やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 今まさに変革の時代である.社会に大きな変化が起こり続け,それは食生活においてとくに著しい.著者らは,この新しい時代の要請をできるだけ取り入れた「調理学」の発行を目標とし,またその内容は,平成14年に制定された管理栄養士国家試験出題基準(ガイドライン)にも沿うように配慮した.執筆にあたっては,大学・短期大学で調理学や調理科学の教育・研究に従事してきた著者らが,各自の得意分野・専門を中心に分担し,新しい事柄,やや高度な事柄を盛り込み,かつ平易に解説するように心がけたつもりである.
 人間の栄養は食物として摂取するのが最上であることは論をまたないが,食物は食材を調理することによって得られることから,いわば「調理」は栄養の原点であり,「調理」を抜きにして人間の栄養を考えることは難しい.また,人間の食事にとって「おいしさ」が実質上の第一条件であり,おいしいという味覚は,心理的にも生理的にも健康にかかわることが最近知られるようになった.
 近年,食に対する関心が一般に高まり,健康・味・生活文化など多面的に情報化の波に乗るようになっている.一方で,食の安全性が今ほど信頼を失った時代はかつてない.グローバル化と相まって,BSE,内分泌攪乱物質等々,新しい情報が続々と登場している.食材選択にあたっては,安全性を十分考慮しなければならず,また,調理の場そのものが健康を損なう原因にならないよう留意することはいうまでもない.いろいろな面で調理と環境問題とのかかわりを忘れることはできない.
 食物は,単なる生きる糧である以上に,心身の健康を良好に維持するため,ライフステージに応じた配慮が必要である.そこには,食事計画から食材の選択,調理,供食にいたるまでの一連の調理過程が十分にかかわっている.また,疾病時の食事や高齢者・身体障害者などの介護食の調製操作や食器類に,さらには身体障害者や高齢者が可能なかぎり自立して調理操作に携わることができるよう,調理操作の方法,調理器具,食器などに積極的に目を向けることが必要である.
 さらに近年,食生活の簡便化はもとより,食の外部化・社会化が著しく進み,とくに中食にかかわる産業が盛大になっている.これらも調理学の視野に入れなければならない.一方,食材や調理法のグローバル化はとくにわが国において著しい.大量に輸入されるばかりでなく,日本的なるものが世界各地に向けてさまざまな形で進出している.そのなかで,食物の伝統もまた維持されなければならないのである.
 このように,新しい時代を見据えて視野を大きく広げ,総合的に調理学を展望する時代が来ている.食物が,栄養的要件とともに,いかなるライフステージにおいても,いつもおいしく,安心して,心豊かに味わえるものであるように,調理学はそのすべてにかかわっていくことになるであろう.
 2003年11月
 編著者 金谷昭子
食べ物と健康調理学 もくじ

はじめに
■section1 調理の概念
chapter1 調理の意義
chapter2 調理学・調理科学の意義と重要性
chapter3 調理の目的
 1.調理と安全性
 2.調理と食品および食品成分の変化
  1)水
  2)炭水化物
  3)たんぱく質
  4)脂質
  5)ビタミン
  6)無機質(ミネラル)8
  7)酵素
 3.調理と栄養とライフステージ
  1)栄養とライフステージ
  2)食物の態様とライフステージ
  3)摂食と調理の自立とユニバーサルデザイン
 4.調理と文化・食の歴史的変遷
 5.調理と食育
 6.調理と食べ物の付加価値
 7.調理と環境・環境問題

■section2 基礎調理操作
chapter1 調理操作の基礎
 1.調理と温度
  1)調理温度
  2)食品成分と食品の変化する温度
  3)調理に関連する温度
 2.加熱方式・伝熱方式・熱媒体
