やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修のことば
 古代人は毎日40kmは歩いていたと考えられています.今日,先進国における現代人の歩行距離は平均1.5kmとされ,さらに食事摂取も豊かになり,それにともない肥満者が増加しました.
 このような背景のなかで“メタボリックシンドローム”という言葉が誕生しました.この言葉は急に生み出されたわけではありません.1988年にReavenが,インスリン抵抗性を基盤として,耐糖能異常,高インスリン血症,高トリグリセリド血症,低HDL血症,高血圧が合併しやすくなり,こうした病態が虚血性心疾患発症リスクを高めるという「シンドロームX」を提唱.1989年には,Kaplanが,肥満のなかでも上半身肥満,2型糖尿病,高トリグリセリド血症,高血圧が集積した病態を「死の四重奏」とし,この4つの病態の収束が動脈硬化性心血管疾患を招く「マルチプルリスクファクター症候群」を提唱.1991年にDeFronzoらは,インスリン抵抗性が高インスリン血症,耐糖能障害,肥満,脂質代謝障害,高血圧の原因であると考え,これらの代謝性異常病態の集積を「インスリン抵抗性症候群」と名づけました.1994年には,松澤佑次らが肥満症を内臓脂肪蓄積型と皮下脂肪蓄積型に分け,内臓脂肪蓄積型は,耐糖能異常や脂質代謝異常と関連し,これらに高血圧症を合併した病態を「内臓脂肪症候群」として,冠動脈疾患発症のハイリスク状態であることを報告しました.2005年には日本独自のメタボリックシンドローム診断基準が発表されました.2008年度よりメタボリックシンドロームの概念を活用した特定健診・特定保健指導制度が導入されました.
 本書はメタボリックシンドロームに関わるさまざまな事柄をQ&A形式で解説したもので,健診をはじめ生活習慣病の予防治療にかかわる医師,保健師,管理栄養士,保健指導師などの医療職が理解を深められるように書かれています.系統的に構成され,しかもわかりやすいので,健康栄養関連の学生や一般の方にも活用されることを願っています.

 2008年9月 橋詰直孝

編集のことば
 特定健診・保健指導がスタートしました.医師のみならず保健師・看護師・管理栄養士や薬剤師・健康運動指導士などのヘルスケアプロフェッショナルにとってこれは自らのプロとしての能力を深める絶好の機会だと思います.メタボリックシンドロームは診断基準の問題はあるものの,血圧,脂質,糖代謝という生活習慣病の幅広い領域とその基盤となる肥満(内臓肥満)を含む病態であり,これを理解し,臨床実践することは医学・医療の進歩を身につけることにほかならないからです.
 メタボリックシンドローム関連の図書が少なくないなかで,本書は“Q&A”を重視し,図表を入れ込むことで読者の方々にとって親しみやすく忘れにくい本であることを目指しました.栄養学の権威である橋詰直孝先生,生活習慣改善のエキスパートの坂根直樹先生とともに編集作業に関わったことは非常に幸せなことでした.
 さらに,たんに特定健診・保健指導を理解するということのみに目的を限定せず,健康,病(やまい)にまで視野を広げてQ&Aがつくられていますので,活用される方々の知的好奇心にも応えうる内容になっているものと自負しています.
 臨床は現場とUpdateな情報・知識との相互のはたらきかけによってその質を高めていきます.読者の皆さまが新しいQuestionを書き込み,さらにAnswerへ新知見を追加しながら本書を座右の書にしていただくことが私の心からの願いです.

