やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 2003年12月にデンタルハイジーン別冊として『もっと知りたい義歯のこと』が上梓されてから12年が経ちました.この本は故 中尾勝彦先生と私が編者となり,可撤性義歯の基本的な知識の整理のために企画編集されましたが,内容の一部には介護保険制度の導入や口腔ケアの広がりなどの社会背景を考慮して,要介護高齢者の義歯に関する内容も加えたこともあり,歯科衛生士だけではなく,歯科医師や多職種にも手に取っていただけたことで,月刊誌の別冊であったにもかかわらず12年以上のロングセラーとなったと考えています.
 近年の1人平均喪失歯数の年次推移をみると,口腔衛生保健の広まりとともに若年者ばかりか高齢者においても喪失歯の減少傾向は明らかであり,高齢者の1人平均喪失歯数の年次推移では1999年から2011年の12年間に約4〜6本程度の喪失歯の減少がみられます.若年者の欠損補綴は義歯よりもインプラントが主流と言われている一面もある一方,65歳,75歳以上の高齢者では総義歯は減少傾向にあるものの部分床義歯やブリッジ(架工義歯)は増加がみられ,高齢になるに従いブリッジは減少し,総義歯が増える傾向があります.つまり,人口構造の高齢化が急速に進み,高齢者人口が増え続けている日本においては,欠損補綴に対する義歯治療の必要性も依然として高い状況が続いていると考えられます.
 また,歯科の新技術開発や進歩によりインプラント治療と義歯との複合補綴(ドルダーバー,磁性義歯など)が行われるようになったり,金属クラスプを使用しないバルプラスト義歯,軟性レジン(シリコン)床義歯など,さまざまな新しい義歯も臨床応用されているようになりました.
 一方,近年大きな問題となっている高齢者を主体とした摂食嚥下機能や構音機能障害患者に対しては舌接触補助床(PAP:Palatal Augmentation Plate)や軟口蓋挙上床(PLP:Palatal Lift Prosthesis)などの義歯型装置を用いた歯科治療の効果があることが明らかとなってきており,またPAPが健康保険診療に収載されたこともあり,今後スタンダードな治療法の一つになっていく可能性が高いと考えられます.
 しかしながら,歯科医師や歯科衛生士教育においては,これらの義歯に関する教育は十分にできているとは言い難く,また高度な専門性を必要とする成書はありますが,初級者から中級者向けの書籍はほとんどありません.また,在宅や高齢者施設,病院などでは歯科関係者以外の看護師やリハ職,介護者などが臨床現場で義歯を取り扱うことが多いにも関わらず,義歯に関する知識が少ないために対応に難渋することも多く,他職種が義歯の全体像を広く学ぶことができる書籍の必要性があると考えられます.
 このような状況を鑑み,『もっと知りたい義歯のこと』の編集方針を踏襲しつつ,適宜現在の状況を考慮しながら,歯科関係者以外の多職種も広く義歯の全体像を学ぶことができる(可撤性)義歯の本となるよう企画編集を行いました.臨床現場で役立ち,「食べる,しゃべる,笑う」ことができる患者さんが増えることを願ってやみません.
 2016年10月
 編著者を代表して
 藤本 篤士
 はじめに
座談会 多職種協働でささえたい 生活のなかの義歯
Chapter 1 義歯の基本を知ろう
 1 義歯の概論――基本的な製作過程と構造
 2 言葉の障害や嚥下障害患者の口腔装置としての義歯
  コラム1 社会参加を支援できる口腔装置の利用を保険制度が妨害する?
 3 さまざまな義歯
 4 義歯のトラブルと修理
  実践コラム 不適合上顎義歯の調整方法例
Chapter 2 メインテナンスの実際
 1 義歯の効果的な清掃方法
 2 義歯のメインテナンス物品
 3 診療室での義歯のケア――介護を見据えて診療室からケアを習慣づける
  コラム2 災害と義歯
Chapter 3 病院や施設での義歯への対応
 1 病院や施設での口腔ケア
 2 病院や施設でのメインテナンスの実際,注意点
 3 歯科衛生士が看護師,リハビリテーション職,介護者へ指導する際のポイント
  コラム3 認知症と義歯 その1
  コラム4 認知症と義歯 その2
  コラム5 認知症と義歯 その3
Chapter 4 義歯に関するQ&A
 Q1 義歯の取りはずしはどうしたらいいですか?
 Q2 義歯洗浄剤はどのくらいの頻度で使いますか?
  コラム6 義歯を中性洗剤で清掃していいの?
 Q3 義歯安定剤は使用してもいいですか?
 Q4 義歯を入れたままにしてはダメですか?
 Q5 義歯にカビのような黒いものが付着しています.どうしたらいいですか?
 Q6 口腔が乾燥して義歯を入れると痛がります.どうしたらいいですか?
 Q7 義歯と自分の歯では味覚や咀嚼機能にどのくらい違いがありますか?
 Q8 義歯を装着しないことで口腔内にどのような変化がありますか?
 Q9 義歯の装着を嫌がる認知症の患者さんにどう対応したらいいですか?
 Q10 認知症の患者さんに義歯の洗浄方法を教えてもやってくれません.どうしたらいいですか?
 Q11 絶食の患者さんや,ペースト食やミキサー食を食べている患者さんに義歯は必要ですか?
 Q12 義歯は何年ぐらい使えますか?長く使うためには,どうしたらいいですか?
 Q13 がんの治療中の患者さんに義歯を装着してもいいですか?
 Q14 急性期の病院では義歯をはずしていることが多いと聞きますがどうしてですか?
 Q15 認知症の患者さんが義歯洗浄剤の水を飲んでしまいました.大丈夫ですか?
 Q16 義歯やその他補綴物の誤飲・誤嚥の予防法はありますか?また,誤飲・誤嚥した際の対処法は?
 Q17 義歯に名前を入れてもらいたいのですが,どうしたらいいですか?
  コラム7 保険適用と自費診療の違い

 巻末付録(1) ホームケア用義歯洗浄剤
 巻末付録(2) プロフェッショナルケア用義歯洗浄剤
 巻末付録(3) 義歯安定剤(義歯粘着剤)

 索引