やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 日常の臨床で接着材(合着用セメントも含む)を使用しない日はないといっても過言ではないだろう.しかし,それほど日々馴れ親しんでいる歯科材料であるにもかかわらず,「いまひとつ理解しかねる部分」や難解な用語・用法など「なぞ」が多いのも事実であろう.多岐にわたる種類や使い方,複雑な使用マニュアル,頻繁に行われるモデルチェンジなど,シャワーのようにふりそそぐ「これはいいぞ情報」のなかで立往生している.あるいは,臨床応用上有用で使い勝手がいいこともわかる,しかし,この症例にはこれだ・といった確定できるほどの確固たる情報が得られないまま“冷蔵庫の肥”になっている.また,他の先生方はどうしているのだろうか,といった不安をお持ちの臨床家は多いのではないだろうか.本書がそのような臨床家の情報整理のために,そしてよりよい臨床の構築のために役立てば幸いである.
 「接着がわかれば臨床が変わる」といわれる.今まで,無念と思いつつも健全な歯を削り,ときには抜髄までしなければならなかった臨床が大きく変わる可能性がある.
 本書の全体の構成としては,まず接着(剤)と合着(材)の違いをわかりやすく解説し,エナメル質への接着,象牙質への接着,金属に対する接着,セラミックスに対する接着,硬質レジンに対する接着,を柱にしながら,接着阻害因子の除去など接着技法を成功させるための臨床上の要点についてまとめた.また,従来型のセメントも含めて各種接着性レジンの特徴とその使い分けについて多くのページを割いて解説した.そして,歯根破折を起こさないための支台築造,歯髄に対する接着性レジンの為害性,など臨床的に重要で興味のある点についても言及し,効率的な使用という点で接着剤の材料コストや保存環境についても付け加えた.
 テーマごとに短いページでまとめ,よくわからないところ,興味のあるところなどどこからでも読めるよう工夫し,臨床にすぐ参考になる症例を多数提示した.
 これらの全体の構成が,イラストや紙面構成によって理解しやすく親しみやすいものになっているのは,絵本作家の森野さかな氏によるところが大である.このことも本書にふさわしい斬新な特徴であると誇りをもっている.ぜひ,気軽に手にとっていただき,明日からの臨床にお役立ていただくことを願う次第である.
 最後に,「エナメル質へのレジン・タグ」,「樹脂含浸象牙質」の貴重な走査型電子顕微鏡写真をご提供いただいた東京医科歯科大学中林宣男教授に心から感謝を申しあげます.
 1999・3・10 高橋英登 遠山佳之
接着を日常の臨床に生かそう……3
接着の意義……3
    歯を削る,エナメル質が失われることに対して……4
    歯髄が除去されることに対して……5
    歯が動揺することに対して……6
接着剤,合着材になるための条件……7
よい接着剤ってなーに……7
    簡単にいうと……7
    くわしくいうと……7
    「ぬれ」が良いこと,固まること……7
    歯科医師の知識やテクニックも……8
接着と合着の違い(補綴物に対して)……9
くっつくのか,ひっかかってとめるのか……9
    簡単にいうと……9
    くわしくいうと……9
    接着とは化学的接着,合着とは機械的な嵌合……9
接着剤と合着材 その他の違い……11
溶けるの? 溶けにくいの? 安い? 高い?……11
    簡単にいうと……11
    くわしくいうと……11
    ベースの違い……11
    辺縁漏洩……12
    吸水性,唾液溶解性の違い……13
    材料のコストと保険点数……13
    樹脂含侵層の形成……14
    デリカシー……14
エナメル質への接着……15
だれもがやっても180kgf/cm2でくっつく?……15
    簡単にいうと……15
    くわしくいうと……16
    さらにくわしくいうと……16
象牙質への接着……17
むかしはくっつきにくかった相手だけれど……17
    簡単にいうと……17
    くわしくいうと……18
    教育機関によって考え方が異なっていた……18
    現在の考え方……18
    メーカーにより製品の構成は異なる……19
    さらにくわしくいうと……20
接着阻害因子の除去……21
これが接着操作の肝(きも)ですよ……21