 3.食品の保存
  1)低温や室温による保存
  2)塩蔵による保存
  3)乾燥による保存
  4)缶詰・びん詰
chapter2 加熱調理操作
 1.煮る・ゆでる
  1)煮る
  2)ゆでる
 2.蒸す
 3.焼く
  1)直火焼き
  2)間接焼き
 4.揚げる・炒める
  1)揚げる
  2)炒める
  3)油脂の劣化
 5.誘電加熱(マイクロ波加熱,電子レンジ加熱)
  1)誘電加熱の原理
  2)電子レンジ
  3)電子レンジ加熱の特徴
 6.電磁誘導加熱
  1)電磁誘導加熱の原理と特徴
  2)電磁調理器
 7.その他の加熱
  1)赤外線と遠赤外線
  2)炭火
chapter3 非加熱調理操作
 1.計量・計測
 2.洗浄
 3.浸漬
  1)抽出
  2)吸水・膨潤(乾物)42
  3)調味液浸漬
  4)変色防止
  5)テクスチャーの変化
  6)漬物
 4.切る
 5.砕く
 6.混ぜる
 7.和える
 8.寄せる
 9.冷やす
chapter4 調味操作
 1.調味料
  1)食塩
  2)しょうゆ
  3)みそ
  4)砂糖
  5)みりん
  6)食酢
  7)うま味調味料と風味調味料
  8)酒類
 2.香辛料
 3.調味操作
  1)調味時期
  2)調味料の配合
  3)うま味の賦与
  4)調味料の浸透
  5)調味順序
■section3 食品の調理特性と調理
chapter1 植物性食品の調理特性と調理
 1.米
  1)搗精
  2)精白米の構造
  3)炊飯
  4)変わり飯の炊飯
  5)かゆ
  6)もち米
  7)米飯・炊飯の社会化と大量炊飯
  8)米粉とビーフン
 2.小麦粉
  1)小麦粉の成分と調理性
  2)小麦および小麦粉の分類と用途
  3)グルテン形成と小麦粉調理
  4)主な小麦粉調理
 3.いも類
  1)いもの種類と成分の特徴
  2)いも類の調理
 4.豆類
  1)豆類の調理・加工における吸水膨潤
  2)煮豆
  3)大豆製品
 5.種実類
  1)種実類の種類と成分の特徴
  2)種実類の調理性
 6.野菜類
  1)野菜類の特性
  2)野菜類の調理性
 7.果実類
  1)果実類の特性
  2)果実類の調理性
 8.きのこ類
  1)きのこ類の特性
  2)きのこ類の調理性
 9.藻類
  1)藻類の特性
  2)藻類の調理性
chapter2 動物性食品の調理特性と調理
 1.食肉類
  1)食肉の構造と特徴
  2)食肉の調理性
  3)食肉の調理
 2.魚介類
  1)魚介類の構造と特徴
  2)魚介類の調理性
  3)魚介類の調理
 3.卵
  1)鶏卵の構造
  2)鶏卵の成分組成
  3)鶏卵の調理性
  4)卵の鮮度判別方法と鮮度保持の方法
  5)鶏卵の調理とサルモネラ食中毒
 4.牛乳・乳製品
  1)牛乳の成分
  2)牛乳の調理性
  3)乳製品の調理
chapter3 成分抽出素材の調理特性と調理
 1.でんぷん
  1)でんぷんの種類と形状
  2)でんぷんの構造と特徴
  3)でんぷんの糊化と老化
  4)でんぷんの調理性
  5)加工でんぷん
 2.砂糖類
  1)砂糖の種類と特性
  2)砂糖の調理性
 3.油脂・油脂製品
  1)油脂の種類と特性
  2)油脂製品
 4.ゼリー形成素材
  1)ゼラチン
  2)寒天
  3)カラギーナン(カラゲナン)172
  4)ペクチン
  5)コンニャクマンナン
 5.分離たんぱく
  1)大豆たんぱく
  2)小麦たんぱく
chapter4 その他の食品の調理特性と調理
 1.加工食品
  1)加工食品の種類
  2)冷凍食品・冷凍調理食品
  3)レトルトパウチ食品
  4)クックチル食品
  5)調理済み・半調理済み食品
  6)乳児・高齢者用食品,保健機能食品
 2.調味料・香辛料
