やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 私は歯科医学史の研究者ではないのに長く歯科医学史に関わりをもってきた.
 それは1963年1月に私が愛知学院大学歯学部に赴任したとき,学部長の故岡本清纓先生から,2年生であった第一回生の歯科医学史の講義を命ぜられたことにはじまる.
 私は以前から歯科医学史には個人的な興味をもってはいたが,それに打ち込んだこともなかったし,もちろん専門的な素養などはまったく持ちあわせていなかったので,尻込みしたのだが,とにかく,1月30日から講義がはじまるという切羽つまった状況だったので,とりあえず,あり合わせの資料をまとめ,泥縄で当面の10回の講義をすませた.
 これがきっかけで,以来歯科医学史の担当ということになってしまったが,私の力では研究者として歯科医学史の第一次資料にすべてあたって突き止めるようなことはできるわけがないので,自分の位置づけを歯科医学史の解説者Interpreterと決めて,その限りで力を注ぐことにしてきた.
 だから講義の場合には,その都度レジュメを作って,一回ごとに簡単なテストをして解説が伝わったかどうかを確かめるという進め方で約四半世紀歯科医学史の講義に関わることになったわけである.
 そのレジュメの集積から書き残してもいいかなと思えるものを集めたものがこの「歯科保健医療小史」である.
 だから「歯科医学史」とするには少々気おくれする所があるし,れっきとした「歯科医学史」の出現を希いながら解説者の立場から,少し肩をすぼめて「小史」としたのである.
 2002年1月
 榊原悠紀田郎
第1章 古 代
 A.医療の起源
 B.四大文明と古代医療
 C.古代の西方医学
  1)ギリシャの医学
  2)ローマの医学
 D.古代インドの医療
  1)アーユルヴェーダ
  2)古代インドの三医典
 E.古代中国の医療
  1)『黄帝内経』
  2)『神農本草経』
  3)『傷寒雑病論』
 F.古代の歯科医療
第2章 中 世(3世紀〜15世紀)
 A.アラビア医学の起源
 B.僧院医学と医学教育
 C.中世の中国医学
  1)金・元の四大家
 D.中世の日本の医療・医学
 E.中世の歯科医療
第3章 近 世(16世紀ころ〜18世紀ころまで)
 A.近世ヨーロッパの医学
  1)化学療法のルーツ-化学医学派
  2)近代解剖学の確立
  3)近代外科学の確立
  4)近代生理学の確立-物理医学派
  5)臨床の体系化
  6)顕微鏡の開発
 B.近世の歯科医療
  1)ヨーロッパにおける歯科医学の誕生
  2)近世の中国における歯科医療
  3)近世の日本の歯科医療
  4)木床義歯
 C.近世日本の医学
  1)李朱医学の導入
  2)西洋医学との接触
  3)南蛮医学から紅毛医学へ
  4)古方派の台頭
  5)紅毛医学の普及
第4章 近 代(1880年ころまで)
 A.メディカルサイエンスの確立
 B.日本の医療の近代化
  1)近代化の受け皿-オランダ医学の浸透
  2)明治初期に来日したアメリカ人医師たちの活躍
  3)明治初期に来日したイギリス人医師の活動
  4)ドイツ医学の導入
  5)明治初期の漢方医の動向
 C.アメリカにおける歯科医療の発展
 D.アメリカ歯科医術の日本への流入
  1)明治初期の日本の歯科医療
  2)アメリカ人歯科医師の来日
第5章 明治時代(1910年ころまで)
 A.近代歯科医学・歯科医療の流入
  1)西洋歯科医術導入の系譜
   a.外国人歯科医師に直接師事した人たち
   b.口中医で西洋歯科医術を学び直した人たち
   c.海外で西洋歯科医術を修業した人たち
   d.蘭方医で西洋歯科医学を学び直した人たち
   e.従来家から西洋歯科医術を修得した人たち
   f.すでに西洋歯科医術を身につけた先輩について修得した人たち
 B.免許制度の設定
 C.医師養成
 D.歯科医師の養成
 E.歯科医療の推移
 F.歯科医師法への道
第6章 大正・昭和前期(1910年〜1945年)
 A.歯科医学教育の充実
 B.歯科基礎医学研究の推移
  1)学会
 C.歯科医療の変遷
  1)臨床研修・スタディクラブ
  2)歯科医業形態
  3)病院歯科
  4)事業所歯科診療所
 D.歯科医療制度の経緯
  1)歯科医師会
 E.社会保険歯科医療の経過
  1)医療の社会化
  2)現場労働者の共済組合の設立
  3)健康保険の実施
  4)健康保険のなかの歯科医療
  5)国民健康保険
 F.口腔衛生普及活動
  1)口腔内の清掃
  2)口腔衛生展覧会と口腔衛生巡回講演
  3)ムシ歯予防デー
  4)歯磨訓練
 G.学校歯科の普及
  1)校内診療の揺籃期
  2)教員口腔衛生講習会
  3)学校歯科医および幼稚園歯科医令
  4)学校歯科の「予防処置」
  5)教科のなかの「口腔の清掃」
  6)「学校歯科衛生協議会」
 H.国際交流
第7章 昭和後期(1945年〜)
 A.歯科医療制度の推移
  1)医薬分業
  2)病院・診療所の機能分離
  3)家庭医からかかりつけ医へ
  4)歯科医療保健関係法令
  5)医療制度調査会
  6)歯科医療の需給関係
 B.医療保障制度の変遷
  1)国民皆保険
  2)社会保険歯科診療報酬
  3)差額徴収と特定療養費制度
  4)老人歯科保健事業
 C.公衆歯科衛生の動向
  1)保健所歯科
  2)フッ素応用
  3)小児歯科保健
  4)学校歯科保健
  5)産業歯科保健-成人歯科保健
  6)口腔衛生普及活動の推移
 D.歯科医学教育の変遷
  1)医師・歯科医師国家試験
  2)歯科教育審議会
  3)歯科大学の発足
  4)インターン制度から臨床研修へ
  5)6年一貫教育と学士入学
 E.歯科医学研究と学会活動
  1)齲蝕に関する研究
  2)歯周疾患の研究
  3)学会の活動
 F.歯科医療の趨勢
  1)社会保険歯科医療制度がリードしていた時期
  2)歯科医療充実期
  3)1973(昭和48)年以後
 G.国際交流

 索引