やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 かつて一時期,人類は感染症克服の目処がついたとの錯覚にとらわれたことがあった.それは感染症を得意とする医師の激減をもたらし,影響は今日にまで及んでいる.しかし近年における感染症の復権により,その誤りはいまや明白となり,医療関係者すべてがそれぞれの持ち場で感染症に対する認識を深め,正しく対応する能力を備えることが求められているといえる.
 本書および続巻『知っておきたい現代感染症事情2』は,そのような見地から,第一線の専門家の執筆による医療関係者のための手頃で最新の感染症読本として企画された.ただし教科書ではないので,取り上げる感染症の選択は決して網羅的ではないことをお断りしなくてはならない.微生物,すなわち細菌,ウイルス,真菌,原虫が引き起こす典型的な感染症が主体であるが,大形の寄生虫による疾患,さらには毒グモの話題にも触れられている.また両巻を合わせて全体の展望ができるように構成されている.
 本書および続巻の各項は,もともと歯科医師を主な読者とする雑誌『歯界展望』に1996年から1998年にかけて連載されたもので,今回の出版によりさらに多くの歯科医師が読んで下さることを期待する次第である.ただし内容は歯科医師に限らず,他の医療分野の関係者にも十分お役に立つものを備えているので,より広範囲の方々にも利用していただけるならば編者として望外である.
 1999年2月 中山宏明・多田 功・南嶋洋一
序章 感染症の復権
 現代の感染症
第一章 古くて新しい感染症
 ペスト
 STSSレンサ球菌性毒素性ショック症候群
 細菌性赤痢とその周辺
 コレラとその周辺
 抗酸菌感染症(結核・ほか)
 ツツガムシ病
 インフルエンザ
第二章 ニューフェイス感染症
 ヘリコバクター・ピロリ感染症
 レジオネラ症
 食品媒介性リステリア症
 ライム病
 腸管出血性大腸菌感染症
 新興原虫感染症−クリプトスポリジウム症サイクロスポーラ症
 ハンタウイルス感染症
第三章 日本にもあった感染症
 Q熱
 紅斑熱
 ネコひっかき病
第四章 抗生物質の限界?
 MRSA
 薬剤耐性の趨勢
 日和見真菌感染症
第五章 危険な砂場
 トキソプラズマ症とイヌ回虫症
 セアカゴケグモの教訓