やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 学術論文の作成は従来に比べて難しくなっている.動物実験は困難で,臨床データを使った研究も倫理委員会の承認が必要である.後ろ向き研究は正確ではないと言われ,前向き研究はデータを集めるのが困難である.抜去歯の実験でも研究目的を明らかにして被験歯を集めないといけないし,そもそも健全な抜去歯が集まらない.デジタルデータを用いた研究が注目されるのであるが,その使用も患者の同意が必要となる.これらをクリアして作成された論文は貴重である.
 本書はこのような背景で発表された,2018年11月号〜2020年8月号のJournal of Endodontics(JOE)とInternational Endodontic Journal(IEJ)などの論文のなかから,臨床的に役に立つと思われる内容を抜粋して解説するものである.論文の結果や結論がAnswerとなるようなQuestionを設定して,Q&A形式で紹介する.このなかには同じテーマでまとめられるような内容もあるので,1つのQのなかに複数の論文が含まれる場合がある.
 最近の傾向としては,NiTiファイルやMTAといった新規器材の研究は若干減った印象がある.CBCTを用いた研究や報告が目立ち,CBCTからのデータを用いた3Dプリンターを利用した臨床報告が増えている.全身疾患との関連も継続的に報告されている.ただし,これらのなかに日本人が関わったものがほとんどないのは,寂しい限りである.わが国では学術機関を中心に基礎研究が重要視される傾向があり,臨床研究が活発ではなかった背景もあるだろうが,最近では国際水準の臨床研究を行うことを目的として設置された臨床研究中核病院など環境面も整備されてきており,歯内療法でも臨床研究を推進していく必要があるだろう.
 コンプライアンスの重要性から制約の多い論文作成であるが,そのような縛りがあまりなかった過去の論文は,問題なく引用され続けている.昔の論文は,統計がなかったり,研究計画が妥当ではなかったり,今ではアクセプトされないようなものが多い.予備実験レベルのものでも名著とされるものがある.現在のような論文作成ルールがないと,多くの読むに堪えない論文が投稿されてしまうのだろう.そのようなことを考えながら,どうしてこの論文が書かれて掲載されるに至ったのだろう,とウラまで読んでみるのも楽しい.役に立つ,興味深い論文の情報をお届けしたい.
 吉岡隆知,八幡祥生
歯内療法全般
 SARS-CoV-2感染拡大による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下で歯内療法を行う場合,どのようなことに気を付けたらいいですか?(飯野由子)
 患者は根管治療に満足しているのですか?(時田大輔)
 日本の根管治療の費用は適正でしょうか?(西岡政道)
 根尖病変は心血管疾患に影響を与えますか?(八幡祥生)
 歯科の急患はいつも困りますが,何か新しい情報はありますか?(花田隆周,花田 瞳)
 根管治療に苦手意識をもつ患者への対応策には,どういったものがありますか?(戸部拓馬)
 下顎大臼歯の根管治療で,下顎神経を損傷することはありますか?(馬場 聖)
 習慣的な飲酒や喫煙は,根尖性歯周炎と影響していますか?(時田大輔)
 ビデオスコープは歯内療法で役に立つのでしょうか?(時田大輔)
 3Dプリンターを用いた根管模型の現状はどうですか?(吉岡隆知)
 海外では歯内療法の教育にルーペやマイクロスコープを取り入れていますか?(志賀千尋)
歯髄保存療法
 Class II直接覆髄とは,どういった処置ですか?(辺見浩一)
 深在性齲蝕による露髄において,部分断髄と歯頚部断髄をどのように選択すればよいのでしょうか?(辺見浩一)
再生歯内療法
 根管内組織再建法の失敗はどう判断しますか? また,失敗した場合はどうすればよいですか?(高林正行)
 根管内組織再建法(リバスクラリゼーション)の予後に影響を与える因子は何でしょうか?(瀧本晃陽)
 根未完成歯において残存した歯髄組織は,リバスクラリゼーション後の治癒に影響を与えますか?(瀧本晃陽)
予後
 咬合接触の除去は,根管治療直後の痛みの強さに影響しますか?(添田比呂子,興地隆史)
 クラウン装着後に根管治療が必要になる頻度は,どのくらいですか?(西岡政道)
 不可逆性歯髄炎の兆候があるケースは,すべて抜髄しなくてはならないでしょうか?(寺岡 寛)
 歯冠長延長術は既根管治療歯の予後に影響を与えますか?(須藤 享)
 歯冠から根管方向へクラックを認める生活歯は,どのような経過をたどることになりますか?(古畑和人)
 歯冠から根管方向へクラックを認める歯(Cracked Tooth)に根管治療が行われた後,長期予後は期待できますか?(古畑和人)
 歯髄炎による中〜強度の疼痛を訴える患者の術後疼痛を少なくするために,鎮痛剤の術前投与は有効ですか?(寺岡 寛)
 歯冠側上部の封鎖に関して,より細菌侵入を阻止し治癒率を向上させる工夫はありますか?(寺岡 寛)
 根管充填で歯質は強化されますか?(時田大輔)
 根管治療が必要な歯が口蓋側根面溝を有している場合,適切な処置は何でしょうか?(砂田圭介,興地隆史)
