やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 はじめに
 『クラウンブリッジテクニック』の初版は2008年に全国29大学のクラウンブリッジ補綴学の実習にたずさわる先生方の一致協力によって,歯学生の実習副読本として上梓された.臨床および技工操作の各ステップ写真から構成されている本書は歯学生の副読本としてばかりでなく,臨床研修歯科医,若い歯科医師,歯科技工士の参考書としても広く活用されてきた.初版は好評をもって迎えられ,発刊から今日まで刷を重ね,すでに10刷に至っている.
 初版が上梓されてから10年が経過し,この間,学問・研究は日進月歩で進んでおり,歯科医師国家試験出題基準の改定も行われている.CAD/CAM,光学印象などのデジタル技術が導入されるようになり,補綴装置の製作法も大きく変わろうとしている.CAD/CAMシステムは驚くほどの進歩を遂げており,加工精度の向上により,適合のよい補綴装置を容易に製作することができるようになった.また,CAD/CAMシステムを応用したジルコニアによるオールセラミック修復が行われるようになり,ブリッジを含めたメタルフリー修復による審美修復の可能性も大いに広がってきた.以前では夢の世界であった,CAD/CAMによる補綴装置の製作が高精度で実現できるようになり,クラウンブリッジの製作法は,Peesoらが始めたバンドクラウンから鋳造冠に代わった1945年頃についで,一大変革期を迎えようとしている.
 鋳造冠は適合がよく,強度が大きいことから長くクラウンブリッジの中核をなしてきた.しかしながら,溶けた金属が固まるときの結晶の偏析や鋳造欠陥を避けることができず,本来金属が持っている優れた性質を100%保ったままの修復装置を製作することはできなかった.一方,CAD/CAMは工業的に均一につくられたブロックを削り出して修復装置を製作するため,材料が持つ本来の優れた物性をそのまま引き継ぐことができるという大きな利点がある.CAD/CAM用のブロックもさまざまなものが提供されるようになり,硬質レジンブロックを用いた小臼歯および下顎第一大臼歯のCAD/CAM冠が保険に収載されるなど,患者の選択肢も増えてきている.
 これらの新しい時代の変化に対応するため,このたび初版の改訂を行った.本書が初版同様,クラウンブリッジを学ぶ人たちに基本的理論と技法の手引きとして広く活用されるとともに,それを通じて国民の顎口腔系の健康維持・増進に貢献できることを切望する.
 最後に,お忙しい中ご執筆いただいた全国のクラウンブリッジ補綴学ご担当の先生方に深甚なる謝意を表するとともに,本書の改訂にあたり,終始忍耐強くわれわれをリードして下さった医歯薬出版株式会社の諸氏に深謝する.
 2018年2月
 編集委員 三浦 宏之 伊藤  裕
      小川  匠 細川 隆司
      石橋 寛二 川和 忠治
      寺田 善博 福島 俊士



はじめに
 クラウンブリッジ補綴の守備範囲は,1歯の歯質欠損から多数歯の欠損に及び,これらに対する補綴装置の種類は部分被覆冠のように比較的歯質の削除量の少ない小型の装置から多数歯にわたる大きなブリッジに至るまで多岐にわたる.また,国民の歯に対する関心の高まりから,各年齢層における有歯本数は着実に改善され,クラウンブリッジ補綴の対象者数は確実に増加していると思われる.
 こうした状況を踏まえ,各歯科大学(歯学部)はそのカリキュラムにおいて,少なからぬ時間をクラウンブリッジ補綴の講義と実習に割いている.しかし,クラウンブリッジ補綴の診療ならびに技工ステップは複雑で,補綴装置の種類も多いため,限られた実習時間内に履修できる内容はごく基本的なものに留まっている.
 本書は,歯学生の実習副読本として編まれたもので,さまざまな補綴装置について,各大学の基礎実習に利用しうる臨床および技工操作のステップ写真で構成されている.学生諸君は,ごく基本的な補綴装置についてはもちろん,最新の補綴装置についても,製作工程の全体をつぶさに見て取ることができるであろう.したがって,本書は単に歯学生の実習副読本としてばかりでなく,臨床研修歯科医をはじめとする若い歯科医師,歯科技工士をはじめとするコデンタルワーカーの参考書としても活用していただけるものと考えている.
 本書の企画は,平成18年の秋に提起され,およそ2年間かけて,全国29大学のクラウンブリッジ補綴学にかかわる教授の先生方の一致協力によって成就された.その間,全大学におけるクラウンブリッジ基礎実習のアンケート調査を実施し,できるかぎりその共通項を連ねた目次を作成し,絵コンテ案を準備して検討を重ね,実際にステップ写真を撮影し,手分けして説明文をつけた.これらの過程は決して平坦ではなかったが,参加してくださったすべての大学が協力的であり,建設的であった.
 また,本書の作成に際して,多くの大学の多数の教員,歯科技工士が「執筆協力者」としてメラミン歯の支台歯形成やろう型の採得・埋没・鋳造そして写真の撮影などにそれぞれ全力を傾注してくださった.これらの方々の積極的な参画がなかったなら本書が日の目をみることはなかったであろう.
 このように本書の上梓は,多くの方々の協力の所産である.本書が世に広く受け入れられ,クラウンブリッジ補綴教育の発展に寄与し,ひいては国民の健康に貢献できることを期待する.
 最後に,本書の制作にあたり,終始忍耐強くわれわれをリードしてくださった医歯薬出版(株)の諸氏に深謝いたします.
