やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに ―― 噛むことは食べること

 食べることは私たち人間を含めた動物にとって,生きるためにもっとも大切なことです.そして私たちは食事のたびに噛むことを繰り返しています.
 噛んで食べるという当たり前のことが,いま改めて見直されてきています.口は食べ物を取り入れる場所ですが,単なる入り口ではなくたくさんの感覚器が集まったところです.食べているときの感覚が脳に伝わり,体内での食べ物の利用と深く結びついています.噛むことで起こる全身的な作用もいろいろとわかってきました.
 食べ物を噛むことは,咀嚼という運動を引き起こし,さらに食べ物の性質を十分に味わうことにつながります.つまり噛むことの大切さは噛む運動の大切さだけではなく,よく噛んでよく味わって食べることにあるのです.
 2000年に,厚生省より「健康日本21」という21世紀における日本人の健康づくり運動が発表されました.ここには栄養・食生活の目標はもちろんのこと,歯の健康についてもその目標量が示されています.歯や口の健康は,全身の健康と密接に関連しています.噛み方が食べ物と深く結びつき,食生活のあり方が口の環境や衛生状態にまで大きく影響します.
 この本は,きちんと噛んで,そして味わって食べることが,全身にとって,また口腔にとっても大切であることをわかっていただくために,「かむかむクッキング」と名づけ,噛むためのさまざまな料理の工夫をとり上げました.
 かむかむクッキング・シリーズは,月刊「デンタルハイジーン」で1997年から1999年まで3年にわたって連載しました.この本はそこでとり上げた料理に加え,歯科関係や栄養士など食教育の専門家の方々にも読んでいただきたく,「噛むこと」「歯のこと」「食べること」をわかりやすくまとめました.
 噛むことは,食べることから始まります.そして食べ物によって決まります.噛むことの大切さを十分に生かすためには,そのための食べ物が必要です.この本はそんな考えのもとに作りました.食べること・歯のことに関わっている皆様にすこしでもお役立ていただけましたら,こんなにうれしいことはありません.
 2001年10月 柳沢幸江
1章 噛むこと……柳沢幸江
    口は大切なセンサー
    知ってほしい歯根膜のこと
    噛んで唾液を出そう
    脳への刺激
    噛むことと記憶
    噛むことと満腹感
    消化・吸収と咀嚼
    肥満について
    食べ物のテクスチャー
    食べ物の噛みごたえ
    “かむかむクッキング”の基本(1)素材
    “かむかむクッキング”の基本(2)調理法
    “かむかむクッキング”の基本(3)メニュー
    乳幼児の咀嚼
    高齢者の咀嚼
    介護と咀嚼
    “かむかむクッキング”レシピ・噛む回数実験……柳沢幸江・田沼敦子
2章 歯のこと……田沼敦子
    歯列・乳歯・永久歯
    顎・筋肉
    味覚障害とミネラル不足のこと
    なぜ,むし歯になるの?
    むし歯になりやすいところ
    プラークって何?
    歯を強くするフッ化物
    唾液ってスゴイ!
    歯を守る唾液の働き
    甘味料のこと
    歯肉炎・歯周病のこと
    歯の寿命
    8020(ハチマルニイマル)のこと
    入れ歯のこと
3章 おやつのこと……柳沢幸江
    おやつの甘さについて
    おやつは時間と量を決めて
    “かむかむおやつ”レシピ……柳沢幸江・田沼敦子
4章 食べること……柳沢幸江
    エネルギーのこと
    ご飯のこと
    脂肪のこと
    ビタミン・ミネラルのこと
    生活習慣病
    子どもの食事と大人の食事
    おいしさの発達
    食べ方・飲み方
    いまこそ食育を!
    考えましょう,自給率のこと
    生き物を食べていること
    外食とのつきあい方
    新しい食生活指針について
    “かむかむお弁当”レシピ……柳沢幸江・田沼敦子