 修復歯面数は術後の歯髄疾患に影響しますか?(添田比呂子,興地隆史)
 逆根管治療(歯根端切除術)の長期予後の報告を教えてください.(吉岡俊彦)
根管形成
 小さい髄腔開拡には,どのようなメリットがあるのでしょうか?(牧 圭一郎,興地隆史)
 根管口探索にオペレーションガイドを使用すれば,有利な点はありますか?(山内隆守)
 ニッケルチタン(NiTi)ファイルは,どれくらい使用されていますか?(八幡祥生)
 根管形成によって,歯根破折を引き起こす可能性はありますか?(時田大輔)
 根尖に削片が詰め込まれているとき,電気的根管長測定できますか?(景山靖子)
 乳歯の根管治療において,ニッケルチタンなどの回転形成器具は用いてよいのでしょうか?(時田大輔)
 矢尻状の先端形状をもつ超音波チップには,根管清掃でメリットはありますか?(古畑和人)
根管洗浄
 次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)水溶液は,温度が高いほどよいですか?(古畑和人)
 洗浄方法によって,術後疼痛に差はありますか?(竹内美緒)
 スメア層を形成させずに,根管洗浄液の攪拌をできますか?(竹内美緒)
 根管内吸引洗浄法における洗浄液の流れは,従来のシリンジでの根管洗浄の場合とどのように異なりますか?(古畑和人)
 根管洗浄を効果的に行うために,根尖孔を拡大する必要はありますか?(竹内美緒)
 レーザー洗浄は,ほかの洗浄法と比較して洗浄効果がありますか?(八尾香奈子)
 次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)とクロルヘキシジン(CHX)で,根管洗浄の効果に差はありますか? 根管充填時の細菌数は,予後に影響を与えますか?(竹内美緒)
根管充填
 プレミクスタイプのMTA系シーラーを使えば,根管充填時の気泡は減らせますか?(須藤 享)
 コンティニュアスウェーブ法(CWCT)で発生した熱は,歯根周囲組織を傷つけますか?(戸部拓馬)
支台築造
 接着性レジンを用いた支台築造の現状はどうなっていますか?(西岡政道)
 根管治療後の歯に水平にポストを設置することで,破折強度を高めることは可能ですか?(古畑和人)
診査
 上顎洞粘膜の肥厚は,上顎大臼歯部の根尖病変との関連で起こるのでしょうか?(井澤常泰)
 コーンビームCTでイスマスは検出できますか?(高林正行)
 コーンビームCT(CBCT)撮影は,どのような場合に行うのがよいでしょうか?(浦羽真太郎)
 逆根管治療の術前診査で,CBCT画像から頬側皮質骨の状態を正確に診断することはできますか?(井澤常泰)
 根尖病変が大きく,腫脹があります.どうすればよいのでしょうか?(飯野由子)
 歯根嚢胞,歯根肉芽腫を病理検査以外で確定診断する方法はありますか? 術前に歯根嚢胞と歯根肉芽腫の鑑別診断は可能ですか?(飯野由子)
 診断名は,術者の治療計画や患者の意思決定に影響を与えるものですか?(寺岡 寛)
 レーザードップラーで歯髄診断ができますか?(井澤常泰)
歯根吸収
 歯頚部外部吸収の治療は,どのように行いますか?(砂田圭介,興地隆史)
 内部吸収の治療はどのように行いますか?(砂田圭介,興地隆史)
 根管治療歯に矯正を行うと,生活歯と比べて根尖の歯根吸収が起こりやすいですか?(竹内美緒)
 歯頚部外部吸収を見つけました.どうしたらよいですか?(竹内美緒)
外傷
 外傷によって歯が完全脱落した場合,予後を左右する因子には,どのようなものがありますか?(花田隆周,花田 瞳)
 外傷による歯冠破折歯の歯髄を保存したいときに,適した直接覆髄材料はありますか?(花田隆周,花田 瞳)
 外傷歯において,根管治療を行うかどうかを決定するための適切な歯髄診断法はありますか?(花田隆周,花田 瞳)
逆根管治療
 インプラントと非外科的根管治療,まずどちらを選択するべきでしょうか?(景山靖子)
 築造体の除去が難しそうな場合は,非外科的再根管治療を行わずに逆根管治療を第一選択にすることは可能でしょうか?(高林正行)
 過去に逆根管治療を受けた症例の再発に対して,再逆根管治療は有効ですか?(寺岡 寛)
 逆行性インプラント周囲炎が生じた場合,インプラント除去・隣在歯の歯根端切除術などの外科治療は必要ですか?(本郷智之)
 逆根管治療の際,根尖の切除はどれくらい行うべきなのでしょうか?(高林正行)
 逆根管治療時の止血で使用する薬剤や方法で,その効果に違いはあるのでしょうか?(寺岡 寛)
 Through-and-through病変を有する歯に対して逆根管治療を行う際に,骨欠損部位に吸収性膜を用いたGTR法を適用することは,根尖病変の治癒に影響を与えますか?(牧 圭一郎,興地隆史)
 逆根管治療の際,術直後の骨窩洞には移植材やメンブレンなどを設置したほうがよいのでしょうか?(高林正行)
 逆根管治療における“Bone Window”テクニックとは,どのような方法でしょうか?(井澤常泰)
 ガイドサージェリーが逆根管治療に及ぼす影響は何ですか?(八尾香奈子)
 逆根管治療におけるガイドサージェリーは,どのような症例に適応されますか?(八尾香奈子)

 索引
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