やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 本書第3版は,あなたが糖尿病をもちながら健康的な生活ができるように,最新の情報を盛り込んで改訂されました.
 糖尿病がどんな病気かという基本から,最善の治療法をみつけ,糖尿病のケアを計画するための秘訣が書かれています.最新の食事計画の教材や治療について,そして健康管理のためにあなたと治療者が何をしたらよいかを学ぶことができます.糖尿病の合併症にどう向き合い,ライフスタイルにどううまく組み込み,糖尿病生活での感情の起伏に対処したらよいかがわかるでしょう.
 本書は,あなたが糖尿病に立ち向かうのを助ける手段や方法を提供しています.
 糖尿病であることを認めて病気に対処することで,糖尿病がうまくコントロールできるようになるのは確実です.必要ならば専門家に助けを求め,新しく学んだスキル(方法)をいろいろなチャンスで試してください.そのことによって,「今後の健康」がごほうびとして得られるはずです.

――監訳にあたって――

 わが国において,糖尿病の患者さんの数は年々増加の一途をたどり,これにもとづく重症合併症も増加しています.糖尿病とその合併症は,糖尿病をもつ人々の生活に大きな影響を与え,健康でいきいきとした生活の妨げになります.
 糖尿病治療の領域における近年の大きな収穫は,いくつかの臨床研究によって,よい血糖コントロールを維持すれば,合併症の発症や進展が予防できることが確証されたことです.治療法では,患者さんの病態に合わせて選択できる薬剤や,QOLを改善する治療法が重視されるようになってきました.また,基礎研究においても,糖尿病や合併症の発症と病態に関してめざましい進歩がみられます.患者さんの自覚とともに,これらの研究成果や新しい治療法を速やかに臨床の場に取り入れることによって,より効果的な糖尿病治療が期待できます.
 一方,糖尿病は自己管理の病気であるといわれるように,患者さん自身が治療法を十分に理解し,日々の生活の中で実行していく必要があります.糖尿病の治療法は,食事療法,運動療法をはじめ,経口薬服用,インスリン自己注射,血糖自己測定と多岐にわたり,これを修得することは必ずしも容易ではありません.多くの患者さんが正確かつ最新の情報を得て自己管理法を修得していくためには,それらの知識をもち,かつ指導法にも通暁した専門家の援助が必要です.また患者さんが熟知しておかねばならないさまざまな医療上の事柄や,早期に合併症を把握するためのコツなども大変重要です.しかし,わが国では患者教育もまだ十分でなく,かつ糖尿病療養においてどのようなアドバイスを求めたらよいか,また誰に聞けば適切なアドバイスが得られるかを患者さんは十分理解していません.
 本書はアメリカ糖尿病協会により編纂された,糖尿病の患者さんが健康に生活をおくるための指針書です.糖尿病についての最新の知識を与えるとともに,患者さんがどのように行動すればいいかについてわかりやすく書かれています.また,日本に特有な事象については注釈もつけられています.
 一方,わが国においても,糖尿病の患者さんの療養指導を援助する専門家として糖尿病療養指導士制度が発足し,平成13年度に行われた第1回試験で4300名余りが認定されました.これによって患者さんへの糖尿病療養指導に対する取り組みもより一層充実することが期待されています.しかし,患者さんを対象とした生活の指針書の本格的なものはわが国においては見当たりません.療養指導に携わる人も患者さんの立場に立った療養指導のありかたを考えてみる必要はないでしょうか.
 本ガイドは,求められる知識や理論を網羅し,簡潔にまとめたものです.したがって,患者さんのみならず療養指導士にとっても極めて有用で,これらの情報が糖尿病の患者さんの療養指導に生かされることを強く願うものです.
 2002年4月
 清野 裕

――翻訳にあたって――

 本書は,アメリカ糖尿病協会が出版した患者さん用のセルフガイドで,もし私が糖尿病だったら知りたいだろうことを,ていねいにわかりやすく教えてくれています.病気の性質や最新の治療法から,良い治療者の選びかた,食事や運動など自分で行うケア(セルフケア),病気への心構えや心の健康の保ちかたまでを,無駄なく具体的に示しています.そこには,患者さん自身が病気をよく理解して,積極的に糖尿病に立ち向かってほしいという願いが込められています.そして,たとえば糖尿病といわれたときにどんなふうに思うか,途中でどんなことに挫折しやすいかなど,患者さんの不安な心理もよくとらえています.
 アメリカの医療事情は日本とは大きく異なりますし,国民性の違いもあるでしょうが,これらは,いずれも糖尿病の患者さんが病気をコントロールするための,共通したエッセンスということができるでしょう.
 糖尿病についての患者さん向けの本は数多くありますが,これほど,全人的な内容を網羅し,簡潔に要点をまとめた本を知りません.さすがにアメリカ糖尿病協会の本だ,と最初に思いました.また,私のライフワークでもある行動療法(行動科学による心理療法)の基本姿勢と一致することにも感動しました.とにかくすべてに具体性があり,どうしたらいいかを,根気よくていねいに説明してあります.これは「多くの患者さんに役立つに違いない」と感じました.さらに第3版が出版された直後に原書を入手できたことも,翻訳のきっかけになりました.
 糖尿病学と治療の権威,京都大学の清野 裕先生という願ってもない監訳者のご指導と,行動療法の視点で食事指導を行っている渡辺純子さんというパートナーを得ることもできました.
 医療事情や日常の食事など日本人にあてはまらない箇所は,字を小さくし飛ばし読みして差し支えないようにし,日米の事情の差を補うために参考資料を付録につけました.
 また本書は,糖尿病指導を行うすべての保健医療スタッフにとっても,何をどのように教えたらよいか,どのように励まし支えていくべきか,についての指針になることと思います.
 2002年4月
 訳者代表 足達淑子
 訳者一覧
 序 文
 謝 辞
 監訳にあたって
 翻訳にあたって

第1章 2型糖尿病とは
    糖尿病はどんな病気
    どのような人が糖尿病にかかりやすいか
    あなたが今できること
    コントロールが大切な理由
    家族を2型糖尿病から守るには
    糖尿病と生活
第2章 最善の治療と出合う
    糖尿病治療医
    治療チーム
    糖尿病教室
    入院
    在宅ケア
    療養施設(nursing facilities)
    医療保険
第3章 糖尿病ケアプラン
    健康的な食べかた
    運動
    減量
    歯のケア
    皮膚のケア
    足のケア
    シックデイ(病気のとき)
    妊娠
第4章 薬物療法とその監視
    経口糖尿病薬
    その他の薬
    インスリン
    血糖値の自己監視
    低血糖
    高血糖
    治療チームによる監視(モニタリング)
第5章 糖尿病の合併症
    血管
    心臓
    脳
    脚と足
    眼
    腎臓
    神経
    血圧
    血中脂質
第6章 ライフスタイル
    仕事
    旅行
    外食
    アルコール,薬,タバコ
第7章 こころの健康を保つ
    否認
    怒り
    ゆううつ
    罪悪感
    無力感
    自尊心
    ストレス
    支援のネットワーク
〈付 録〉
 ■日本版栄養ピラミッド
 ■日本版栄養ピラミッド 各表のグラム数
 ■糖尿病用食品のチェックリスト
 ■アルコール飲料のチェックリスト
 ■外食のエネルギーと脂肪量一覧
 ■外食―脂肪とエネルギーの関係
 ■菓子類・嗜好品一覧
 ■菓子類・嗜好品―砂糖とエネルギーの関係
 ■日本の医療保障のしくみ
 ■糖尿病に関する各種団体・機構

 〈資 料〉
 〈索 引〉