 2008年9月 編集者を代表して 久保 明
 監修のことば
 編集のことば
病態編
 ●1 メタボリックシンドロームってなに 久保 明
 ●2 メタボリックシンドロームはなぜ悪いのか 久保 明
 ●3 メタボリックシンドロームの診断基準は国によって違うのか 久保 明
 ●4 肥満などの生活習慣病とメタボリックシンドロームの診断基準の違いは 久保 明
 ●5 肥満症とメタボリックシンドロームの治療・管理は共通したものか区別すべきものか 久保 明
 ●6 メタボリックシンドロームの診断基準で血圧はなぜ厳しい値になっているのか 久保 明
 ●7 メタボリックシンドロームの診断基準で脂質のなかにコレステロール(LDL─Cho)が入っていないのはなぜ 久保 明
 ●8 肥満はどのように診断するのか 岡崎研太郎
 ●9 内臓脂肪面積と合併症の関係は 岡崎研太郎
 ●10 皮下脂肪とメタボリックシンドロームの関係は 岡崎研太郎
 ●11 脂肪細胞の役割とは 津崎こころ
 ●12 なぜ男性は女性に比べて内臓脂肪がたまりやすいのか 津崎こころ
 ●13 内臓脂肪はどうやって測るの 坂根直樹
 ●14 体脂肪測定の機械は正確なのか.また使用する際の注意点は 岡崎研太郎
 ●15 ウエスト測定は寝て測ってはいけないのか 岡崎研太郎
 ●16 食欲の調節にかかわる分子機構とは 小谷和彦
 ●17 食後高血糖・食後高脂血症と心血管疾患に対するリスク 小谷和彦
 ●18 インスリン抵抗性とは 小谷和彦
 ●19 メタボリックシンドロームに性差はあるか 小谷和彦
 ●20 男女差を考慮した保健指導とは 小谷和彦
 ●21 小児におけるメタボリックシンドロームとは 小谷和彦
 ●22 高齢者におけるメタボリックシンドロームとは 小谷和彦
 ●23 メタボリックシンドロームと脂肪肝 久保 明
 ●24 メタボリックシンドロームと高尿酸血症 久保 明
 ●25 メタボリックシンドロームと睡眠時無呼吸症候群 久保 明
 ●26 メタボリックシンドロームと歯周病 久保 明
 ●27 遺伝子検査は普及しているのか 久保 明
 ●28 メタボリックシンドロームとアルツハイマー型認知症の関連は 久保 明
 ●29 メタボリックシンドロームの人はすべての栄養摂取量が過剰なのか 橋詰直孝
対策編─栄養・食事・サプリメント
 ●1 減塩・減脂肪・低カロリーどれを優先すればよいのか 佐野喜子
 ●2 カロリーが同じなら一度に食べても分けて食べても同じなのか 佐野喜子
 ●3 栄養指導の効果が出にくい人はいるのか 佐野喜子
 ●4 ダイエット法の比較はされているのか 久保 明
 ●5 減量のためのサプリメントはあるのか 上原兼治
 ●6 半飢餓療法の効果と注意すべきポイントは 坂根直樹
 ●7 リバウンドはなぜ悪いのか 佐野喜子
 ●8 食欲を抑える薬とは 久保 明
 ●9 夜間,間食がやめられないときの工夫は 佐野喜子
 ●10 アルコールはどれくらいならよいのか 佐野喜子
 ●11 トランス脂肪酸ってなに 佐野喜子
 ●12 GI・GLとは 坂根直樹
 ●13 認知行動療法とは 坂根直樹
 ●14 市販のダイエット食品の効果は?また使用する際の注意点は 上原兼治
身体活動・運動編
 ●1 運動はいつしたらよいのか 久保 明
 ●2 歩くだけで「運動」といえるのか 黒田恵美子
 ●3 運動はどれくらいの期間やれば効果があるのか? 1日最低どれくらいやればよいのか 黒田恵美子
 ●4 肥満,耐糖能障害,脂質異常症など,それぞれの疾患に適した運動療法はあるのか 久保 明
 ●5 メタボリックシンドロームに効果のある運動は 久保 明
 ●6 有酸素運動とアイソメトリック運動のそれぞれの特徴は 黒田恵美子
 ●7 腰や膝にトラブルをもっている人は,どのような運動をすればよいのか 黒田恵美子
 ●8 局所やせは可能か? 汗をかかなければ運動といえないのか 黒田恵美子
総合アプローチ編・ケーススタディ編
 ●1 減量時のストレス対策 久保 明
 ●2 ドロップアウトしそうなときの対策 久保 明
 ●3 どの指標がどのくらい変化したら“効果あり”と考えるのか 久保 明
 ●4 薬物療法を開始するポイント 久保 明
 ●5 喫煙とメタボリックシンドロームの関係 久保 明
 ●6 睡眠のとりかたとメタボリックシンドロームの関係 久保 明
 ● チームアプローチの実際 久保 明
資料・付録
 資料:特定検診・保健指導の概要 久保 明
 付録:生活習慣病治療に用いられる代表的な薬剤(経口剤) 久保 明
 文献