やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 医学あるいは歯科医学の内容は日々進歩し変化している.それに伴って,名称もその領域に相応しいものに改められている.わが国で従来から「口腔外科学」として発展してきた学問も,その語源となった英語の“Oral Surgery“が“Oral and Maxillofacial Surgery”に変更になって久しい.
 漢字を使う国でも,中国では「口腔顎面外科学」,韓国では「口腔顎顔面外科学」の名称が使われている.日本でも英文の講座名は“Oral and Maxillofacial Surgery”としているところが多くなったし,大学院研究科あるいは講座の名称を「顎顔面外科学」としているところも増えている.しかし,「口腔顎顔面外科学」という名の教科書はほとんどみられない.
 呼称が変更されても急に内容が変わるわけではないが,「名は体を表す」ともいわれているし,中国の故事にも「名不正,即言不順,言不順,即事不成」と書かれている.学問内容に相応しい名称にしたほうが周囲の理解も得られやすい.そこで本書では,あえて「口腔顎顔面外科学」の名称を用いることにした.幸い,執筆者の方々の了承が得られ,執筆をしていただくことができた.
 本書においては,現在の日本の歯科医学教育に腐心しておられる中堅の教授の先生方を中心に執筆をお願いし,これから十年間は学生教育あるいは卒後研修の教科書として使用できる内容にしたいと考えて編集した.また,図あるいは写真をできるだけ多く使用して,専門書でありながら理解しやすく読みやすいものにしたつもりである.
 「総論」では診断学,疾病学,治療学の三部構成とし,「各論」においては,部位別に歯と歯周組織,顎と顎関節,口腔軟組織,顔面顎部の疾患に分類した.前者は学部学生の教育あるいは初学者に適した構成であり,後者は実地臨床家向けの構成になっている.
 また本書は,最初から企画立案の中心となり編者の一人であった前 日本歯科大学教授,故 久野吉雄先生が計画半ばで突然ご逝去という不幸に見舞われ,一時は発行の断念ということも考えたことがあった.しかし,医歯薬出版のご協力と執筆者の方々のご理解によって,長い中断の後に編集担当者の一部補充,執筆者の変更などを行って再出発を図ることができ,このたび上梓の運びとなった.
 その間における編集責任者の対応の不手際のために進行が大幅に遅れ,関係の方々には多大なご迷惑をおかけすることになってしまった.この機会を借りて心からお詫び申し上げたい.
 最後に,ご理解をいただいた執筆者の方々,ご協力をいただいた医歯薬出版の方々に心からの謝意を表する.
 2000年8月 編集者一同
I.歯と歯周組織の疾患……1
 1.構造と機能……1
   口腔/1 歯肉/1 歯/3 歯槽骨/6
 2.歯の疾患…7
   歯の異常/7 歯の損傷/16
 3.歯列弓と咬合の異常……24
   歯列弓の異常/24 咬合の異常/24
 4.歯周組織の疾患……26
   根尖性歯周(組織)炎/26 辺縁性歯周(組織)炎/27 歯の萌出障害による炎症/28
 5.歯肉の疾患……30
   損傷/30 炎症性疾患および類似疾患/30 歯肉炎および類似疾患/32 腫瘍および類似疾患/34 血液疾患・出血性素因/40

II.顎と顎関節の疾患……43
 1.構造と機能……43
   顎骨周囲の血管,神経,筋肉/43 上顎骨/44 下顎骨/45 顎関節/46
 2.先天異常……49
   唇顎口蓋裂/49 口蓋裂/50 その他/53
 3.発育異常……54
   上顎骨の発育異常/54 下顎骨の発育異常/56
 4.損傷……63
   上顎骨骨折/64 下顎骨骨折/69 顎関節損傷/76
 5.炎症および類似疾患……79
   歯槽骨炎/79 智歯周囲炎/80 顎骨骨膜炎/80 顎骨骨髄炎/82 上顎洞炎/85 顎関節の炎症性疾患/86
 6.嚢胞および類似疾患……87
   歯原性嚢胞/87 非歯原性嚢胞/91 嚢胞類似疾患/93
 7.腫瘍および類似疾患……95
   歯原性腫瘍/95 非歯原性腫瘍/99
 8.顎関節疾患……106
   形成・発育異常/106 外傷性病変/107 炎症性病変/108 腫瘍および類似疾患/111 顎関節強直症/112
 9.骨系統疾患……115
   骨形成不全症候群/115 鎖骨頭蓋異形成症/116 基底細胞母斑症候群/118 Crouzon症候群/118 Treacher Collins症候群/120 口腔・顔面・指趾症候群1型/121 Goldenhar症候群/122 McCune-Albright症候群/122 Pycnodysostosis/123 Apert症候群/123 Ellis-van Creveld症候群/123 大理石骨病/124 くる病/125 ムコ多糖体代謝異常症/125 骨粗鬆症/126

