やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊の辞
 歯科口腔外科の標榜科名が自由標榜されてから,多くの開業歯科医院の看板は歯科口腔外科に塗り替えられ,多くの国民に認識されるようになった.
 当然,歯科口腔外科を標榜する医院は,一般歯科医院より,“口腔のことなら,何ごとにも対応でき,しかも信頼しうる歯科医院”という患者からの期待が大きくなる.現にその診療科名にふさわしい多くの開業歯科医の名を上げることができる.
 元来,歯科小手術は,補綴前処置を中心に発展してきたと言っても過言ではないが,口腔外科の大きな手術もすべてこの基本に従っている.
 小手術は,それらの手術に比べれば,術創がはるかに小さいし,手術も短時間で済むが,決して“ないがしろにすることができない”ものである.なぜなら,口腔はきわめて繊細かつ機能的な器官であるため,粗雑な手術によっては患者の苦痛を極限にまで増強させるからである.たとえば,著しい腫脹や開口制限,あるいは咀嚼,嚥下など口腔の機能障害を生じたり二次的感染などを継発させることが少なくない.また,縫合の手技ひとつで,瘢痕形成や引きつれを生じ,口腔機能時に不快症状を後遺させてしまう.歯槽骨や顎骨に関連する処置においては,歯肉粘膜骨膜弁を一層にしてかつ丁寧に/離しないと,術中出血に悩まされ,止血のみに多くの時間を費やすことになる.
 口腔の機能や感覚は実に微妙である.そのため,より繊細な配慮が求められる.著者は口腔外科小手術こそ術者の医療姿勢が如実に現れると考えている.
 さて,著者らは2005年7月から2006年12月まで18回にわたって,歯科口腔外科小手術の手技の実際を『歯界展望』に連載した.お蔭様をもって好評を博したが,ロングランの連載から,多くの読者が難易度の高いテクニックより,基本手技を体得したいということを実感した.連載を終える頃には,読者から一冊の単行本にしてほしいという要望までいただいた.18カ月間の連載は合計100ページを超えていたことが分かって,著者もその重量感にはじめて驚いたが,ぜひこの要望には応えたいと思い,このたびの企画となった.
 本書は,連載した外来で行える「小手術の実際」に,「おさえておきたい基本手技/周辺知識」を新たに加えて構成した.
 連載時のコンセプトは,見やすく読みやすい体裁に心がけ,特に,臨床写真については可能な限り統一性を図り,ほぼすべての症例を8カットでまとめ,アングルの統一に配慮した.本書においても,以上のコンセプトを守り,この体裁を踏襲している.
 新たに「おさえておきたい基本手技」を加えたことで,読者にとっては,小手術をより身近に感じてもらえるのではないかと考えている.
 末尾ながら,読者にとって,身近な臨床の手引きになることを心から願ってやまない.
 平成22年2月 白川正順
おさえておきたい基本手技/周辺知識
基本手技
 麻酔
  局所麻酔薬 麻酔の種類と奏効 麻酔の局所的偶発症 麻酔の全身的偶発症
 切開・剥離
  メスの種類と把持法 切開における注意点 剥離子の種類 剥離の基本手技
 縫合
  縫合針,縫合糸 持針器の種類 縫合の基本手技 結紮法
 止血
  一時的止血法 永久的止血法
周辺知識
 全身管理・鎮静法
  モニタリング 笑気吸入鎮静法 静脈内鎮静法
 一次救命処置(BLS)
  BLSの手順
 歯科小手術において用意しておくべき 救急薬剤
 その他に用意しておくべき 器具・器材
 院内感染対策
  Standard Precautions 一般的な感染対策
小手術の実際
 埋伏歯の抜歯
  下顎埋伏智歯 正中過剰埋伏歯
 外骨症に対する処置
  下顎隆起 口蓋隆起 多発性外骨症
 小帯ならびに粘膜付着異常に対する処置
  上唇小帯付着異常 舌小帯付着異常 頬小帯付着異常
 歯槽堤に対する処置
 粘液嚢胞に対する処置
 歯根嚢胞に対する処置
 膿瘍に対する処置
 外傷歯ならびに周囲組織に対する処置
  歯の脱臼 歯槽骨骨折
 歯の移植処置
 唾石に対する処置
 口腔上顎洞瘻に対する処置

 発刊の辞
 目次
 文献
 索引