やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序 文

 自分が施術したメタルボンドや硬質レジン前装冠の破折・破損によって困った経験をもつ臨床家は決して少なくはないと思われる.それが多数歯にわたるブリッジであったりしたら,泣くに泣けないような気持ちにさせられたうえ,万が一,患者との信頼関係を損ねるようなことにでもなれば,それこそ一大事であろう.
 こうした際,補綴物を除去してやり直すことは,患者にとっても術者にとっても苦痛なことであり,リペアーを行う場合に,過去のように単にレジンを築盛するだけでは耐久性に欠け,暫間的な修復の域を出なかったのも事実である.近年,シランカップリング剤の臨床への応用をはじめ,種々の材料の開発・改良による,接着歯学の進歩とその臨床成果には目をみはるものがある.こうした最新の接着歯学を導入することによりはじめて,真の意味で臨床に耐えうるポーセレン,硬質レジンのリペアーテクニックが可能になったといっても過言ではあるまい.
 本書は,メタルボンド,硬質レジン前装冠の,もしもの場合の破折・破損に対処するためのリペアーテクニックをわかりやすく解説した臨床の実践書である.本書によって得られた知識,技術は,オールセラミックスクラウン,ポーセレンラミネートベニアのリペアーにも応用が可能である.メタルボンド,硬質レジン前装冠ともに破折片のある例とない例に大きく分け,さらにそれぞれを破折の界面のパターンに応じたリペアー法について解説し,参考になるよう実際の臨床例も掲載した.
 「リペアーテクニックの実際」の章のメタルボンド,硬質レジン前装冠のそれぞれの冒頭には「リペアーパターン早見表」を付して,該当するページはどこかすぐにわかる仕組みになっている.また,口腔内の操作と口腔外の操作は写真の枠の色を変えることにより臨床テクニックも修得しやすいように工夫した.さらに,リペアーに関しての基礎知識や用語集を付して臨床のバックボーンをしっかり理解いただくためのページ,また「リペアーによって算定できる保険点数」も設けて読者のニーズに極力応えるように編集した.
 本来,一度セットされた補綴物・修復物は,リペアーすることなくその目的をまっとうすることが望ましいのはいうまでもない.しかしながらもしもに際して,患者,術者双方の利益のために,リペアーテクニックはぜひとも修得しておかなければならない技術であることも確かである.本書がその一助になれば幸いに思う次第である.
 1995年10月20日 高橋英登 遠山佳之
リペアーの前に
 はじめに 2
 新たに製作するかリペアーするか 3
 なぜ壊れたのか 4
 患者への説明のしかた 6
リペアーに必要な知識
 リペアーでは何と何を接着するのか 8
 破折片を使用するか 9
 接着阻害因子の除去 11
 シランカップリング剤とは 12
 ポーセレンとレジンの接着機序 15
 硬質レジンとレジンの接着機序 16
 金属面のリテンション構造を残すか,削除するか 17
 金属に,より強くレジンを接着させるには(金属の表面処理) 18
 金属とレジンの接着機序 20
 ぬれ 20
 スーパーボンドC&Bの使用法 21
 低粘度レジンとは 23
 歯冠用硬質レジンの築盛法 24
 研磨 27
 リペアーに使用する材料一覧 27
リペアーテクニックの実際
 メタルボンドのリペアー 34
破折片を接着すれば満足な審美性が得られそうな場合
 ポーセレン層内での破折 35
 破折面に金属とポーセレンの両方が露出している場合 38
 ポーセレン全体が金属から脱離した場合 43
破折片を使用しない場合
 ポーセレン層内での破折 48
 破折面に金属とポーセレンの両方が露出している場合 55
ポーセレン全体が金属から脱離した場合
 口腔内で前装部を製作 59
 口腔外で前装部を製作 62
 硬質レジン前装冠のリペアー 66
破折片を接着すれば満足な審美性が得られそうな場合
 硬質レジン層内での破折 67
 破折面に金属と硬質レジンの両方が露出している場合 70
 硬質レジン全体が金属から脱離した場合 78
破折片を使用しない場合
 硬質レジン層内での破折 81
 破折面に金属と硬質レジンの両方が露出している場合 86
硬質レジン全体が金属から脱離した場合
 口腔内で前装部を製作 92
 口腔外で前装部を製作 96
 リペアー 失敗の原因と対策…100
 リペアーのQ&A 106
 リペアー 用語集 112

参考文献 118
付:リペアーによって算定可能な保険点数 120