III.口腔軟組織の疾患……127
 1.構造と機能……127
   口唇/127 頬粘膜/128 舌/129 口底/131 硬口蓋/131 軟口蓋/132
 2.先天異常および発育異常……134
   口唇/134 頬粘膜/135 舌/135 硬口蓋/138 軟口蓋/138 その他/139
 3.損傷……142
   原因による分類/142 損傷の状態による分類/143 口腔軟組織部位による分類/143
 4.感染症……149
   扁桃周囲炎/149 組織隙に波及進展した感染症/149 口底炎/151 頬部蜂窩織炎/151 特異性炎/152 カンジダ症/153
 5.嚢胞および類似疾患……154
   類皮嚢胞および類表皮嚢胞/154 歯肉嚢胞/155 唾液腺貯留嚢胞/155 甲状舌管嚢胞/157 口腔粘膜のリンパ上皮性嚢胞/157
 6.腫瘍および類似疾患……158
   上皮性良性腫瘍/158 上皮性悪性腫瘍/159 非上皮性良性腫瘍/168 非上皮性悪性腫瘍/171 悪性黒色腫/171 転移性腫瘍/172
 7.粘膜疾患……173
   水疱を主徴とする疾患/173 紅斑およびびらんを主徴とする疾患/178 潰瘍を主徴とする疾患/180 白斑を主徴とする疾患/183 色素沈着を主徴とする疾患/186 萎縮性変化を主徴とする疾患/187 舌にみられる疾患/188 口唇にみられる疾患/190 その他の疾患/191

IV.顔面頸部の疾患……193
 1.構造と機能……193
   顔面頸部の区分とその特徴/193 顔面頸部の神経支配/196 顔面頸部の血管系とリンパ系/197 口腔,咽頭および頸部の隙の臨床解剖/197
 2.先天異常および発育異常……200
   唇裂/200 唇裂以外の顔面裂/201 顎顔面の非対称/203 その他/203
 3.損傷……205
   中顔面骨骨折,顔面中央1/3骨折/205 軟組織の損傷/211
 4.感染症……217
   組織隙の化膿性炎/217 化膿性リンパ節炎/220 壊死性筋膜炎/222
 5.嚢胞および類似疾患……224
   類皮嚢胞および類表皮嚢胞/224 鼻唇嚢胞/224 唾液腺貯留嚢胞/225 甲状舌管嚢胞/226 側頸嚢胞/226 粉瘤/227
 6.腫瘍および類似疾患……228
   表皮性良性腫瘍/228 癌前駆症と皮膚癌/229 表皮付属器官の腫瘍/229 色素産生細胞系の腫瘍/230 非上皮性良性腫瘍/230 肉腫/232 転移性皮膚悪性腫瘍/232
 7.唾液腺疾患……233
   唾液腺の炎症性疾患/233 閉塞性障害/239 嚢胞性疾患/240 唾液腺腫瘍/241 分泌障害/248 唾液腺症/249
 8.神経疾患……250
   神経痛/250 ほかの疼痛性疾患/254 神経麻痺/254 神経痙攣/258 その他/259
 9.リンパ系疾患……261
   リンパ球の種類と機能/261 リンパ組織の種類と機能/261 頭頸部のリンパ系/262 頸部リンパ節の触診法/263 一次的免疫反応によるリンパ節腫大/263 リンパ節の一次感染によるリンパ節腫大/264 非感染性リンパ節腫大/266 リンパ管腫/266 リンパ節の原発性腫瘍/266 腫瘍の続発性病変によるリンパ節腫大/271
 10.皮膚疾患……273
   皮膚の構造/273 皮膚疾患の症状/273 角化症/273 水疱症/274 感染症/274 アレルギー性疾患/276 自己免疫疾患,膠原病/277
 11.症候群……278
   顎骨および歯の変形や異常を主症状とする症候群/278 口腔軟組織の病変を主症状とする症候群/278 血液および血管の病変を主症状とする症候群/278 唾液腺の病変を主症状とする症候群/278 皮膚および粘膜の色素沈着を主症状とする症候群/278 神経症状を主症状とする症候群/278 代謝および内分泌に関連する症候群/289

文献……291
索引……293


総論 主要目次
I.概論
   名称/歴史/内容
II.診断学総論
   診察法/臨床検査法/画像診断法/症候学
III.疾患学総論
   先天異常/発育異常/損傷/炎症性疾患および類似疾患/感染症/嚢胞および類似疾患/腫瘍および類似疾患/歯と歯周組織の疾患/神経系疾患/リンパ系疾患/口腔症状を現す血液疾患・出血性素因/口腔に異常を現す系統的骨疾患/膠原病・自己免疫疾患/免疫・アレルギー疾患/代謝・内分秘疾患,栄養障害/皮膚・粘膜疾患/唾液腺に特有な疾患/顎関節に特有な疾患/心因性病態/口腔に異常を現す症候群
IV.治療学総論
   観血的療法〔手術器具・材料/滅菌法,消毒法/手術手技(基本的手術手技/抜歯/外科的保存法/補綴前手術/外科的矯正法/消炎手術/骨折手術/止血手術/病巣除去手術,異物除去手術/形成・再建手術)/創傷処置/侵襲と生体反応/麻酔法/輸血と輸液/術前・術中・術後管理/救急処置/蘇生法〕/薬物療法・免疫療法/放射線療法,理学療法/欠損補綴法(顎顔面補綴)/食事療法/筋訓練法,リハビリテーション