    簡単にいうと……21
    くわしくいうと……21
    不純物を介しての接着はありえない……21
    なにを使ってどう除去するか……22
金属に対する接着……29
これが接着性モノマーの仕事……29
    簡単にいうと……29
    くわしくいうと……29
    金属へのレジンの接着機序……29
    金属補綴物の接着に際してわれわれができること……30
    口腔内の金属に対してわれわれができること……31
    キャスト・コアの場合……31
    前装冠のリペアーに際して……31
金属により強くレジンを接着させるには……32
つきにくい金属にはどうしたらつくの?……32
    簡単にいうと……32
    くわしくいうと……32
    スズ(錫)電析……33
    貴金属用メタル・プライマー……33
セラミックスに対する接着(陶材,キャスタブルセラミックなど)……37
シランカップリング剤ってなに?……37
    簡単にいうと……37
    くわしくいうと……37
    シランカップリング剤……38
    歯科用シランカップリング剤は……38
    シランカップリング剤の効果を向上させるには……39
    陶材へのレジンの接着機序……39
硬化したレジンに対する接着(硬質レジン・ジャケット・クラウンなど)……48
もっともくっつけにくい相手ですが……48
    簡単にいうと……48
    くわしくいうと……49
    レジンへの接着はもっともむずかしい……49
    発想の転換……49
接着性レジンにしかできないこと……58
新しい臨床のジャンルが広がります……58
    接着のみによって維持される補綴物の装着……58
    セラミックスの接着……58
    セラミックスは硬いがもろい……58
    接着補強効果とは……58
    接着による応力の分散……62
    前装冠のリペアー(修理)……63
接着性レジンの欠点……77
これがわかっていればこわくない……77
    テクニカル・エラー……77
    重合収縮……78
    コスト……78
    最終硬化までの時間……78
「自信がなければ接着性レジン」ではまずい……80
基本はしっかり守ること……80
    支台形態の重要性……80
    適合の良い補綴物……81
    離脱補綴物に対する接着性レジンの使用……81
従来型セメントの実績と信頼性……82
セメントは過去の遺物?……82
RMGI新登場(レジン・モディファイド・グラスアイオノマーセメント)……83
接着性レジンとアイオノマーの中間さ……83
    簡単にいうと……83
    くわしくいうと……83
スーパーボンドC&Bと他の接着性レジンの違い……86
やわらかいかかたいか……86
    接着性レジンのなかでスーパーボンドC&Bは特殊な存在……86
    硬化体の硬さ……86
    操作時間……87
    余剰接着剤の除去……88
    重合収縮量……89
    硬化体の吸水性……89
    操作法……90
    接着剤の色調……90
    接着剤の保存環境(材料による違い)……91
スーパーボンドと他の接着性レジンの使い分け……92
むき・ふむきを考えて……92
    咬合面に接着剤が露出する症例……92
    セラミックスの接着……93
    動揺歯の固定……94
    欠損部に人工歯を接着するブリッジ……94
    メタルボンドや硬質レジン前装冠のリペアー……94
    歯髄保護……94
    接着性レジンの硬化速度……95
接着性レジンの種類と特徴……98
特性を考えて選びましょう……98
    接着性レジン……98
    各種接着性レジンの特徴……98
    各種接着性レジンの使用法……103
歯根破折を起こさないための支台築造……111
歯根破折……いやですよね……111
    メタル・コアとレジン・コア……111
    コアを接着性レジンで接着する……113
歯髄に対する接着性レジンの為害性……114
直覆だってできちゃうぞ!……114
接着剤の保存環境……117
高価な接着剤 これで「もち」が違います……117
    簡単にいうと……117
    くわしくいうと……118
歯科材料の保存環境……118
    接着剤の保存環境……118

用語集……120