やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 摂食・嚥下障害に対する医療領域は,わが国で認められるようになって日が浅く,まだ普遍化していないため,多くの医療関係者は対応に苦慮しているのが実状である.このような状況は,ほとんどの先進諸国においても同様であり,そのニーズの大きさにもかかわらず,系統的な医療対応は十分にはなされていないといえよう.
 摂食・嚥下障害への取り組みに関しては,特別の教育も研修も受けたことのない医療関係者が多い現状にありながら,関係する職種によっては訓練や指導を委ねられるという例も珍しくない.また,現在,多くの医療機関において,摂食・嚥下障害は,その機能に関与する器官の多さから,複数の医療専門領域の対象とされている.一方, 食べること が生きるための基本であり日常的な営みであることから,保健や福祉などの領域とのかかわりを必要とすることも多く,医療における対応のみでは限界がある.
 最近では,社会的にも医療や介護のあり方がこれまでになく注目され,かつ,摂食・嚥下障害の対応が可能であることが理解されるに伴い,それぞれの専門領域で,摂食・嚥下に関する基礎知識ならびに,有用な診断(評価)法の開発や効果的な治療(訓練)手技などが強く求められてきている.
 そこで,このような大きな期待に,少しでも応えることができればとの願いから企画されたのが本書である.
 本書は,摂食・嚥下リハビリテーションという新しい視点で,摂食・嚥下に関する学究的な裏づけと,臨床技術の両面にわたってまとめたはじめての手引き書であり,医師,歯科医師をはじめ,摂食・嚥下障害にかかわる医療,保健,福祉領域の専門家および,それらを志す学生諸君や卒後教育のための指針となることをねらいとしている.
 本書のような乳幼児から高齢者までの摂食・嚥下に関する基礎と臨床を1冊にまとめた成書は,世界に類をみないと自負している.
 本書が生まれるまでには,摂食・嚥下障害に対する貴重な臨床や研究があり,そこから学ばせていただいたことが基盤となっていることはいうまでもない.これらの多くの摂食・嚥下障害に取り組んでこられた方々に感謝するとともに,本書が摂食・嚥下リハビリテーションに関心をよせられる読者諸氏のお役に立てることを願って,序とさせていただく.
 なお,なにぶんにも新たなテーマであり,また執筆者も多領域にわたるため,重複する箇所,内容や用語の整備など,いたらない面も多々あるかと思われる.今後,読者のご叱正ならびにご批判を賜れば幸いである.
 最後に,本書の出版にあたり,執筆に快く協力していただいた著者の先生方に心から御礼申し上げるとともに,多大なご助力をいただいた医歯薬出版株式会社に深謝する次第である.
 1998年8月 監修者・編集委員一同
I 序説
II 基礎編
 はじめに
 摂食・嚥下にかかわる形態的特徴
 摂食・嚥下のメカニズムム
 摂食・嚥下と口腔保健
 ライフサイクルからみた摂食・嚥下機能
 摂食・嚥下障害とは
III 臨床編
 はじめに
 摂食・嚥下障害における検査
 摂食・嚥下機能の発達障害への対応
 摂食・嚥下機能の中途障害者への対応
 摂食・嚥下機能の減退(高齢者)への対応
 摂食・嚥下障害患者の看護
 摂食・嚥下障害者の口腔保健
 摂食・嚥下障害者の栄養・調理
IV 地域における実践例
 開業医における摂食・嚥下障害への対応
 在宅・地域医療における耳鼻咽喉科の役割
 訪問看護ステーションにおける摂食・嚥下障害への対応
 開業歯科医における中途障害者の摂食・嚥下障害への対応
 開業歯科医における寝たきり老人の摂食・嚥下障害への対応
 心身障害児(者)の摂食・嚥下障害への対応
 要介護高齢者の摂食・嚥下障害と口腔保健