やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 先人たちの業績を土台に義歯製作に関する研究を20年近く行ってきました.材料の特性を考えたうえで不要な材料や工程を減らし,できるだけシンプルにして適合精度の優れた義歯ができるように研究・開発を進めてきました.この間に得られたデータは臨床にリンクできるはずです.また術者の健康を害する要因を極力除外するための研究も行ってきました.
 正確な操作を行えば精度の優れた義歯を製作することができますこのようにいわれても,歯科医師,歯科技工士を問わず,まともに信用していただけないのが,今の状況かもしれません.現在,製作工程(ここでは印象採得,咬合採得は含まない)を間違わずに,正確に行うならば,クラウン・ブリッジに迫る100μm程度の適合精度を得ることができます.そのためには,多少の装置や材料を必要とします.
 しかし,最も大切なのは,術者の頭と体に染み込んでいる 古い考え方や材料 誤った知識 にとらわれないことです.既成概念としてある 義歯は適合しない という考えを捨て,優れた義歯を製作しようという意志と柔軟な思考をもつことです.また,患者さんに義歯の“寿命”なども明らかにし,適合性が悪ければ生体(口腔内)がダメージを受ける前に義歯が壊れたほうがよいことなどを説明すべき時代と認識することです.
 義歯,その中のレジン床の製作では多くの工程を経ますが,術者のテクニカルエラーが入り込まないように,できるだけ自動化,ブラックボックス化を図ることが望ましいと思います.しかし,今日明日に完全な重合システムが開発されるわけではありません.そのため本書では,すべてのレジン床製作工程において生じる変形の要素を明確にし,それへの対応策をできる限りデータに基づき検証しています.これにより,現実に即しながらも,勘や経験に頼らずに安心して操作ができるはずです.
 巻頭のVisual Graphにおいて本書のエッセンスをまとめています.その中で読者それぞれが抱いている問題点を検索すれば,本書のどこにその解決方法が記載されているか一目で理解できるようになっています.また難解な専門用語や概念は ひとくち理工学 おもしろ理工学 にて解説してあります.ただし,わかりやすく説明をしようとしたため,学術的には適さない表現を使用している個所もあります.
 すでに臨床を積まれている読者は,本書でもう一度各工程を見直し,チェックして下さい.あるいは勧められないことかもしれませんが,術者個々で異なる“手抜き個所“を見つけて下さい.品質を低下させずに工程を省略することができるならば,“手抜き”は最高レベルのテクニックとなります.
 またこれからレジン床を勉強しようと思っている方は,善し悪しをはっきり見分ける目を本書で養って下さい.遠回りをせず,最短コースを歩んでいただくことができるはずです.
 本書は月刊 歯科技工の24巻4号から26巻7号まで連載された 長期検証連載 レジンから歯科技工が見える を系統立ててまとめ,加筆したものです.この場を借りて,連載にあたりご指導をいただきました大阪大学歯学部歯科理工学講座・高橋純造教授,実験などでご協力をいただきました大阪大学歯学部社会人大学院生・北原一慶氏ならびに新大阪歯科技工学院専任講師・中川正史先生にお礼申し上げます.
 1999年8月10日
Visual Graph
 No.1 レジン床の変形要因相関図
 No.2 義歯の変形と操作との相関関係図
Part1 基本操作検証編
 検証1 成形法を検証する
 検証2 印象内での模型の膨張を検証する
 検証3 もち状レジンを検証する
 検証4 填入法と注入法を検証する
 検証5 重合メカニズムを検証する
 検証6 高分子を検証する
 検証7 流蝋を検証する
 検証8 適合性とその評価方法を検証する
 検証9 研磨を検証する
 検証10 義歯のメンテナンスを検証する
Part2 関連操作検証編
 検証1 印象関連について検証する
 検証2 咬合床の適合性を検証する
 検証3 人工歯とレジンとの接合力を検証する
 検証4 人工歯の移動を検証する
 検証5 補強線を検証する
 検証6 金属床義歯を検証する
Visual Memo
 No.1 これから求められる義歯と精度向上の貢献
 No.2 マイクロ波重合とは
 No.3 誤用されている専門用語
 No.4 スルホン床義歯の特徴
 No.5 スルホン床義歯の問題
 No.6 重合開始部位制御システム“DS〈Dried Stone〉システム”