やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序(歯科医院用)
 皆さんの診療室でインプラントの患者さんは増えつつあるでしょうか?それとも,横ばい状態でしょうか?
 インプラント関連の企業の調査によると,最近5年間の業績だけをみても,毎年約20%ずつ右肩上がりで伸びており,2008年度は約400億円にまで到達する可能性があると予測されています.この背景には,インプラント治療の信頼性と効果が実証されてきたという科学的側面,そして「特別な治療ではない」という患者さんの認識の変化に加えて,保険診療が伸び悩むなかでインプラントを導入することにより,この状況を打破したいという歯科医師側の危機意識の表れがあると考えられます.
 そんな状況のなかで,インプラント治療はいま,分岐点を迎えていると考えます.
 今後,個々の患者さんの有しているリスクを的確に把握して,ときに患者さんのわがままとも思える要求に対して,現実に対応可能なゴールを患者さんと共有し,そして相談した結果を確実に治療として行えるならば,インプラント治療は伸びる一方でしょう.
 しかし,適切な説明ができず,稚拙な技術で治療を行い,患者さんの「思い込み」を解消しないままに,希望する状態とは異なる治療結果に陥ってしまうケースが増えてくれば,今後早い時期に社会から見放されてしまうという可能性も有しているからです.
 患者さんは,いろいろな媒体から,正確とはいえないインプラントの知識を得て診療室に来院され,歯科医師やスタッフの方々と接します.その際に,患者さんの希望とリスクを的確に把握し,さらに効果的な医療面接,もしくはカウンセリングを行えるかどうかが歯科医院としてはきわめて重要となります.そこでは,面接の技術,リスクを把握するための検査が行われることが大前提となりますが,同時に歯科医師のみならずスタッフが同じ情報を共有し,根拠に則った説明ができるか否かが大きな鍵を握るのです.すなわち,先生方の治療技術を体験する前に,患者さんは治療を受けるかどうかを判断するのです.
 本書は,患者さんが見るインプラント治療のガイドとなる「インプラント治療への疑問にお答えします」と,それぞれの疑問に歯科従事者が適切な受け答えをするためのいわば「虎の巻」となる本編との2冊で構成しました.あやふやな知識でその場しのぎの答えをするのではなく,現時点の正しい情報を用いて,患者さんが納得し,かつ,インプラント治療を素晴らしいと思っていただけるような説明を,歯科医院全体として行えることを期待しています.患者さんのため,そして,先生方の診療室の発展のために,本書がお役に立つことを願っています.
 2008年春
 武田孝之
 林 揚春
 椎貝達夫

序(患者さん用)
 皆さんはインプラント治療に対して,どのようなイメージをおもちでしょうか?
 「なくなってしまった歯が,生え変わるようにきれいに治る」「入れ歯よりもよく噛めて快適」「はずさなくてもよいので心理的に若返る」といった,肯定的,効果的なイメージがある一方で,「外科手術があるし,怖い」「失敗したらどうなるのか」「高い治療費がかかるし,何年もつか心配」など,これまでの歯科治療と異なり,注意しなければならないことがたくさんあるという意識も強いことでしょう.
 インプラント治療自体の情報は,歯科医院にいらっしゃる前に,知人からの口コミ,本やインターネットによってある程度,入手できることと思います.けれども,歯科医院を訪れ,医療面接,検査の結果,はじめてそれぞれの方のインプラント治療の効果とリスクがはっきりするのです.
 これから診察を受けると思いますが,ご自分が受ける治療ですから,歯科医師まかせではなく,治療前に疑問を解消し,ご自身の望まれる治療結果を伝えていただき,それが可能かどうかを十分に相談して,納得のいく治療方針をいっしょに導き出したいと思います.
 本書には,皆さんが気づいていないかもしれない点も含めて,インプラント治療を受ける前に知っておいていただきたいことを,簡潔に述べてあります.この本を見ていただいた後に,ご自身の疑問,質問を,歯科医師,歯科衛生士,受付の方などに投げかけてください.きっと,適切な答えが返ってきて,安心して治療を受けていただけるでしょう.
 インプラント治療について,よく理解していただき,納得のいく計画にそって治療をすすめ,従来の歯科治療と異なる結果を享受してくださることを願っています.
 2008年春
 武田孝之
 林 揚春
 椎貝達夫
1 インプラント治療のすぐれた点
 1.従来の補綴法の限界
 2.インプラント治療の有利な点
2 インプラントの実像―基本事項の確認
 1.患者さんへの情報提供の大切さ
 2.インプラントの定義
 3.インプラントの構造
 4.インプラントの利点,注意点
 5.インプラントの材質と,材質から生ずる治療法の差
 6.インプラントの種類
 7.生体に埋め込むことによる影響
3 天然歯とどこが違う?―常態と病態
 1.天然歯の歯周組織とインプラント周囲組織の違い
 2.インプラントは「とげ」?
 3.インプラント周囲組織は,傷口があいている?