 2008年8月
 編集委員 石橋 寛二 伊藤  裕
      川和 忠治 寺田 善博
      福島 俊士 三浦 宏之
第1章 クラウンブリッジ補綴とは
 A.クラウンブリッジ補綴の臨床的意義
  1.クラウンブリッジ補綴による顎口腔機能の回復
  2.クラウンブリッジ補綴と歯周組織および全身との関係
 B.クラウンブリッジの要件
  1.クラウンブリッジの名称
  2.適合
  3.咬合関係
  4.隣接接触関係
  5.頬舌側面形態
 C.クラウンブリッジの種類
 D.クラウンブリッジの補綴治療の流れ
第2章 支台歯形成
 A.支台歯形成の原則
 B.全部金属冠のための支台歯形成
 C.前装冠のための支台歯形成
  1.前歯部
  2.小臼歯部
 D.ジャケットクラウンのための支台歯形成
  1.前歯部
  2.大臼歯部
 E. クラウンのための支台歯形成
 F.接着ブリッジのための支台歯形成
  1.前歯部ブリッジ((3) 2 (1))
  2.臼歯部ブリッジ(D字型)((7) 6 (5))
  3.臼歯部ブリッジ(L字型)((7) 6 (5))
第3章 支台築造
 A.鋳造支台築造
 B.分割支台築造
 C.レジン支台築造
  1.ファイバーポストを利用する方法(直接法,1)
  2.ファイバーポストを利用する方法(間接法,4)
  3.既製金属ポストを利用する方法(直接法,1)
第4章 印象採得
 A.単一印象法
 B.連合印象法
 C.二重同時印象法(ダブルミックス印象法)
 D.個歯トレー印象法
 E.咬合印象法
 付.カートリッジタイプの取り扱い
第5章 プロビジョナルレストレーション
 A.既製プラスチッククラウン応用法
  直接法(1前装冠)
 B.即時重合レジン応用法
  1.直接法
   (1)餅状レジンによる圧接法(6 全部金属冠)
   (2)術前の印象応用法(1)( 12 前装冠)
   (3)術前の印象応用法(2)((3) 2 (1) ブリッジ築造体ごと脱落例)
  2.間接法
   (1)レジン筆積み法(6 全部金属冠)
   (2)模型の印象応用法(1)(6 全部金属冠)
   (3)模型の印象応用法(2)((3) 2 (1) ブリッジ)
 付.インプラント症例の場合
第6章 患者情報の伝達
第7章 顎間関係の記録(咬合採得)
 A.咬頭嵌合位の記録
  1.パラフィンワックスを用いたインターオクルーザルレコードの採得
  2. 咬合採得用シリコーンゴムを用いたインターオクルーザルレコードの採得
  3.その他の顎間関係の記録
 B.頭蓋に対する上顎歯列の三次元的位置関係の記録
 C.偏心咬合位の記録と咬合器の調節
第8章 作業用模型の製作
 A.模型の製作
  1.歯型を含む歯列模型の製作
  2.対合歯列模型の製作
 B.咬合器装着
 C.歯型の分割とトリミング
 D.ダウエルピンの後付けによる製作法
 E.ガム付き模型の製作
第9章 ワックスパターン形成
 A.盛り上げ法
 B.浸漬法
 C.圧接法
 D.ドロップオンテクニック
第10章 埋没・鋳造・模型上の調整・研磨
 A.埋没
 B.鋳造(遠心鋳造)
 C.模型上の調整
 D.研磨
第11章 レジン前装冠の製作
 A.ワックスパターン形成
 B.鋳造体の処理
 C.レジンの築盛および重合
 D.形態修正,研磨
第12章 陶材焼付冠の製作
 A.ワックスパターン形成
 B.埋没,鋳造
 C.メタルコーピングの試適
 D.メタルコーピングの前処理
 E.陶材の築盛および焼成
 F.仕上げ・研磨
第13章 レジンジャケットクラウンの製作
第14章 オールセラミッククラウンの製作
第15章 ポーセレンラミネートベニアの製作
 A.支台歯形成
 B.印象採得
 C.耐火模型の製作
 D.陶材の築盛および焼成
 E.ラミネートベニアの接着
第16章 CAD/CAMによるクラウンの製作
 A.支台歯形成
 B.スキャニング(模型)
 C.スキャニング(口腔内)
 D.クラウンの設計
 E.ミリング,シンタリング
 F.試適,咬合調整
 G.研磨,接着
第17章 ブリッジの製作
 A.レジン前装ブリッジ
  1.前歯部ブリッジ((3) 2 (1))
  2.臼歯部ブリッジ((7) 6 (5))
 B.陶材焼付ブリッジ((3) 2 (1))
 C.全部金属ブリッジ((7) 6 (5))
 D.オールセラミックブリッジ( (5) 6 (7))
 E.ろう付け
  1.石膏コアによる方法
  2.即時重合レジンによる方法
 F.接着ブリッジ
  1.前歯部ブリッジ((3) 2 (1))
  2.臼歯部ブリッジ((7) 6 (5))
第18章 口腔内試適と装着
第19章 オクルーザルスプリントの製作

 コラム
  1 下顎大臼歯部における接着ブリッジリテーナーのL字型デザイン
  2 クラウンブリッジにおける(精密)印象法の変遷
  3 「ワックスパターン形成法」の理解のために
  4 プロビジョナルレストレーション
  5 ジルコニアクラウンの支台歯形成
  6 ポンティック基底面形態