やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 編者らが臼歯部の咬合力にも耐えられる新しい歯冠修復用材料を開発しようと考えたのは,1988年のことである.
 ちょうどこのころは,歯冠用硬質レジンが,加熱重合型から光重合型に変わり,レジンマトリックスに含有されるフィラーの改良,マトリックスとフィラーの結合の改良などが行われ,ようやく臨床における評価が定着しつつあるときであった.
 しかし,このような改良をもってしても臼歯部クラウンなどにも応用できる歯冠用レジンは存在していなかった.そこでわれわれは,メーカーとの共同研究により,従来の歯冠用レジンの欠点である耐摩耗性や破折強度の不十分さを克服し,また,セラミックスの欠点であるもろさや対合歯に比べて硬すぎるという双方の弱点を補うような材料の開発に努めたわけである.さらに,単に材料の開発にとどまらず,支台歯形態や合着法(接着技法)などの臨床課題から技工操作に至るまで,それぞれ臨床研究会・技工研究会をもち,編者らが共同研究を行った.
 このような視点から生まれたハイブリッドセラミックス(HC)は,これまでのセラミックスに比べ硬さの面ではよりマイルドに,弾性の点ではより破折しにくい材料である.このようなHCの特長を生かして臨床応用がなされるならば,臨床家にとってさまざまな不安を克服した処置が行えるばかりでなく,患者にとっても比較的安価に最新の材料による歯冠修復処置が受けられることと思う.
 本書は6章からなっている.読者それぞれの関心により「2章 臨床術式」あるいは,「3章 技工術式」から読み進んでいただきたい.また,臨床応用の実際に触れるならば,「4章 臨床応用例」から読んでいただいても結構である.通常,読者が感じられるような疑問に関しては,5章にQ&A形式でまとめてある.さらに基礎的な裏づけとして編者らの共同研究の内容を6章に概説した.参考にしていただければ幸いである.
 電気とガソリンで走るハイブリッドカーが注目されるような今日において,歯冠用硬質レジンとセラミックスのよいところを受け継いだHCが,今日の歯科医療のニーズに的確に応え,広く読者諸氏に受け入れられることを願うものである.とはいえ,どんな材料や歯冠修復法もすべてその時代のものであり,次世代へ受け継がれていくものである.大方のご批判を賜りながら,さらなる改良,開発に努めていく所存である.
 1998年9月10日 編集委員 横塚繁雄 内山洋一 川添尭彬 松浦智二
1章 ハイブリッドセラミックスの位置づけ
  ハイブリッドセラミックスとは何か……2
  ハイブリッドセラミックスの特徴……3
  ハイブリッドセラミックスの適応症……4
  配慮が必要な症例……6
2章 臨床術式……8
3章 技工術式
  クラウンフルカバレッジタイプ
   (1)コア法,コーン植立法……26
   (2)積層法……48
  前装タイプ……62
  ブリッジ……70
4章 臨床応用例
  ジャケットクラウン……78
  前装タイプ(クラウン)82
  ブリッジ……90
  インレー・アンレー94
  ラミネートベニア……106
  インプラント上部構造……116
  コーヌスクローネ……120
  接着ブリッジ……124
  前歯部接着ブリッジ……124
  臼歯部接着ブリッジ……127
5章 術後の変化とその対応-Q&A-
 築盛技法……132
  Q 築盛技法の違いによってクラウンの適合性は影響を受けますか.
  Q クラウン装着後,表面の光沢が消失しないようにするにはどうしたらよいでしょうか.
 合着法(接着技法)133
  Q 合着においても接着は必要なのでしょうか.
  Q HCの被着面処理はどのようにしたらよいでしょうか.
  Q 接着性を向上させるための支台歯の処理はどのようにしたらよいでしょうか.
  Q 接着性レジンと合着用セメントのシステムは,一言でいうとどのように違うのですか.
 研磨法……136
  Q HCエステニアの研磨方法は,他の歯冠修復物と比較してどんな違いがあるのですか.
 修復物および対合歯の摩耗について……318
  Q HCエステニアは従来のコンポジットレジンやポーセレンと比較して,歯冠修復物や対合歯の摩耗の程度はどのように違うのでしょうか.
 破折について……140
  Q HCエステニア修復物の破折の頻度はどのくらいでしょうか.また,その原因と対策について教えてください.
 リペアー……142
  Q HCエステニアのリペアーは可能でしょうか.また,どのようにすればよいでしょうか.
 口腔粘膜に対する影響……146
  Q HCエステニアの口腔粘膜への為害作用はあるのでしょうか.
 内面の適合性……147
  Q HCエステニアは重合収縮すると聞きましたが,内面の適合性は臨床上十分なものといえるでしょうか.
6章 マテリアルリサーチ
  材料の構成成分と物理的性質……150
  支台歯形態……152
  支台歯形成……154
  寸法精度……158
  色調再現性……162
  耐摩耗性と光沢性……166
  CAD/CAMへの応用……168

文献……172
索引……173