 4.インプラントでは,状態が悪くなっても痛くない?
 5.インプラントでは,歯と違う感じがする?
4 天然歯と同じように治るの?―前歯の場合
 1.発現しやすいトラブルとその対応
 2.審美領域特有の検査項目
 3.審美領域の欠損に対する着目点
 4.前歯部1歯欠損症例
 5.前歯部連続2歯欠損症例
 6.前歯部3歯以上欠損症例
5 天然歯と同じように治るの?―臼歯少数歯欠損の場合
 1.臼歯部少数歯欠損に対するインプラント適用の目的
 2.臼歯部中間欠損症例
 3.遊離端欠損症例
 4.第二大臼歯の1歯欠損をどう考えるか?
 5.上顎への適用
6 天然歯と同じように治るの?―多数歯欠損の場合
 1.多数歯欠損症例の補綴の特徴
 2.インプラントで改善できること
 3.治療の優先順位
 4.多数歯欠損症例のリスクと,メインテナンスの重要性
7 天然歯と同じように治るの?―少数残存歯・無歯顎の場合
 1.上下顎の吸収がきわめて著しい症例
 2.維持装置について
 3.シングルデンチャーの症例
 4.インプラントでさらなる力学的不均衡を作らないこと
 5.患者さんが固定性の補綴を望む場合
8 どのくらい長もちするのか?―費用対効果
 1.インプラントの治療成績
 2.咬合支持の差によって予後が異なるのか?
 3.歯周病の患者さんの場合,インプラントは早くだめになるのか?
 4.歯軋りをするが,インプラントを植立しても大丈夫か?
 5.自然感のある白い歯にしたいが,そうできるのか?
 6.インプラントと対咬する歯への悪影響はないのか?
9 インプラント治療は誰でも受けられるのか?
 1.何歳でも受けられるのか?
 2.全身疾患の既往との関係は?
 3.喫煙者の場合
 4.骨粗鬆症の場合
 5.ビスホスホネートに関する注意点
 6.骨高はどのくらいあれば植立できるのか?
 7.骨幅はどのくらい必要か?
 8.咬合関係に不調和がある場合でも可能か?
 9.歯周病や悪習癖などのある場合はどうか?
10 インプラントは骨がないと植立できない
 1.自家骨移植
 2.GBR
 3.スプリットクレスト
 4.仮骨延長術
 5.サイナスリフト
 6.ソケットリフト
 7.造成した骨にインプラントを入れても大丈夫か?
11 治療や手術は痛くない?
 1.インプラント治療時の痛みと, 患者さんに強いる忍耐度
 2.静脈鎮静法の必要性
 3.全身管理の必要性
 4.手術後の痛みと腫れ
 5.手術後の注意点
12 手術後の仮歯はどうなるのか?
 1.手術後いつごろから噛んでもよいのか?
 2.現存歯で機能, 審美がほぼ維持されている場合
 3.現存歯で咬頭嵌合位は維持されるが, 外観を気にする場合
 4.義歯装着者で, 現存歯で咬頭嵌合位が維持できない場合……12
 5.手術前に多数歯の抜歯を必要とする場合
 6.上顎洞までの骨高が乏しく, 骨造成を必要とする場合
 7.外側性に骨造成を必要とする場合
 8.下顎無歯顎の難症例における対応
 9.植立後にすぐに仮歯を入れたいという場合
13 インプラント治療の流れ
 1.成熟骨に対するタイムスケジュール回法の場合
 2.成熟骨に対するタイムスケジュール回法の場合
 3.抜歯即時埋入のスケジュール
 4.抜歯後の治癒期間に対する考え方
 5.即時荷重のスケジュール
 6.骨造成をインプラント植立前に行う場合のスケジュール
14 インプラント治療に必要な検査
 1.インプラント治療前の検査の意味
 2.患者さんの本心を聞きだす問診
 3.口腔の検査
 4.崩壊原因の把握のための検査
 5.全身的検査
 6.アレルギー検査
 7.崩壊原因の除去
15 上部構造が入るまでの期間
 1.骨の治癒期間に影響する要件
 2.早期に荷重できる条件
 3.十分に骨の治癒を待たなければならない症例
 4.即時荷重の条件
 5.補綴的条件から,最終補綴までの時間が長くかかる症例
16 治療後にも手入れが必要なの?
 1.どうして定期検診を受けなければいけないのか?
 2.患者さんは何に気をつければよいのか?
 3.ブラッシングの方法は天然歯とは異なるのか?
 4.歯磨材やジェルは何を使ってもよいのか?
 5.定期検診時にはどんな検査をするのか?
17 だめになったら,どうなるの?
 1.「だめになる」というのはどういうことか?
 2.除去した場合の対応法は?
 3.決定的にだめになる前に,何か症状が出るのか?
 4.インプラント周囲炎への対応は,どうしたらよいのか?
 5.力による変化への対応は?
 6.部分欠損症例で,避けられない変化があるのか?
 7.保障期間について
 参考文献
 さくいん