やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 小児には発育という成人と異なる大きな特性がある.成人では健康の維持のためのエネルギーおよび栄養素量を確保することでよいが,小児では成長と発達のためにも多くのエネルギーおよび栄養素量が必要となる.しかし,その適正量には年齢差,個人差が大きく,過不足に陥りやすい.
 乳児期には消化吸収機能や代謝機能は未熟であり,食品の調理形態,回数などの工夫が必要となる.また,小児期は味覚,食習慣の形成期であり躾を含めた適正な食生活習慣の土台作りの時期であるということを忘れてはならない.このように子どもが健康に成長するうえで食生活が果たす役割は重要であるが,子どもは自分で食事を選ぶ立場にはなく,親もしくは保育者から与えられる食事をほぼ受動的に食べることになる.すなわち,子どもの食事は大人の責任であるといえる.
 また,食を取り巻く環境の変化も著しい.インスタント食品,レトルト食品などの開発,ファミリーレストランの隆盛にみられる食の外食化,健康食品,過激なダイエット食品などの情報の氾濫,さらには核家族化,共働きなどの家庭の変化が加わり,家庭での調理能力は確実に低下している.
 このような状況下において,将来,母子保健に携わる専門家を目指す人は,小児の特性や社会状況を理解したうえで適切な食事指導を行う必要がある.
 本書では,乳児期,幼児期,学童期の成長と発達の特性が理解できるように解説を試み,その土台の上に立って子どもの健康の保持および増進を支えるための食事が指導できるように工夫した.また,必要に応じて,実習や演習(Exercise)が可能な章には,学生の理解が得られやすいように献立例や演習項目の掲載を試みた.まだまだ,充分とはいえないが,本書をご高覧いただき,皆様方からの意見がいただければ幸いである.執筆者一同さらなる充実をはかっていく所存である.
 最後に,本書の記述にあたり,先輩諸氏の貴重な文献を活用させていただいたことに感謝申しあげるとともに,出版の労をいただいた医歯薬出版に謝意を表する次第である.
 平成13年12月吉日
 編集代表 大浦敏博
第1章:子どもの健康と食生活 廣野治子
 1.健康と栄養
 2.栄養および栄養素
 3.小児栄養の意義と重要性
第2章:子どもの成長と発達 廣野治子
 1.小児期の区分
    新生児期
    乳児期
    幼児期
    学童期
    思春期
 2.身体発育
    体重
    身長
    頭囲
    胸囲
    各種器官
    体表面積
    生歯と化骨
     生歯
     手根骨
    大泉門
    身体各部の比率
 3.発育の評価
    カウプ指数
    ローレル指数
    BMI
    標準体重
     日本肥満学会基準
     ブローカの桂変法
     ジョンズ法
    肥満の判定
    Exercise
第3章:栄養素の働き 廣野治子
 1.栄養素とその代謝
    たんぱく質,アミノ酸
     アミノ酸の種類と性質
     必須アミノ酸
     たんぱく質の分類
    たんぱく質の栄養価
    糖質
     糖質の分類と性質
     糖質の消化・吸収
     糖質の代謝
    食物繊維
    脂質
     脂肪酸
     中性脂肪
     リン脂質,糖脂質
     ステロール
     リポプロテイン
     必須脂肪酸
    無機質,水
     無機質の種類と生理作用
     カルシウム,リン,マグネシウム
     ナトリウム,カリウム,塩素,イオウ,鉄,ヨウ素
     銅,亜鉛
    水の代謝生理
    ビタミン
     脂溶性ビタミン
     水溶性ビタミン
 2.消化と吸収
    消化・吸収の仕組み
     乳児の腸内菌叢
     乳児の便性
 3.日本人の食事摂取基準
    エネルギーの必要量
     基礎代謝
     身体活動レベル
    たんぱく質食事摂取基準
    脂質食事摂取基準
    食物繊維食事摂取基準
    無機質食事摂取基準
    ビタミン食事摂取基準
    Exercise
第4章:食品 廣野治子
 1.植物性食品
    穀類
     米
     小麦粉
     とうもろこし
     そば
    いも類
     さつまいも
     じゃがいも
    豆類
     大豆
     その他の豆類
    種実類
    落花生
    野菜類
