はじめに――いまなぜ「歯周基本治療」なのか?
平成23年歯科疾患実態調査によれば,「4mm以上のプロービング値の所見がある者の割合が,30歳代で24%,40歳代で31%,50歳代・60歳代で55%,70歳代で57%」となっています.これほど多くの人が罹患している歯周病は,もはや国民病ともいえます.すべての建築物に基礎工事が必要なのと同様に,歯周治療はそれ自体が目的であるばかりではなく,インプラント治療や審美修復,その他すべての補綴処置の前に当然終えておくべき歯科臨床の基本です.歯周治療なくして歯科臨床は成立しないのです.
また,歯周病は糖尿病の第6の合併症とされ,脳血管疾患や誤嚥性肺炎,その他多くの成人病との密接な関係も指摘されるなど,昨今歯科以外からも注目を集めており,歯周治療に真摯に取り組んでいるか否かという,歯科医師の姿勢が問われています.つまり,多くの人が罹患している歯周病をきちんと治しコントロールできることは,私たち歯科臨床家にとって当然の責務であり,歯科医師の品格ともいえるのではないでしょうか.
従来から「プロービングデプスが6mmを超えたら歯周外科の適応症」が定説とされていました.私も臨床に携わった当初は,歯周“初期”治療として歯周基本治療に取り組みはじめましたが,より高い質の歯周基本治療を追究していくうちに,歯周外科は不要になっていくことを,数多くの症例で目の当たりにしてきました.
初診時のプロービング値やX線写真はあまりあてにはならず,抜歯と診断されてもおかしくないと思われる重度の歯周病症例も,歯周基本治療の精度が上がればコントロールできることを,数多く経験してきました.
また,術後の経過観察のなかで,歯周基本治療にあって歯周外科にはない利点をいくつも見つけてきました.そうした好結果を生み出すためには担当歯科衛生士の手技の向上が不可欠ですが,それと同時に歯科医師の的確な診断,症例を読む「眼」,原因をすみやかに除去するスキルがぜひとも必要なのです.
本書はChapter1,2,3で構成しています.
Chapter1では,「歯周基本治療で治る」多くの症例をハイライトシーンで紹介し,歯周基本治療による歯周組織の変化の可能性をビジュアルに提示しています.
Chapter2では,そうした歯周組織の変化を引き出すために必要な知識と技術を,歯周基本治療の流れと具体的な手技の解説とともに紹介します.「歯周基本治療で治す」ためのHow Toとしてお読み下さい.
Chapter3では,Chapter1で紹介したすべての症例を詳細にケースプレゼンテーションし,「歯周基本治療で治す」実際を長期経過から考察しています.
本書が歯周基本治療の威力や意義を見直すきっかけになり,より多くの歯周治療に貢献できれば幸甚です.
2013年5月
牧野 明
平成23年歯科疾患実態調査によれば,「4mm以上のプロービング値の所見がある者の割合が,30歳代で24%,40歳代で31%,50歳代・60歳代で55%,70歳代で57%」となっています.これほど多くの人が罹患している歯周病は,もはや国民病ともいえます.すべての建築物に基礎工事が必要なのと同様に,歯周治療はそれ自体が目的であるばかりではなく,インプラント治療や審美修復,その他すべての補綴処置の前に当然終えておくべき歯科臨床の基本です.歯周治療なくして歯科臨床は成立しないのです.
また,歯周病は糖尿病の第6の合併症とされ,脳血管疾患や誤嚥性肺炎,その他多くの成人病との密接な関係も指摘されるなど,昨今歯科以外からも注目を集めており,歯周治療に真摯に取り組んでいるか否かという,歯科医師の姿勢が問われています.つまり,多くの人が罹患している歯周病をきちんと治しコントロールできることは,私たち歯科臨床家にとって当然の責務であり,歯科医師の品格ともいえるのではないでしょうか.
従来から「プロービングデプスが6mmを超えたら歯周外科の適応症」が定説とされていました.私も臨床に携わった当初は,歯周“初期”治療として歯周基本治療に取り組みはじめましたが,より高い質の歯周基本治療を追究していくうちに,歯周外科は不要になっていくことを,数多くの症例で目の当たりにしてきました.
初診時のプロービング値やX線写真はあまりあてにはならず,抜歯と診断されてもおかしくないと思われる重度の歯周病症例も,歯周基本治療の精度が上がればコントロールできることを,数多く経験してきました.
また,術後の経過観察のなかで,歯周基本治療にあって歯周外科にはない利点をいくつも見つけてきました.そうした好結果を生み出すためには担当歯科衛生士の手技の向上が不可欠ですが,それと同時に歯科医師の的確な診断,症例を読む「眼」,原因をすみやかに除去するスキルがぜひとも必要なのです.
本書はChapter1,2,3で構成しています.
