やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 栄養学・医学領域における臨床栄養学は,第一に予防医学,第二に分子医学,第三に治療医学の3つの分野から取り組まれている.予防医学の立場からは,疾病構造において,死因の上位を占めている慢性疾患(生活習慣病など)の外部環境負荷要因として食生活が捉えられ,その改善が有効な手段と考えられている.分子医学からは遺伝的素因が疾病に深く関わっていることが解明されてきている.たとえば肥満症,インスリン非依存型糖尿病をはじめ,高血圧症,高コレステロール血症の食塩やコレステロールに対する感受性は,個体差の重要性を知らしめている.“集団“から“個”への取り組みの必要性が期待されている.治療医学の立場からは,それぞれ病態別に栄養管理がなされる栄養治療(栄養療法・食事療法)が注目されている.
 患者を取り巻くコメディカルスタッフによるチーム医療が治療効果に大きく影響を及ぼすことが実証されつつあるが,栄養補給法の飛躍的な進歩,合併症を有する高齢者への治療,患者のQOL(Quality of Life)の向上など,病態における“個”を取り巻く問題は多岐にわたっているといえる.
 臨床栄養学はヒトの栄養治療において,その働きかけから結果の評価まで複雑かつ多彩である.栄養状態を的確に評価・判定し,心身の状態に見合った効果的な栄養補給を行い,さらに栄養・食事教育を行って患者自身がよりよい栄養状態を維持していくための能力を養うことが大切である.すなわち,人体の栄養管理と栄養学の知識を習得させることが,これからの臨床栄養学における実践力といえよう.
 栄養管理のための素材や技法は日進月歩の医学のダイナミックな動きの中で,様々な疾病に対する新知見が要求されている.医療の場では,医師の専門分野はさらに細分化される傾向にある.栄養士・管理栄養士は栄養治療を実践する専門家として,各科領域における“個”を対象とした深くかつ幅広い知識と,さらには医療スタッフとの連携能力が今後ますます要求されることになる.
 本書は,21世紀に臨床の場で活躍する栄養士・管理栄養士らが,ニュートリションサポートチームの一員として参画するために備えておきたい専門知識や技術,さらには保健・医療・福祉の連携の中で,ケアマネージメントに参画するために必要な知識や技術の基本を教授し,栄養士・管理栄養士としての責任を担う一助とするための教材として編集されたものである.
 それゆえ,本書の構成は臨床栄養学の基礎として,人体構造では組成と物質代謝を,食品成分では人体に対する栄養学的役割を中心に,今日的問題である栄養評価および栄養補給法などを記載し,特別治療食においては栄養成分別管理として,主としてコントロールの必要性がある栄養素で分類を試みたが,いずれの栄養素も相互に関わりがあることは周知のとおりである.栄養食事指導では,入院・外来・ベッドサイドにおける指導の事例を,臨床栄養管理の実際では,患者治療のオペレーションシステムを入院から在宅医療まで含めて概観している.
 なお,本書の臨床的記述については,川崎医科大学の医師の先生方に校閲していただき,さらに多くのご指導とご助言を賜った.本書の出版にあたり心よりお礼申しあげるしだいである.
 栄養士・管理栄養士養成施設校で,臨床栄養学実習の教材として使用されることを願いつつ,読者のご批判,ご教示をいただきながら修正を重ね,より使いやすいテキストにしたいと願っている.
 1997年12月吉日 編者一同

改訂の序

 近年,「健康日本21」や「新しい食生活指針」にみられるように,国民の健康問題は重要な課題となっており,生活習慣病の改善,とりわけ食生活の改善が必須であることは周知のことである.そこでさまざまなライフステージにある人の健康の保持・増進と,疾病予防や治療のための専門的知識や技術を教授し,実践能力を養う教育では,今後もめまぐるしい社会状況の変化に対応していかなければならない.
 今日,社会需要が増すと予想される寝たきり老人などの臨床栄養管理の領域でも,在宅患者のQOLなど“個”を対象とした,深くかつ広い知識と,さらには医療スタッフとの連携能力が要求されている.したがって,医学に携わる人々には,今までにも増して最新の医療技術に精通するのみならず,常に,人間と社会に対する深い洞察力,広い総合的視野をもつことが求められてきている.
 このような時代の流れにおいて,21世紀に向けた栄養士・管理栄養士教育が必要なことはいうまでもなく,臨床栄養学の基礎知識から専門的技術までを,教育伝授する実習書として第1版を上梓してはや4年を経た.その間,第6次栄養所要量の改定を受けて病院での一般治療食の基準も改定され,糖尿病や高血圧の診断基準,BMIの数値なども変更され,本書の見直しが必要となった.
 本書の意図とするところは,臨床栄養に携わる専門職の価値観について,十分理解してもらい,学生の自己学習能力や実践力,応用力を高めることにある.対象者の栄養状態や臨床成績を理解し,十分な個々の栄養評価と臨床栄養指導が展開できる見識を養うような教育の一助に資することができればと願っている.
 本書がより多くの人々に使用されることを願いつつ,読者からのご批判,ご教示をいただきながら,今後もさらによいものにできればこれ以上の喜びはない.
 2000年12月吉日 編者一同
I 人体構成
 1.個体から元素へ
 2.元素から物質へ
   1)水
   2)有機化合物
   3)無機化合物
 3.物質の体内代謝
   1)エネルギー代謝
   2)異化と同化
   3)水と無機質の代謝
 4.消化と吸収

