やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 情報技術がいくら発達しても,生のコミュニケーションには及ばない.むしろ情報社会である今,面接の技能は,対人サービスの基本として,より重要性を増しているようである.これは一種の職業スキルであって,身につけるには勉強しながら経験を重ねるしかない.これを行動療法では「行動形成(シェイピング)」という.新しい行動を少しずつ作るという意味である.
 行動療法による面接については,以前に書籍やビデオなどで紹介している.
 面接は「自分」を投じた全人的な行為であり,いつまでも新しく奥が深い.文字や映像ではとうてい表現しきれないもどかしさがあるし,名著を差し置き今さらという感もある.しかし『ライフスタイル療法(医歯薬出版,2001年)』の基本技法として,改めて面接をとりあげ,その要点を整理するのも意味があると思うようになった.この間に,診療や教育,種々の介入研究から多くを学び,私自身も変化した.そして「行動療法」や「行動変容」が市民権を得た現在も,多くの保健専門家にとって行動療法面接(行動カウンセリング)は相変わらず難しい課題のようだからである.
 そこで,あらためて面接技術のわかりやすい入門書を作ることとした.
 行動療法は本来セルフケア支援であって,「指導」よりは心理学用語である「カウンセリング」がふさわしい.保健専門家は,職種を越えてクライアント(依頼者)に対するライフスタイルのカウンセラーであって欲しい.
 これが正しいという方法があるわけではないが,わかりやすさをモットーに,Q&A形式で項目を立てた.読者が読みながら学習を深められるように「セルフチェック」と「今日からできる実践課題」を盛り込んだ.また視覚的にイメージできるように,『習慣変容のための初回面接』のDVDと解説書を添えた.
 冒頭のプロローグは,本書全体を通し,もっとも読者に伝えたいメッセージである.特定保健指導が始まり「面接」の必要性に迫られている方も多いと思う.この機会にこの事業の本来の目的を見据えながら,面接の面白さや奥深さに触れ,自分なりのスタイルを築いていただくことを期待する.そのために本書が役に立てば何より嬉しく思う.
 2008年8月
 足達淑子
指導者から生活支援のカウンセラーに
 ・今の仕事のやり方を見直し,何が必要なのかを考える
 ・愉しんで仕事をする,愉しくなるように仕事をする
 ・指導者ではなく生活者としての視点を
 ・「人」というものに関心を
 ・社会の動きにも目を向ける
 ・コミュニケーション能力に磨きをかける
 ・五感をフルに使う
 ・結語に代えて
基礎編 行動カウンセリングを始める前に
 1―カウンセリングにあたっての心の準備は
 2―コミュニケーションをうまく行うためには
 3―信頼されるカウンセラーになるには
 4―良い聞き手になるには
 5―クライアントに共感するとはどういうことか
 6―クライアントのありのままを受け入れるためには
 7―行動カウンセリングとは何か,いわゆる指導とはどこが違うのか
 8―行動療法のエッセンスとはどんなものか
 9―食事や運動などを対象にするとき,とくに気をつけたいことは
 10―加療中,あるいは未受診で医療が必要な人への対応で注意することは
 資料
  面接の手順
  動機づけ面接の評価
実践編Part-1 初回面接
 1―クライアントが話しやすい空間を演出するには
 2―カウンセラーにふさわしい身だしなみとは
 3―カウンセリングにふさわしい話し方とは
 4―初対面のあいさつで心がけることは
 5―相手の言いたいことをどう引き出すか
 6―面接の時間配分はどうするか
 7―全人的な理解とはどんなことか,なぜそれが必要か
 8―習慣変容への準備性とは何か,それをどのように考えるか
 9―準備性に応じた対応とはどんなものか
 10―やる気を高めるための面接の留意点は
 11―行動変容に必要な情報を確実に理解させるためにはどうしたらよいか
 12―実行されやすい目標行動はどのようにして決めていくか
 13―面接の終わり方―次へのつなぎ方はどうするか
実践編Part-2 次回以降の面接
 1―2回目の面接はいつ行うのがベストか,そこでの目的は何か
 2―最初の出だしで気をつけることは
 3―行動の変化をどう確認するか(行動の評価)
 4―良い変化に注目するにはどうするか
 5―検査値や結果が悪かったとき,どう対応するか
 6―関係をより強くするために必要なこと
 7―助言を何ひとつ実行しなかったクライアントにはどうするか
 8―とりとめのないおしゃべりを元に戻すには
 9―相手に対する否定的な感情をどうコントロールするか
 10―出した課題ができなかったときの対応は
 11―自己流に判断するクライアントにはどうするか
 12―過激(無理)な習慣改善に取り組むクライアントにはどうするか
 13―予約を守らなかったときにはどうするか
付録:習慣変容のための初回面接-行動カウンセリングの実際-DVD解説書
 1―面接の準備
 2―導入から見きわめまで
 3―準備性を見きわめる
 4―グレーゾーンの人への対応
 5―やる気のない人への対応
 6―やる気のある人には
 7―今の指導を見直してみよう

 参考図書
 索引