Chapter1では,「歯周基本治療で治る」多くの症例をハイライトシーンで紹介し,歯周基本治療による歯周組織の変化の可能性をビジュアルに提示しています.
Chapter2では,そうした歯周組織の変化を引き出すために必要な知識と技術を,歯周基本治療の流れと具体的な手技の解説とともに紹介します.「歯周基本治療で治す」ためのHow Toとしてお読み下さい.
Chapter3では,Chapter1で紹介したすべての症例を詳細にケースプレゼンテーションし,「歯周基本治療で治す」実際を長期経過から考察しています.
本書が歯周基本治療の威力や意義を見直すきっかけになり,より多くの歯周治療に貢献できれば幸甚です.
2013年5月
牧野 明
はじめに―いまなぜ「歯周基本治療」なのか?
Chapter 1 歯周基本治療で“治る”
長期経過にみる歯周基本治療の治癒
歯周基本治療のメリットを活かす
歯周基本治療をベースとした重度歯周病症例
歯周基本治療への期待
Chapter 2 歯周基本治療で治すための知識・技術
歯周基本治療の流れを知ろう
step 1,2 主訴の解決,オリエンテーション
step 3 歯周組織検査,診断
step 4 カウンセリング
step 5 OHI(Oral Health/Hygiene Instruction)
step 6 スケーリング&ルートプレーニング(SRP)
step 7 再評価
step 8 メインテナンス
知っておくと基本治療のレベルが上がる臨床ヒント
hint 1 X線写真には何が写っているのか?
hint 2 動揺する歯をいつ固定するのか?
hint 3 “力”を評価する
hint 4 歯肉退縮
hint 5 歯肉のクリーピング
歯周基本治療の決め手は,ルートプレーニング
key1 効果的でダメージの少ないルートプレーニング
key2 ルートプレーニング成功の鍵
key3 ルートプレーニングの基本操作
Chapter 3 歯周基本治療で“治す”
長期経過にみる歯周基本治療の治癒
移動した歯の回復(Case01,Case02)
挺出して安定(Case03,Case04)
斜めの骨ラインで安定(Case05〜Case07)
歯周基本治療のメリットを活かす
残存する骨組織を掻爬しない(Case08,Case09)
自然移動を妨げず,引き出す(Case10〜Case13)
歯肉退縮のクリーピングに有利(Case14〜Case16)
意図的にクリーピングを導く(Case17,Case18)
歯周基本治療をベースとした重度歯周病症例
咬合性外傷(Case19〜Case23)
根分岐部病変(Case24〜Case28)
歯周基本治療への期待
外科・補綴治療の前準備(Case29)
自家歯牙移植(Case30,Case31)
長い上皮性付着が結合織性付着に変化?(Case32)
参考文献
索引
あとがきにかえて
著者略歴
Chapter 1 歯周基本治療で“治る”
長期経過にみる歯周基本治療の治癒
歯周基本治療のメリットを活かす
歯周基本治療をベースとした重度歯周病症例
歯周基本治療への期待
Chapter 2 歯周基本治療で治すための知識・技術
歯周基本治療の流れを知ろう
step 1,2 主訴の解決,オリエンテーション
step 3 歯周組織検査,診断
step 4 カウンセリング
step 5 OHI(Oral Health/Hygiene Instruction)
step 6 スケーリング&ルートプレーニング(SRP)
step 7 再評価
step 8 メインテナンス
知っておくと基本治療のレベルが上がる臨床ヒント
hint 1 X線写真には何が写っているのか?
hint 2 動揺する歯をいつ固定するのか?
hint 3 “力”を評価する
hint 4 歯肉退縮
hint 5 歯肉のクリーピング
歯周基本治療の決め手は,ルートプレーニング
key1 効果的でダメージの少ないルートプレーニング
key2 ルートプレーニング成功の鍵
key3 ルートプレーニングの基本操作
Chapter 3 歯周基本治療で“治す”
長期経過にみる歯周基本治療の治癒
移動した歯の回復(Case01,Case02)
挺出して安定(Case03,Case04)
斜めの骨ラインで安定(Case05〜Case07)
歯周基本治療のメリットを活かす
残存する骨組織を掻爬しない(Case08,Case09)
自然移動を妨げず,引き出す(Case10〜Case13)
歯肉退縮のクリーピングに有利(Case14〜Case16)
意図的にクリーピングを導く(Case17,Case18)
歯周基本治療をベースとした重度歯周病症例
咬合性外傷(Case19〜Case23)
根分岐部病変(Case24〜Case28)
歯周基本治療への期待
外科・補綴治療の前準備(Case29)
自家歯牙移植(Case30,Case31)
長い上皮性付着が結合織性付着に変化?(Case32)
参考文献
索引
あとがきにかえて
著者略歴