やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 顎関節症は,わが国においては1956年に上野が「顎関節症」という病名を命名して以来,日常臨床にまた保険病名としても定着している.1980年には,日本顎関節研究会(現在:一般社団法人日本顎関節学会)が発足し,顎関節症の症型分類(顎関節症I型〜V型)が発表された.その後幾多の変遷を経て,2013年に欧米のDC/TMDとの整合性を図り,顎関節症新病態分類(49ページ参照)が出され,近年では,診断法・治療法ともに目覚ましい進歩を遂げている.
 顎関節症は多因子疾患であり,咬合要因・解剖学的要因・生活習慣等の要因・機能的要因・心身医学的要因などが複雑に絡み合って発症することを念頭に置き,その診断・治療には医学・歯科医学を含め総合的な知識を必要とする.そして,多くの因子を一つひとつ紐解いて,まずはどこに異常があるのかしっかり診断し,いかなる場合も初期治療として可逆的な保存治療を最優先することが重要である.
 たとえば,咬合がおかしいからといって,すぐに咬合治療に入ることは厳に慎まなくてはならない.可逆的な保存治療とは,運動療法を含めた理学療法,スプリント療法(夜間のみの使用)を中心として,薬物療法,認知行動療法,心身医学的療法などである.それらを適用していくためには,顎関節の構造・機能を理解し,各種プロフェッショナルケア・セルフケアの種類と適応,スプリント療法の種類と適応,薬物療法の選択法,生活習慣等の対応法,心身医学的要因の対応法など「多くの引き出し(知識)」をもつ必要がある.その「引き出し」をおおいに活用し,インフォームド・コンセントを行い,ラポールの形成につなげ,安心感を享受しながら治療にあたることが必要である.よって本書では,誰でもできる顎関節症治療を目指し,キーワードを設けて,一つひとつわかりやすく解説し,顎関節症を理解し,より効果的な治療ができるように構成した.
 日常臨床の一助として本書を活用していただければ幸甚である.
 2016年11月
 田口 望
Key Word 1 下顎頭,関節軟骨
Key Word 2 関節円板
Key Word 3 滑膜
Key Word 4 顎関節の仕組み
Key Word 5 パノラマX線
Key Word 6 CT,MRI
Key Word 7 医療面接,インフォームド・コンセント
Key Word 8 痛み,慢性痛,関連痛
Key Word 9 パラファンクション
Key Word 10 筋触診
Key Word 11 顎関節症の病態分類
Key Word 12 関節(雑)音(クリック,クレピタス)
Key Word 13 開口障害
Key Word 14 クローズドロック
Key Word 15 変形性顎関節症の成り立ち
Key Word 16 運動療法
Key Word 17 顎関節可動化療法 プロフェッショナルケア
Key Word 18 筋・筋膜トリガーポイント プロフェッショナルケア
Key Word 19 ストレッチ療法 プロフェッショナルケア
 Column オーラル・フレイル
Key Word 20 筋訓練療法 セルフケア
Key Word 21 開閉口運動療法 セルフケア
Key Word 22 自己牽引療法(ストレッチ運動) セルフケア
Key Word 23 スタビライゼイションスプリント
Key Word 24 リポジショニングスプリント
Key Word 25 改良型ピボットスプリント
Key Word 26 薬物療法
Key Word 27 生活指導
Key Word 28 心身医学
Key Word 29 認知行動療法
Key Word 30 口腔顔面痛

 おわりに 顎関節症に終診はあるのか─転帰─