やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 1989年(平成元年)に故滝本和男先生監修の「歯科矯正臨床シリーズ」全4巻が絶版となり,在庫も僅少と聞かされていたころから,折角の本を何とか残したいとの声に支えられて,第1巻「反対咬合 その基礎と臨床(1976年刊)」の再刊を考えていた.幸い医歯薬出版(株)の協力が得られたので,賛意を示してくださった方がたの意見を承って,すでに20年近くが経過していることでもあり,新しい企画単行本として構想を練り直し,執筆陣を新たに,最近のトピックを取り入れて内容をさらに充実させ,書名も新たに「臨床 反対咬合」として刊行することになった.
 編纂にあたっては,臨床との結びつきを主軸に,時代の流れにそって文字は少なめに平易な文章で記述し,図や写真を増やしてビジュアルな理解しやすい本づくりを目指したが,基本的には前版を踏襲して,反対咬合に関連する基礎的事項を整理,解説し,さらに診断と治療に必要な臨床上の知識を体系づけて「第1編 反対咬合とは」,「第2編 診査」および「第3編 治療」の3部構成とした.また,詳細な「索引」を付して読者の便に供した.
 執筆は大阪大学歯学部歯科矯正学教室および金沢医科大学矯正歯科学教室の現・旧教室員の方がたにお願いした.熟達の臨床医あるいは気鋭の大学人として多忙ななか,各分担担当者がそれぞれ簡潔を心がけて執筆してくださったことを感謝している.また,編者のほうで本書全般を通してできるだけ用語,文体などの統一をはかったが,編者が菲才であるだけに誤った記述があるかも知れないし,不備な点も多々あると思われる.読者各位のご教示とご叱正を切望して止まない.
 また,主として前版発行の1976年以降に発表された国内外の関連論文を整理,分類して巻末に「反対咬合に関する文献」として掲載した.編者の知り得た狭い範囲の文献渉猟に留まり,なお多くの貴重な論文の収録が欠落していることが指摘されようが,あわせて,本書が矯正歯科,小児歯科,一般歯科など幅広い分野の方がたの臨床のマニュアルあるいは勉学のガイドブックとしてお役に立てばと願っている.
 本書の上梓にあたって,20年の歳月を隔てて,またまた浅井保彦,清水敏郎両先生ならびに医歯薬出版(株)から絶大なご支援をいただいた.深甚の謝意を表するとともに,その巡り合いを心から有り難いと思っている.
 1997年(平成9年)4月18日 須佐美隆三
1編 反対咬合とは
1章 反対咬合という用語 須佐美隆三……3
   1.受け口の語義……3
   2.学術用語[反対咬合]……3
   3.反対咬合と[下顎前突]……4
   4.前歯反対対咬の取り扱い……4
   5.[切縁咬合]の性格……5
2章 反対咬合患者の実態 須佐美隆三……6
   1.反対咬合の疫学……6
   2.反対咬合患者の来院……7
   3.反対咬合患者の心理……9
3章 反対咬合の分類 須佐美隆三……11
   1.アングルI級とアングルIII級の反対咬合……11
   2.スケレタル1とスケレタル3の反対咬合……12
   3.骨格性III級と機能性III級の反対咬合……12
   4.骨格性III級反対咬合のタイプ分け……13
   5.ロングフェイスとショートフェイス……14
4章 反対咬合の成因 高田保之……6
   1.反対咬合の遺伝……17
   2.乳歯齲蝕と反対咬合……22
   3.口呼吸などの機能的な問題……23
   4.反対咬合をもたらす先天異常……25
5章 反対咬合の形態 川上正良……29
   1.反対咬合者の顎顔面形態の成長変化……29
    頭蓋底部……29
    上顎部……29
    下顎骨……30
    上下顎前歯歯軸傾斜度……32
   2.下顎前突症の形態的特徴……33
    頭蓋底前後径の大きさと頭蓋底角……34
    上顎骨の大きさと前頭蓋底に対する位置……34
    下顎骨の大きさと前頭蓋底に対する位置……35
    下顎角,下顎下縁平面角……36
    下顎結合部の形態……36
    上下顎前歯の歯軸傾斜……37
   3.顎顔面成長予測の現状……37
    相対成長……38
    骨年齢,骨成熟度……39
    親子類似性……41
 V isual Treatment Objective(V.T.O.)……41
6章 矯正歯科臨床と思春期 須佐美隆三……45
   1.思春期の定義……45
   2.思春期の身体発育……46
    年代差……46
    地域差・社会階層差……47
    性差……47
    個体差……47
   3.体型と思春期成長……48
   4.身体発育の評価……48
   5.思春期身体成熟の指標……49
   6.顎顔面頭蓋の思春期成長……52

2編 診査
7章 反対咬合症例の診断プロセス 須佐美隆三,和田清聡……57
   1.初診から治療開始に至る流れ……57
   2.主訴の確認……58
