な関係プラン・指針
  4)対策の実際
 2.学童・思春期対策(八木佐和子,加島浩子)
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)対策の実際
 3.成人期対策
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)対策の実際
 4.高齢者対策
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)対策の実際
 5.給食施設指導(小田光子)
  1)管理栄養士・栄養士の配置
  2)栄養管理指導
  3)指導助言,勧告,命令
 6.食環境づくり
  1)現状とその背景
  2)特別用途食品,保健機能食品,栄養表示基準の各制度
  3)アレルギー物質含有表示
  4)外食栄養成分表示
  5)食事療法用宅配食品等栄養指針
  6)虚偽又は誇大な広告等の禁止
 7.人材育成と活用
  1)公衆栄養と地区組織活動
  2)市町村の管理栄養士・栄養士の確保,教育研修とその活用
  3)職能団体“栄養士会”の活動と連携
 8.健康危機管理対策(竹内育子)
  1)現状とその背景
  2)関係指針
  3)対策の実際
Chapter8 世界の健康・栄養問題の現状と政策(力丸 徹)
 1.世界の健康・栄養問題の現状
  1)世界の平均寿命は近年急激に延びている
  2)死因の6割が慢性疾患による
  3)生存と健康的な生活のリスクファクター
  4)リスクファクターは地域により異なる
  5)地域別栄養不良の発生状況
 2.世界の健康・栄養政策
  1)国際サミットや国際会議で批准された事項
  2)国際機関の発表した健康栄養指針
  3)各国の栄養政策
  4)諸外国の食事ガイドライン
  5)食事ガイド
  6)諸外国の食事摂取基準
  7)諸外国の栄養士制度
  8)世界およびわが国の課題

 文献
 付表・資料
 付表―日本人の食事摂取基準2010年版
 資料I―関係法規
 資料II―公衆栄養の歴史
 索引