やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 歯内療法は今,空前のブームになっている.歯科臨床で日常的に行われる治療がブームというのもおかしな話であるが,多くの講演会が開催され,毎月のように成書が出版されている.マイクロスコープ,NiTiファイル,MTAセメントに代表される最先端の器材が,ネット上でもホットな話題となっている.これらを取り入れない歯科医院は遅れているといわんばかりである.しかし,これらの話題の中心となる歯科医師はごく一部で,ほとんどの歯科医師にとってはよくわからないものである.このような最先端といわれる器材を利用しなければ,歯内療法は実現できないのだろうか.
 実は治療成功率は,昔から変わらない.歯内療法のポイントを押さえておけば,多くの症例では問題なく治る.マイクロスコープを使わなければ根管は見つからないし,できない症例はたしかにあるが,そこまで一般の歯科医師が行うのか,若い歯科医師がそのような難症例に日常的に立ち向かわなければならないのか.それよりも知らなければならない基本があるだろう.
 歯内療法の基本とは何だろう?どこで勉強すればいいのだろう?
 業者主催のセミナーは,たいてい自社製品を売るためのもので,講師の話にはバイアスがかかっている.学術的には真実を語っていない可能性がある.学会での講演は,最先端を追求したものだったりして,日常臨床にはすぐに役に立たなかったりする.大学同窓会主催の卒後研修なら,比較的基本的事項をよく教えてくれるかもしれない.スタディグループのコースだと,いくらエビデンスといっても主任講師のイデオロギーが入っていたりする.誰もが歯内療法の教室で勉強できるわけではない.このように考えると,フラットな本当に役立つ臨床を勉強できる場というのは,一般歯科医師には意外と少ないということに気付く.
 歯内療法症例検討会でのセミナーは,そのような現状を何とかしたいと企画された会である.誰でも参加できるオープンな集まりである.最先端といわれる器材を使用する前に,知っておくべき歯内療法の基本的事項を学ぶ場である.決まった時間で一通りの内容を学ぶのではなく,何回かのテーマに分けて,一連の内容を学べるようにしてある.内容が一巡したら,また同じテーマを扱う予定である.その際には,基本とはいっても最新の知見や新しい症例を取り込んでいく.今回,セミナーでの内容が一巡したので,参加できなかった先生方のために,雑誌「歯界展望」に一部を連載し,その内容をもとにさらに項目を大幅に増やし,書籍という形でまとめることになった.歯内療法の基本について,日常臨床の一助になれば幸いである.
 歯内療法を勉強した歯科医師がモチベーションを維持しつつ向上するには,たくさんのよい治療症例を見るのが役に立つ.歯内療法の症例検討会といえば,かつて保存学会にエンドの集いという会があった.たいそう盛り上がったのであるが,そのうち立ち消えてしまった.われわれが開催している症例検討会は,これをイメージしている.症例発表をすることにより,いくつか調べなければいけないことが出てきて,これが非常に勉強になるのである.人前に自分の症例を出すことを恥ずかしがる人が多いけれども,本当のところ,他人の症例は大体忘れ去られる.自分で勉強でき,他人に歯内療法のモチベーションを与え,発表したという事実は残り,恥ずかしいことは忘れられるという,よいことずくめの場が症例検討会での発表なのである.機会があれば歯内療法症例検討会およびセミナーに参加してみてほしい.
 2019年1月
 吉岡 隆知
 序論(須藤 享)
診断
 1 歯内療法における診断名の付け方(山本弥生子,吉岡隆知)
 2 歯内療法にCBCTを活用する(浦羽真太郎)
歯髄
 3 象牙質知覚過敏症を再考する(山本 寛)
 4 深在性の齲蝕を伴う歯髄保存処置(辺見浩一)
歯内療法の炎症
 5 炎症・免疫からみる歯内療法(鈴木規元)
根管治療の方法
 6 歯内療法処置における浸潤麻酔(山内隆守)
 7 無髄歯における齲蝕除去(須藤 享)
 8 ラバーダム,隔壁(須藤 享)
 9 髄腔開拡(吉岡俊彦)
 10 根管上部形成(吉岡俊彦)
 11 根管口探索(山内隆守)
 12 作業長の決定(八幡祥生)
 13 根尖部根管形成(八幡祥生,馬場 聖)
 14 閉塞根管への対応(坂上 斉)
 15 根管洗浄(古畑和人)
 16 根管貼薬,仮封(和達礼子)
 17 根管充填(吉岡俊彦)
築造
 18 支台築造(須藤 享)
再根管治療
 19 補綴装置の除去,ガッタパーチャの除去(坂上 斉)
偶発症
 20 応急処置,偶発症(山内隆守)
 21 穿孔への対応(須藤 享)
 22 根管内器具破折の考え方(辺見浩一)
NiTiファイル
 23 グライドパス(古畑和人)
 24 NiTiファイル−何に有用なのか?いかに選択するか?−(八幡祥生)
マイクロスコープ
 25 マイクロスコープ(辺見浩一)
 26 逆根管治療の適応基準(高林正行)
紹介したいとき
 27 患者紹介について(吉岡俊彦)

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 編著者・執筆者一覧