   3.治療概要の説明……58
   4.診断・治療方針のたて方……59
8章 反対咬合症例の一般的・臨床的診査法 須佐美隆三,中川 真……60
   1.一般的診査……60
    問診・調査用紙の記入……60
    全身診査・全身発育の記録……61
   2.臨床的診査……61
    顔貌診査……61
    口腔内診査……62
    口唇・舌の診査……64
    下顎運動の診査……65
   3.診断資料の採得……65
9章 反対咬合症例の模型分析法 中川浩一……69
   1.口腔模型観察の要点……69
   2.口腔模型の計測および分析法……70
    Howesの口腔模型分析法……70
    Boltonのツースサイズレイシオの分析法……71
    Proffitのスペース分析法……71
    未萌出側方歯歯冠幅径の予測……71
10章 頭部X線規格写真による反対咬合症例の形態分析法 武内健二郎……74
   1.Steiner分析法……74
   2.Harvold分析法とMcNamara分析法……75
   3.Ricketts分析法―10項目による概要分析……77
   4.Ricketts分析法―内部構造分析……80
   5.軟組織側貌の分析法……81
11章 反対咬合症例の機能分析法 香林正治……83
   1.顎口腔機能検査の現状……83
   2.筋電図検査……84
   3.下顎前歯運動路検査……86
   4.下顎頭運動路検査……87
   5.咬合接触検査……87
   6.咬合力検査……88
   7.咀嚼能率検査……89
   8.咬合音検査……89
   9.顎関節雑音検査……90
   10.パラトグラム検査……90
   11.その他……91
12章 顎機能異常の臨床的診査法 清水敏郎……93
   1.矯正歯科臨床と顎機能異常……93
   2.不正咬合と顎関節症……94
   3.顎機能異常の診査法……95
    問診……96
    臨床診査……96
   4.顎機能異常の治療法……104
13章 反対咬合症例の鑑別診断 須佐美隆三……108
   1.反対咬合治療の難易度判定……108
   2.治療開始時の患者の年齢……109
   3.機能性と骨格性の反対咬合―下顎の前方変位の鑑別―110
   4.臼歯部交叉咬合を伴う反対咬合―下顎の側方偏位の診査―113
   5.反対咬合治療における抜歯……114
   6.反対咬合症例の治療方針……115

3編 治療
14章 反対咬合の治療開始時期 山本照子……119
   1.反対咬合の自然治癒……119
    自然治癒の頻度と時期……119
    自然治癒をもたらす要因……120
    自然治癒しやすい反対咬合の特徴……121
   2.不正咬合の治療開始時期についての諸見解……121
   3.反対咬合の治療開始時期……122
15章 反対咬合の治療計画のたて方 山本照子……124
   1.乳歯咬合完成前および乳歯列期の治療計画……124
    反対咬合……125
    交叉咬合……125
    骨格型の異常……126
   2.前期混合歯列期の治療計画……126
    反対咬合……126
    交叉咬合……127
    骨格型の異常……128
   3.後期混合歯列期から前期永久歯列期の治療計画……130
    骨格型の異常に対する歯槽型の代償……130
    抜歯による治療……130
    交叉咬合……131
    骨格性反対咬合……132
   4.永久歯列期(成人期)の治療計画……132
    マイナーツースムーブメント……133
    交叉咬合……133
    外科的矯正歯科治療……134
16章 前歯反対咬合の治療 山本照子……137
   1.唇舌側弧線装置……137
    舌側弧線装置……137
    顎間固定法……140
   2.床矯正装置……142
   3.切歯斜面板……144
17章 機能的矯正装置による反対咬合の治療 平木建史……147
   1.アクチベーター……147
    装置の構造……147
    構成咬合採得法……148
    誘導面形成……148
    適応症と禁忌症……148
    アクチベーターの使用機序に関する最近の見解……151
    症例……152
   2.バイオネーター……153
    作用機序……153
    装置の構造……153
    構成咬合採得法……154
   3.ファンクションレギュレーター……154
    作用機序……154
    装置の構造……155
    構成咬合採得法……156
18章 臼歯部交叉咬合を伴う反対咬合の治療―上顎側方拡大法の応用― 北井則行……157
   1.臼歯部交叉咬合の原因……157
   2.上顎側方拡大法の適応症……158
    適応症……158
    非適応症……158
   3.上顎側方拡大法の分類……158
    急速拡大法と緩徐拡大法……158