II 食品成分
 1.食品の栄養素
 2.食品の機能
   1)一次機能
   2)二次機能
   3)三次機能
 3.食品の機能性成分
   1)オリゴ糖
   2)キチン類
   3)ペプチド類
 4.特定保健用食品と特別用途食品
 5.味覚成分

III 栄養評価
 1.歴史的あゆみ
 2.意 義
 3.栄養アセスメント
   1)総合的栄養アセスメント
   2)栄養アセスメントの機能別分類
 4.栄養パラメータ
   1)臨床診査
   2)食事調査
   3)身体計測
   4)血液・尿生化学検査
   5)免疫能検査
   6)エネルギー代謝
   7)筋力測定(握力・呼吸筋力など)

IV 栄養補給法
 1.経消化管栄養法
   1)食事療法(経口栄養法)
   2)経腸栄養法(経管・瘻管栄養法)
 2.経静脈栄養法
   1)中心静脈栄養法(完全静脈栄養法)
   2)末梢静脈栄養法

V 実習・演習の実際
 1.実習・演習の目的
 2.実習の実際
 3.演習の実際
 4.課題への取り組み

VI 一般治療食
 1.常食
 2.軟食
 3.流動食

VII 栄養成分別管理(特別治療食)
 1.エネルギーコントロール食
   1)糖尿病
   2)肥満症
   3)痛風(高尿酸血症)
   4)脂肪肝
   5)慢性肝炎・肝硬変代償期
   6)高血圧症
   7)心疾患
   8)妊娠中毒症
   9)甲状腺機能亢進症
 2.たんぱく質コントロール食
   1)肝硬変非代償期・肝不全
   2)急性・慢性糸球体腎炎
   3)ネフローゼ症候群
   4)急性・慢性腎不全
   5)糖尿病性腎症
   6)透 析
   7)小児腎疾患
 3.脂質コントロール食
   1)急性肝炎・劇症肝炎
   2)胆石症・胆嚢炎
   3)急性・慢性膵炎
   4)動脈硬化症
   5)高脂血症
 4.水・電解質コントロール食
   1)熱性疾患・脱水症
   2)貧血
   3)骨粗鬆症
 5.易消化食
   1)急性・慢性胃炎
   2)胃・十二指腸潰瘍
   3)腸疾患:クローン病・潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群
   4)嚥下障害
 6.濃厚流動食
   1)天然濃厚流動食
   2)人工濃厚流動食
   3)混合濃厚流動食
 7.術前・術後食
 8.検査食
   1)大腸検査用低残渣食
   2)ヨード制限食
   3)便潜血検査食
 9.先天性代謝異常
 10.食物アレルギー

VIII 栄養・食事指導
 1.集団指導
   1)妊婦への集団指導
   2)糖尿病患者への集団指導
   3)高血圧症患者への集団指導
 2.個人指導
   1)保存期慢性腎不全症外来患者への指導
   2)慢性肝炎・肝硬変代償期外来患者への指導
   3)糖尿病外来患者への指導
   4)透析外来患者への指導
   5)在宅高齢者への指導
 3.ベッドサイドでの栄養食事指導
   1)急性心筋梗塞
   2)クローン病
   3)神経性食欲不振症

IX 臨床栄養管理
 1.医療施設と栄養管理システム
   1)医療施設
   2)栄養管理システム
 2.栄養部門の役割
   1)栄養サポートチーム
   2)クリニカルダイエティシャン
 3.POSと臨床栄養管理
   1)POMR(問題志向型診療記録)の作成
   2)POMRの監査
   3)POMRの修正
   4)POMRの実際
 4.在宅医療における訪問栄養食事指導
 5.救命救急医療とターミナルケア
   1)救命救急医療と栄養士活動
   2)ターミナルケアとホスピス

参考文献
資料
 1.国民医療費と国民所得費の推移
 2.主な疾病の死亡数・死亡率(人口10万対)の国際比較
 3.医療保険制度の中の栄養指導料
 4.入院時食事療養制度
 5.腎臓病治療用特殊食品栄養成分
 6.先天性代謝異常改定勧告治療指針
 7.乾燥体重(dry weight ; DW)の求め方
 8.基礎エネルギー消費量(BEE)の算出
 9.高脂血症診断基準値
 10.登録特殊ミルクリストおよび成分表
 11.フェニルケトン尿症食品交換表・食品分類
 12.改訂日本食品アミノ酸組成表に基づく食品群別平均たんぱく質Phe含有量,含有率,1単位当たりの算出表
 13.食物アレルギーと除去食品
 14.特定保健用食品
 15.半消化態栄養剤(医薬品)の組成
 16.半消化態栄養剤(食品)の組成
 17.消化態栄養剤・成分栄養剤の組成
 18.略語一覧