     茎葉菜類
     果菜類
     根菜類
    果実類
    海藻類
    きのこ類
 2.動物性食品
    乳類
    卵類
    肉類
    魚介類
 3.油脂類
    天然油脂
    加工油脂
     マーガリン
     ショートニングオイル
 4.甘味食品
    砂糖および甘味類
     砂糖
     はちみつ
     水あめ
    菓子類
 5.特別用途食品,その他の食品
    特別用途食品
    その他の食品
    Exercise
第5章:献立・調理 鈴木玲子
 1.献立
    献立とは
    献立作成の手順
     日本人の食事摂取基準
     基礎食品群と食品構成
     栄養比率
    1日の栄養配分
    献立作成の実際
    栄養価の算定
    食品成分表を用いて計算する方法
    食品群別荷重平均成分表を用いて計算する方法
    栄養出納表
    健康づくりのための食生活指針
 2.調理
    調理の意義
    調理法
     計量
     洗浄
     切り方
     生ものの調理
     加熱調理
     調味
     食物の適温
    Exercise
第6章:出生前(母性)栄養-胎児の栄養 廣野治子
 1.胎児の発育と栄養
 2.妊娠期の栄養・食生活
    母性栄養とは
    適正な栄養の必要性
    栄養上の母児相関
    Exercise
第7章:授乳(乳汁)栄養 久保 薫
 1.乳児期の栄養と食生活の特徴
    摂取機能・食事行動の発達
    食事環境と保育者のかかわり方
 2.母乳栄養
    乳汁栄養法の推移
    母乳分泌の仕組みと授乳開始
    母乳の成分
    母乳栄養の長所
    母乳の問題点
     母乳不足
     授乳禁忌
     ビタミンの不足
     ウイルス感染症
     薬物
     嗜好品
     環境ホルモン
    冷凍母乳
 3.人工栄養
    母乳との成分比較
     たんぱく質
     脂質
     炭水化物
     無機質
    ビタミン
    人工栄養の種類と特徴
     育児用ミルク
     低出生体重児用ミルク
     大豆乳
     無乳糖乳
     乳たんぱく質分解乳
     アミノ酸混合乳
     先天性代謝異常児用ミルク
     低ナトリウム乳
     MCT乳
     フォローアップミルク
    調乳
     調乳器具
     調乳法
 4.混合栄養
     母乳の不足の場合
     母親が就労などで母乳を与えられない場合
 5.授乳
    授乳間隔
    1回の授乳時間
    授乳障害
    授乳法
    Exercise
第8章:離乳 鈴木玲子
 1.離乳とは
 2.離乳の必要性
    栄養補給
    機能の発達
    心の成長
 3.離乳の実際
    改訂“離乳の基本”
    離乳の準備
     果汁のつくり方
     野菜スープのつくり方
     果汁および野菜スープの作製時の注意点
     赤ちゃんの様子について
    離乳の進め方
    離乳食作製時の衛生
    ベビーフードについて
    幼児や大人の献立からの応用
    おかゆのつくり方
    献立例
     離乳初期(5か月ころ)
     離乳中期(7か月ころ)
     離乳後期(9か月ころ)
     離乳完了期(12か月ころ)
    Exercise
第9章:幼児期の栄養と食生活 林 恭子(馬場悦子)
 1.幼児期の特徴
    身体の特徴
     身体の発育
     運動機能
     消化機能
    精神の発達
     情緒
     思考
     生活
 2.幼児期の栄養
    幼児の食事摂取基準
    年齢区分別体位基準値と食事摂取基準
     6つの基礎食品と食品構成およびその目安量
     間食
 3.幼児の栄養および食生活の問題点
    食事の仕方としつけ
     食事の仕方
     食事時間
     年齢別食事のしつけ
    食事上の問題点とその対策
     好き嫌いと偏食
     食欲不振
     咀しゃく力不足
    現代の食事摂取状況と問題点
 4.実習
    実習の目的
    献立と演習
     1日の食事
     間食
     弁当
     行事食
    献立例
     1日の食事献立
      (1〜2歳児)