  1)調味料
  2)香辛料
 3.嗜好性食品(飲料)
  1)茶
  2)コーヒー190
  3)ココア
  4)その他の飲料
  5)アルコール飲料
■section4 調理と嗜好性・おいしさ
chapter1 調理と味
 1.主な味
 2.味の相互作用
chapter2 調理と香り
 1.食品材料の香り
  1)香りの分析法
  2)香りの種類
 2.調理によって生ずる香り
  1)香りを強める調理操作(する・おろす・たたく・切る・加熱するなど)202
  2)焼き臭
  3)発酵臭
  4)鮮度低下臭
  5)においのマスキング
chapter3 調理と色
 1.食品材料の色
  1)ポルフィリン系色素
  2)カロテノイド系色素
  3)フラボノイド系色素
  4)その他の色素
 2.調理と色の変化
  1)クロロフィル
  2)ミオグロビン
  3)カロテノイド
  4)アントシアニン
  5)褐変
chapter4 調理とテクスチャー・レオロジー
 1.食品のテクスチャー
  1)テクスチャーの種類
  2)テクスチャーの測定
 2.食品のコロイド性
  1)コロイドの安定性
  2)ゾル
  3)ゲル
 3.食品のレオロジー
  1)液状の食品
  2)ゲル状食品
chapter5 食味の評価と官能検査
 1.食べ物の評価と官能検査
 2.官能検査の手法と留意点
 3.官能検査の実際
  1)2点嗜好試験法と2点識別試験法
  2)順位法
chapter6 食のデザイン・コーディネート(食事計画・供食)
 1.食事計画の意義
 2.献立作成
  1)栄養所要量と食品群別食品構成
  2)献立作成の実際
 3.供食
  1)日本料理
  2)西洋料理
  3)中国料理
  4)供食のこころ
■section5 調理機器と調理
chapter1 エネルギー源
 1.ガス
  1)都市ガス
  2)LPG(プロパンガス)228
 2.電気
chapter2 加熱調理機器
 1.鍋類
  1)鍋類の形状
  2)鍋類の材質
 2.特殊な機能をもつ鍋
chapter3 非加熱調理機器
 1.包丁・まな板・調理用はさみ
 2.ミキサー,ジューサー,フードプロセッサー
 3.冷蔵庫(冷凍冷蔵庫)
chapter4 厨房設備
 1.厨房
  1)厨房の役割
  2)厨房の機能
  3)厨房のレイアウト
  4)ライフステージと厨房
 2.給水と電気
chapter5 食器・テーブルウエア
 1.食器の種類と用途
  1)日本の食器
  2)外国の食器類
  3)グラス類
 2.食卓の演出
■section6 環境と調理
chapter1 食環境と調理
 1.日本の食文化
  1)食材および調理法の歴史
  2)年中行事の食
  3)通過儀礼の食
 2.世界の食文化
  1)中国料理
  2)韓国料理
  3)東南アジア料理
  4)インド料理
  5)アラブ料理
  6)西洋料理
  7)メキシコ料理
 3.日本の食環境と調理
  1)食生活の変化と調理
  2)食情報
 4.ライフステージと調理
  1)各ライフステージの身体的特徴と調理
  2)ライフステージと調理設備
 5.食事室とアメニティ
  1)食事空間(食事室)の構成要素
  2)食のアメニティとその創造
chapter2 食品汚染と調理
 1.食材の環境汚染―調理場に持ち込まれるまで
  1)化学物質による汚染
  2)微生物による汚染
  3)その他の汚染
 2.調理時の汚染防止―食材が持ち込まれてから
  1)食品の変質
  2)食中毒の予防
  3)容器・包装による食品汚染の防止
chapter3 調理による環境汚染
 1.調理による廃棄物の発生
  1)ごみ
  2)台所排水
  3)大気汚染
 2.生産・流通過程で生じる環境負荷と食の安全性

付表 食生活指針
日本人の食事摂取基準(2015年版)