やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯周病は国民病の一つともいわれ,われわれ臨床に携わるものにとって,程度の差こそあれ本疾患への対応は日々の臨床の中で常に求められているといっても過言ではない.また,医療技術等の進歩により平均寿命が延長したことで,歯の重要性は再認識されている.ゆえに多くの歯科医師から,「歯の保存のため,歯周病を適切に治療,管理することができるようになりたい」「歯周治療を成功させたいが,実際に歯周病患者を目の前にした時にどのくらい治療効果が見込めるのか」「保存すべきなのか抜歯すべきか」等の歯周治療計画の立案そのものにいつも悩ませられていることを聞く.
 そもそも,歯周治療の成功とはどのようなものだろうか.口腔内に歯が存在すればよいのか.それとも口腔内のすべての歯周組織から炎症所見が完全に消失しなければならないのか.一般的に医療において病気であるという定義と治療が必要であるという定義は必ずしも一致するものではないことを考えると,歯周治療の成功とは,個々の歯科医の解釈に由来するものであり,当然その成功へのアプローチも個々の歯科医による違いがある.歯科雑誌や学会の症例報告には,数々の成功症例,そのためのアプローチが列挙されているが,それらはある歯科医によるある患者へのアプローチを報告したものであり,それらを知ることは重要ではあるが,目の前にいる自分の患者にそのまま適用できるわけではない.
 科学的根拠に基づいた医療(Evidence Based Medicine)は,疾患の定義や疾患の重篤度,治療法の選択などに存在する医療者の偏見を排除し,診断や治療等の医療行為自体がもつ普遍的な価値を明らかにするために考案されたものであり,主観的に行われていた医療を客観的な解釈のもとで行うことを目的としている.よって,そこから導きだされる答えは,一つの成功例をあげることによる「成功へのアプローチ」というより,多数の他者の経験から導きだされた「失敗しないアプローチ」である.この2つの「アプローチ」は似て非なるものであるが,状況の違うさまざまな患者の治療を「失敗しないで成功する」には,臨床家としてはどちらも知っておかなければならない.
 歯周治療の進め方は,診査診断,病因の特定を行い,科学的根拠に照らし合わせながら個々の症例のさまざまな状況を考慮し,最終的には主観的に患者レベル,歯レベルの予後判定そして治療計画を立案することから始まる.よって,真の科学的根拠に基づいた医療の実践(アプローチ)には,科学的根拠を知るだけではなく,臨床技術を学び,患者の要求に真摯に耳を傾けることも必要である.
 そこで本書は,実際の臨床に即して,治療計画立案に大切な予後の判定の理解から始まり,各種治療法の予後ならびにその効果の検証,そして個別の病態への対応へとより具体的な内容へと理解を深める構成にしている.また,文献的な考察とともに実際の症例を提示し,単なる科学的根拠の理解のみならず,その理解が実際の臨床に応用しやすいように構成している.本書が読者の医院にて実際に行われる歯周治療を成功させる手助けになれば幸いである.
 最後に,普段よりご助言いただいている二階堂雅彦先生はじめEPICスタッフ,職場で常に私を支えてくれている当院スタッフ,そして公私ともに面倒をみてくれる家族に心より感謝申し上げたい.
 2015年2月 清水 宏康
Chapter I 歯周病の予後を考える─保存か抜歯の判断基準は?─
Chapter II 歯周病に対する処置法を考える
 1 歯周基本治療−SRPはどこまでやるべきか?
 2 歯周外科治療−どのようなときに歯周外科を用いるべきか?
 3 歯周病患者へのインプラント治療−歯周病患者へのインプラント治療は予後が見込めるか?
Chapter III 個別の病態に対する処置法を考える
 1 根分岐部病変−長期維持管理は可能なのか?
 2 エンドペリオ病変−その診断は適切か?
 3 垂直性骨欠損−垂直性骨欠損はさらなる骨吸収を予見するものか?
 4 侵襲性歯周炎−進行性の歯周炎はすべて侵襲性なのか?
 5 咬合性外傷−外傷を与える咬合とは何か?
 6 歯肉退縮−根面被覆術によって得られた歯肉は長期の予後が見込めるか?
 7 顎堤吸収−その予防と回復は可能か?
 8 歯肉レベル不調和−歯肉レベルのコントロールは可能か?
 9 病的歯牙移動(PTM)−矯正処置が歯周組織に与える影響は?
Chapter IV 複雑な症例への対応
 1 Case 1 侵襲性歯周炎
 2 Case 2 慢性歯周炎

 文献
 索引