    固定式拡大法と可撤式拡大法……159
    両側性拡大法と片側性拡大法……159
   4.上顎側方拡大装置の種類……160
    急速拡大装置……160
    可撤式拡大床……161
    クオドヘリックス装置……162
    舌側弧線装置……163
   5.上顎側方拡大法の適用時期……163
   6.上顎側方拡大後の保定……164
19章 顎整形力に対する顎顔面頭蓋の生体反応……166
 19-1.下顎後方牽引力に対する下顎骨の生体力学的反応 丹根一夫……166
   1.機械的負荷に対する骨の生体力学的反応……166
   2.オトガイ帽装置による顎整形力を加えた場合の下顎骨の生体力学的変化……167
    下顎骨における変化……167
    下顎頭における変化……169
    顎関節部に加わる負荷と顎関節症との関連性……169
   3.オトガイ帽装置応用に伴う下顎骨の形態変化……170
 19-2.上顎前方牽引力に対する頭蓋顔面複合体の生体力学的反応 丹根一夫……173
   1.上顎前方牽引装置による顎整形力に対する鼻上顎複合体の生体力学的反応……173
    上顎第一大臼歯より牽引した場合……173
    上顎犬歯より牽引した場合……177
   2.鼻上顎複合体の抵抗中心の位置と生体力学的反応……178
20章 骨格性反対咬合の顎整形治療……181
 20-1.オトガイ帽装置による反対咬合の治療 須佐美隆三,小澤恭博……181
   1.オトガイ帽装置の構造と使用時の留意点……181
   2.スライディングプレートの併用……182
   3.オトガイ帽装置の適応症……183
   4.機能性反対咬合症例に対するオトガイ帽装置の応用……185
   5.骨格性反対咬合症例に対するオトガイ帽装置の応用……186
   6.オトガイ帽装置の顎整形効果……187
 20-2.上顎前方牽引法による骨格性反対咬合の治療 須佐美隆三,清水敏郎……189
   1.上顎前方牽引装置の応用法……189
    上顎前方牽引装置の構造……189
    牽引力の大きさと牽引方向……190
   2.上顎前方牽引法の適応症……191
   3.上顎前方牽引法の顎整形効果……192
   4.上顎前方牽引法の応用時期……192
   5.上顎前方牽引法応用症例……194
    症例1……194
    症例2……195
21章 マルチブラケット法による骨格性反対咬合の治療 浅井保彦……197
   1.マルチブラケット法の進展……197
   2.骨格性反対咬合とマルチブラケット法……200
    前期混合歯列期における治療……200
    永久歯列期における治療……200
    動的治療後の安定性……202
   3.臨床例―開咬と下顎の偏位を伴う下顎前突症例……202
22章 成長期における骨格性反対咬合の治療 黒田康子……210
   1.成長期反対咬合の治療……210
   2.混合歯列期の骨格性反対咬合の治療……211
    臨床例……211
    混合歯列期治療のまとめ……217
   3.永久歯列期の骨格性反対咬合の治療……218
    臨床例……218
    永久歯列期治療のまとめ……223
23章 成人期における骨格性反対咬合の治療 大西 馨……225
   1.成人期骨格性反対咬合治療における抜歯……225
   2.臨床例……225
    症例1:77
    抜去により治療を行った交叉咬合を伴う骨格性反対咬合症例……225
    症例2:66
    抜去により治療を行った開咬を伴う下顎前突症症例……234
   3.成人期治療のまとめ……241
24章 下顎前突症の外科的矯正治療 吉田建美……243
   1.適応症……243
   2.診断,治療方針の決定に際して……244
    診断資料……244
    骨格性下顎前突症の分類……245
    頭部X線規格写真分析のポイント……246
   3.外科的矯正治療とチームアプローチ……247
   4.外科的矯正治療の具体的な進め方……247
   5.外科手術術式……248
   6.手術後の顎骨の固定法……251
   7.続発症……251
   8.臨床例……252
25章 反対咬合の治療と顎関節症 丹根一夫……260
   1.顎関節症の分類と病態……260
   2.顎関節症の臨床診査……261
   3.顎関節症の画像検査……262
    同時多層断層X線写真……262
    磁気共鳴映像法……263
   4.反対咬合の治療と顎関節症の関わり……264
    症例1……264
    症例2……268
26章 反対咬合治療の術後経過 丹根一夫……273
   1.反対咬合者顎顔面形態の経年的変化……273
   2.術後経過の良否に関与する要因……279
   3.反対咬合の保定……279

件名索引……281
人名索引……293
反対咬合に関する文献……295