やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 本実験書の名称を「食品衛生学実験」ではなく,あえて『食品環境実験50』とした.時代からすれば,“食品の衛生問題“というよりは,“食品の環境問題”といったほうがふさわしいからである.有吉佐和子さんは『複合汚染』のなかで,当時の食品汚染の実態をリアルにとらえている.それから数十年を経て,現在の食品のおかれている環境をみれば,過去を背負って事態はさらに深刻なものとなっている.たとえば“内分泌撹乱物質(環境ホルモン)”などの新たな問題も生じており,食品の衛生・不衛生ととらえるより,むしろ食品のおかれている環境問題としてとらえたほうが的確である.一方,この現状に従来の実験書は十分対応しておらず,食品が栽培・飼育・製造・流通等の環境のなかで,どのように変化するものかが調べられる最新の実験書の必要性に迫られ,編集に着手したような次第である.
 本書の特徴は,(1)栄養士養成施設の学生が主な対象者であるが,環境科学分野で食品と環境問題との関わりに興味を抱く学生にも役立つものとした,(2)食品衛生学の内容をふまえつつも,“食品の環境科学“という視点でとらえる章立てとした.すなわち,生物にとって生命の基本である「水」を独立した章立てとし,水を除いた食品環境を外的な環境(外部からの汚染等)と内的な環境(食品自体の変化等)に分けた.外的な環境とは人為的な化学物質の添加,混入や微生物による汚染を指し,内的な環境とは食品本来の成分およびその変化を指す,(3)実験項目にはアップトゥデイトをこころがけ,分析レベルは高度な機器分析から簡易な実験まで約50項目を取り上げ,各施設の教育方針および実験設備に合わせ,少なくとも15項目は選択できるようにした,(4)高度な内容を,やさしくかつビジュアルに表現することを心がけるとともに,実験の手順が容易に理解できるようにフローシートをつけた.また実験結果を効率よく整理,理解できるレポート用紙を添えた,(5)将来,養成施設を卒業して職場で衛生検査が必要なとき,容易に行える“簡易キット”実験を載せた,などである.
 本実験書を出版することは時機を得てはいるものの,新たな実験項目については,数ある分析対象および分析法からの選択,研究用の高度な分析機器と教育現場で使用できる実験設備とのバランス,主な対象が栄養士養成施設の学生であることを鑑み,勇断と慎重さが要求された.ある項目は内容的に学生実験の域を越え,研究法といっても過言ではないものもあるが,たとえ試料の取り扱いや設備面で実施できなくても,実際の検出手順を学生が知ることは,実験するに近い理解と興味を与えることと確信する.不備な点は数えればきりがなく,諸氏のご教示,ご指導を心よりお願いしたい.
 終りにあたり,編集作業に終始ご尽力いただき,簡易キット検査を現場で実施していただいた管理栄養士・石田朝美さんのご厚情に感謝申し上げるとともに,試行錯誤の編集作業を,あたたかくサポートいただいた医歯薬出版株式会社編集部に感謝する次第である.
 1999年10月 編者
1.水の安全性  (石田・牧)……1
     実験 1:水温,pH,味,臭気,濁度,蒸発残留物,硬度……2
  定量 実験 2:アンモニア性窒素……7
  定量 実験 3:亜硝酸性窒素……9
  定量 実験 4:硝酸性窒素……11
  定量 実験 5:オルトリン酸性リン……13
  定量 実験 6:塩素イオン……15
  定量 実験 7:残留塩素……17
  定量 実験 8:過マンガン酸カリウム消費量……19
     実験 9:一般細菌,大腸菌群……22
  定量 実験 10:COD(化学的酸素要求量)……23
  定量 実験 11:DO(溶存酸素)とBOD(生物化学的酸素要求量)……25

2.食品の外的環境……27
 1 食品の生物学的汚染  (小塚・深谷・牧)……28
   1)微生物による汚染……28
   微生物実験の基礎知識……28
    実験 12:グラム染色法(Huckerの変法)……38
    実験 13:一般細菌数(生菌数)……41
    実験 14:大腸菌群……44
    実験 15:(応用実験)食品の衛生検査……50
    実験 16:(応用実験)まな板・手指の衛生検査……51
    実験 17:サルモネラ属菌……53
    実験 18:腸炎ビブリオ……57
    実験 19:病原性大腸菌……59
    実験 20:黄色ブドウ球菌……64
 Kit  実験 21:簡易キットを利用した検査法(スタンプ法)……66
    実験 22:PCRを利用した新しい検査法……68
    実験 23:MB(磁気ビーズ)を利用した新しい検査法(サルモネラの迅速検査)……71
   2)寄生虫による汚染……73
    実験 24:アニサキス……73
 2 食品の化学的汚染  (藤田・山田)……75
  定性 実験 25:熱硬化性樹脂容器の検査(ホルムアルデヒド)……75
  GC  実験 26:ポリスチレン容器溶出物の検出……76
  LC  実験 27:残留農薬の検出(TBZ,イマザリル)……79
  LC  実験 28:残留寄生虫駆除剤の検出(イベルメクチン)……81
  AA  実験 29:重金属の検出(スズ Sn)……83
  AA  実験 30:他の金属の検出(アルミニウム Al)……85
 3 食品添加物  (和泉・藤田)……87
  定性 実験 31:保存料(1)(ソルビン酸カリウムの定性)……87
  定量 実験 32:保存料(2)(ソルビン酸カリウムの定量)……89
  GC  実験 33:酸化防止剤(BHA,BHT)……91
  定性 実験 34:着色料(1)(合成着色料の同定)……93
  定性 実験 35:着色料(2)(合成着色料の同定)……95
  定量 実験 36:発色剤(亜硝酸ナトリウム)……97
  性・量 実験 37:漂白剤(亜硫酸ナトリウム)……99
  定量 実験 38:殺菌料(過酸化水素)……100
  定性 実験 39:結着剤(リン酸塩)……101
  LC  実験 40:甘味料(1)(キシリトール)……102
  LC  実験 41:甘味料(2)(アスパルテーム)……103
 4 食器等の清浄度モニタリング  (藤田)……105
  定性 実験 42:食品の残渣テスト(たんぱく質,脂質,デンプン)……105
  定性 実験 43:合成洗剤の検出……108
  Kit 実験 44:ATPを応用した新しい衛生管理……109

3.食品の内的環境……111
 1 食品の新鮮度と劣化  (牧・藤田)……112
  性・量 実験 45:牛乳の規格……112
  性・量 実験 46:鶏卵の新鮮度……114
  Kit 実験 47:魚の新鮮度……116
  定量 実験 48:油脂の酸価……118
  定量 実験 49:油脂の過酸化物価……119
  Kit 実験 50:簡易キットを利用した油脂の検査……121
 2 自然毒  (山田)……123
  LC  実験 51:α-ソラニンとα-チャコニン……123
  定性 実験 52:アミグダリン(シアン配糖体)……125

  レポート 実験 1〜52……129

実験用器具・試薬および簡易キット問い合わせ一覧……233
参考文献……235