      (3〜5歳児)
     間食
      (1〜2歳児)
      (3〜5歳児)
     弁当
      (1〜2歳児)
      (3〜5歳児)
     行事食
      (1〜2歳児)ひな祭り
      (1〜2歳児)誕生日
      (3〜5歳児)子どもの日
      (3〜5歳児)クリスマス
    Exercise
第10章:学童期・思春期の栄養と食生活 東川尅美
 1.学童期・思春期の特徴
    身体の特徴
     身体の発育と性差
     骨格と歯の発達
    精神の発達
     小学生
     中学生
 2.学童期・思春期の栄養と食生活の特徴
    学童期・思春期栄養の特徴
    学童期・思春期の食生活の特徴
     食品構成と献立
     食品構成使用上の注意
    学校給食
     学校給食の目的と意義
     学校給食の教育課程における位置づけと指導の要点
     学校給食の食事内容について
     学校給食の食品構成
    学校給食の現状
    食生活のあり方
    献立例
     小学校低学年(6〜8歳)
     小学校高学年(9〜11歳)
     中学生女子(12〜15歳)
 3.学童期・思春期の食生活上の問題点とその対処法
    思春期貧血
     貧血
     鉄欠乏性貧血(思春期貧血)の特徴と原因
     貧血予防の食事対策
    減食―骨密度の低下
     食生活の工夫
     適度な運動
     適度な日光
    食物アレルギー
     食環境とアレルギー
     たんぱく質とアレルギー
     油とアレルギー
     アレルギー体質を改善する食事計画
    Exercise
第11章:給食と子どもの食生活 鎌倉ミチ子
 1.子どもにかかわる給食
    児童福祉施設の種類と給食の区分
    給食の役割
     栄養補給
     生活習慣のしつけ
     栄養教育
     情操教育
    給食の留意点
     食事摂取基準の設定指標
     給与栄養目標量の設定
     献立作成と調理
     「食育」の実践
     食中毒や感染症の感染防止
 2.保育所の給食
    給食の役割と利点
    給食の課題
    給食の実際
     入所前の食生活の把握
     給与栄養目標量の設定
    献立作成と食事
 3.保育所給食の栄養管理
    献立例
     保育所給食における献立(3〜5歳児)を基本とした離乳食例
     保育所給食の代表的献立例
     保育所給食(3〜5歳児)の行事食献立例
 4.幼稚園の給食
    Exercise
第12章:小児期の病気と食生活 大浦・坂本
 1.小児の病気の特徴と食生活
 2.小児の治療食
 3.不適切な食事と健康障害
 4.症状・疾患別の食事
    発熱
    口内炎
    急性胃腸炎(嘔吐下痢症)
    便秘
    食物アレルギー
    鉄欠乏性貧血
    肥満
    Exercise
第13章:心身障害児の栄養と食生活 寺島美紀子
 1.心身障害児にとっての食事の意義
 2.食事援助の実際
    食事形態
    姿勢
    食べさせ方
    食事援助にあたっての留意点
    Exercise
第14章:子どもの食教育 久保 薫・鎌倉ミチ子
 1.食教育のあり方
    乳幼児期からの食教育
    生活のなかの食習慣
    家庭教育との連携
 2.これからの食生活
    健康な生活のための栄養知識
     食品の分類とその働きを知る
     食品名と献立名を知る
    主食・主菜・副菜の組み合わせを知る
    食生活の自立
     食べ方(食事)のマナーを身につける
     3食を規則正しく食べる
    調理を経験させる
    食文化と環境
     行事食・郷土料理を知ろう
     食べ物を大切にし,食の無駄をなくす
    環境と食生活
 3.食教育の進め方
    指導計画
    媒体の種類
    クッキング体験
    Exercise
第15章:子どもの食にかかわる国際活動 廣野治子
 1.今後の課題と国際活動の必要性
 2.国際活動の展開-主な組織とその活動内容
    ユニセフ
    FAO(国連食糧農業機関)
    WHO(世界保健機関)
    ユネスコ(UNESCO)
    IUNS(国際栄養科学機関)
 3.世界の子どもの食と地球

 参考文献